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yoshikiさん

面白い作品を知り、自分でも書いて見たくなって何年も経ちました。よろしくお願いします。 2010年 小説現代S&Sコーナーに初めて送った作品が掲載されました。作品名『幽霊の見える眼鏡』 とにかく面白いものが書いていけるといいなと思っています。 イラストはエアブラシと面相筆で昔描いたものです。

性別 男性
将来の夢 楽隠居
座右の銘 不可思議はつねに美しい、どのような不可思議も美しい、それどころか不可思議のほかに美しいものはない。アンドレブルトン

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仕組まれた未来

14/08/10 コンテスト(テーマ):第六十二回コンテスト 【 未来 】 コメント:4件 yoshiki 閲覧数:978

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 シグマ博士は長年の研究の末、ついにタイムマシンを完成させた。というより、正確に言えば時空連鎖帯の発見こそが重大で、そのループする管丈の時間軸を素粒子と化して自由に移動できる乗り物は意外に簡単に出来上がった。
 この偉大なる発明が後世にどれほどの影響を与えるか計り知れない。いや、もうこの時点で運命の変更も可能なのだろう。少なくとも博士はこう考えていた。シグマ博士はマシンの研究で世間に知られてはいたが、今まで全く世の中に受け入れられず、ただの頭の可笑しな、うだつの上がらない偏執狂としか見られていなかった。
 なぜなら、それまでにロマン主義の夢想家たちが、時間旅行の物語を数多く創作してきたがそれは単なる空想、或いは過去へのノスタルジーでしかなく、背理法によってそのことごとくが否定されてきたからだ。その論法は時間旅行の夢を完全に打ち砕いてしまった。
 例えば、もしタイムマシンが未来に存在するのなら、なぜ我々は今まで一度も未来人に出くわさないのか? また時間旅行が本当に可能ならば、必ず物好きな誰かが過去の人物、すなわちアダムとイブを殺してしまうだろうから、今の我々は存在しないことになる、だから我々が存在している以上時間旅行があり得ない事の証明をしているとか……。また、タイムマシンのスイッチは過去に戻ったと同時にリセットされてスイッチボタンは決して押されないはずだ。とか、多数……。
 遵って唯一可能なのはウラシマ効果やコールドスリープを通しての時間旅行であった。しかし今後は事情が違う。博士がこの真のマシンを完成させたからには世間を見返せるのだ。この偉大な研究成果を学会も世間も認めないわけにはいかないだろう。

 シグマ博士は自分がノーベル物理学賞を押しいただく輝かしい未来を想像した。そしてその光景をちょっとだけ見たいと考えた。それはちょうど美味しそうなデコレーションケーキを目の前にして、食いしん坊の女の子が小指でほんの少し生クリームの味見をしてみたい衝動に似ていた。博士は躊躇もせず、まるで何かつかれたようにタイムマシンに乗り込み、おおよそ一か月後に目盛りを合わせてスイッチを押した。
 博士が幾分の眩暈を我慢して未来に降り立つと、部屋の様子は殆んど変わってはいなかった。ただ、大きな声で怒鳴る声が研究室の窓から飛び込んできたので何事かと思い、顔を出して見ると、街頭でのっぽの男が声を張り上げながら通行人にチラシのような物を配っている。
 変な胸騒ぎを覚えたシグマ博士がそこに行きそれを手に取ると、それは号外で『シグマ博士死す』という記事が一面に踊っていた。

 食い入るように目を凝らし、記事の詳細を読むと『7月30日午前8時ごろシグマ博士は世紀の珍発明タイムマシン搭乗中、爆死した』とある。
 しばらく呆然と考え込んでしまったシグマ博士であったが、自分がもう死んでしまったなどとは受け入れ難い事態だった。そしてまたこの文面が博士をおおいに憤慨させた。
 ――今世紀最大の発明を珍とはどういう事だ。タイムマシンを馬鹿にするにも程がある。まあ、それはまだいいとしてノーベル賞はどうなるんだ。自分が死んだら受賞の夢は消えてしまう。
 博士は悲しい思いに囚われた。どうしたらよいのか。マシンを起動させたのは6月30日のことだ。そして博士が爆死するのは7月30日午前8時ごろとある。それならば爆発の前日あたりに戻り、爆発の原因を徹底的に調べ、事故を未然に防げばいい。それしかないだろう。
 シグマ博士は急いで現在時刻を確認すると7月30日午後5時である。
「私には運命さえ変更可能なのだ!」
 博士はそう叫んで直ちにマシンに乗り込んで起動スイッチを入れた。目的の時空連鎖帯は7月29日。眩暈がして一瞬意識が霞む。その時である。マシンの内部にキーンという不吉な音がこだました。それは博士自身が備え付けたマシンの異常警報であった。
 なにがなんだかわからず動転するシグマ博士。気がつけば心臓部の光子エンジンに亀裂が入り、見る見る広がっていく。危険を察知して博士はマシンを止めようとしたが、時空連鎖帯は軋んだ恐竜の叫びに似た悲鳴を上げ、完全にマシンが静止したのが7月30日午前8時03分。そしてマシンは光に包まれた。
  
  *  *

 大きな声で怒鳴る声が窓から飛び込んできた。シグマ博士婦人は何事かと思い、研究室の窓から顔を出して見ると、街頭でのっぽの男が声を張り上げながら通行人にチラシのような物を配っている。変な胸騒ぎを覚えた婦人がそこに行きそれを手に取って言葉を失った。
 それは号外で『シグマ博士タイムマシン搭乗中事故死する』という記事が一面に大きく踊っていた……。

                        end




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このストーリーに関するコメント

14/09/08 yoshiki

SEIRAさん。初めまして。コメントありがとうございました。

未熟者のものをお読みいただきありがたく思います。

SEIRAさんのものも拝読させていただきたいと思います。SF好きより

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