登録済みのコンテスト数:コンテスト298件 登録済みの作品数:ストーリー10692件
0
14/08/10 コンテスト(テーマ):第六十二回コンテスト 【 未来 】 コメント:0件 たつみ 閲覧数:822
この作品を評価する
カチャッ。通話は途切れた。電話で突然、僕の夢の話しを信じて下さい、と高校生の俺が言ったところで、テレビ局の人がまともに取り合ってくれるはずがない。「やっぱりだめだ」携帯電話を放り投げ、ベッドに横になった。「どうするつもり?」勉強机の椅子に腰かけ、電話を聞いていた千夏の声が聞えてくる。「どうするも何も、信じてもらえないんだ。どうにもできないよ」投げ捨てるように言葉を返した。「でも、信じてもらう。どんなことをしても。そうでしょ」「だけど……夢の話しなんて誰が信じるっていうんだよ」「私は」、強い口調に引き付けられるように視線を向けると、真直ぐな眼差しが俺の目を捉えている。「信じた」俺は唇を噛みしめ、視線を逸らした。自分でも信じられなかったことなのに信じてくれる人がいる。何か言葉にしたら、涙が一緒にでちまう。最初に予知夢≠ニいわれるものを見たのは一カ月くらい前だった。ゲリラ豪雨で道が冠水し、マイクロバスの中に俺達バスケ部が数時間閉じ込められるという夢だった。それは翌朝になっても鮮明に脳裏に残っていた。その夢が二日後に現実のものとなった。そして、一週間後、また朝になっても鮮明に残る夢を見た。川遊びをしていた子供二人が溺れ亡くなってしまうというニュース映像と新聞記事。それとまったく同じものを三日後、目にすることとなった。三度目は豪雨で土砂崩れが発生し、多くの犠牲者がでてしまう大災害だった。その災害が起こることも夢で二日前には知っていた。場所や日時もニュースや新聞記事の映像で分かっていたのに、俺は何も……できなかった。いや、しなかった。災害の翌日、助けを求めるように隣の家のインターフォンを押していた。「信ちゃん。私、夢の話しを聞いた時、最初はバカにしながらちゃかしたよね。だけど信じた。何故だか分かる?」俺は口を結んだまま、視線を向けた。「私が知る信司って男は、ちっちゃい頃からお調子者でいい加減なヤツだったけど、絶対に嘘は言わなかった。そして、誰よりも優しく熱い――」、親指を立てた千夏が自分の胸を差し「ここを持ってるヤツだった。そうだよね」俺はまた唇を噛みしめた――ばかやろう。「信ちゃん。必死に訴えたら言葉は届くよ」「……お前だから……だよ」絞り出した言葉を優しい声が受け止めてくれる。「そうかもしれない。だけど、みんなにも絶対に届けなくちゃ。信ちゃんの夢は未来からのSOSなんだよ」未来からの……SOS。俺は体を起こした。向けた視線の先に真剣な眼差しと力強い声が、「助けられる命を見捨てるわけにはいかない。そうでしょ、唐川信司!」俺はしっかりと頷いた。テレビ情報番組のお天気コーナー、中継場所に多くの人が集まり、お天気おねえさんの後ろに人垣ができている。俺と千夏はその最前列にいる。テレビカメラがおねえさんを捉えている。ディレクターらしき男がカウントダウンを始めた。体が強張る。横の空気が揺れた。千夏が、しゃべりだしたおねえさんの前に飛びだし、紙を大きく広げ、そこにある文字を叫んだ。「明後日の九月一日、B県で大地震が起きます。大津波が襲ってきます」ここに来る時、俺は千夏に言った――あの夢は偶然が重なっただけかもしれない。だから、今度はただの夢ってこともありえる。すると、千夏は二コリと微笑んで――ただ夢のならそれでよし。バカな高校生が騒ぎを起こしたって笑われるだけ。問題なし。でしょ。だよな。俺も飛びだし、カメラに向かって紙を掲げて叫んだ。「津波は堤防を越えて襲ってきます。とにかく高い所に避難を。九月一日午後二時に――」言葉の途中で体が後ろに引っ張られた。両腕を警備員に掴まれている。千夏はスタッフらしき男に腕を取られている。それでも必死に訴えている。千夏の言葉が頭をよぎる――とにかく必死に訴えよう。心から叫べば誰かの胸に届く。届かずとも、私たちの姿が話題になって、ネットにでも取り上げられれば、何かが変わる。きっと。俺は引きずられながらも伝えたい思いを必死に叫び続けた。「九月一日! B県! 地震! 津波! 逃げろ!」テレビ局の警備員室に親も呼ばれ、こっぴどく叱られた。だが、高校生ということで厳重注意で済んだ。家に帰ってからも、両親が怒るわ、泣くわで大変だったが、なんとか夜中には解放された。眠れぬ夜を過ごした早朝、千夏から電話があった。「今からB県に行くよ」「……」戸惑いから言葉に詰まる。「やれることは全てやろう」思いのこもった言葉に、返す言葉はひとつ、「よしっ、行こう!」 ★未来からメッセッジーが届いてくれればと思うことがある。だけど、届いてはくれない。ならば、悲しき辛い過去を思い、忘れることなく活かしていきたい。 未来のために
コメントの投稿するにはログインしてください。コメントを入力してください。
カチャッ。通話は途切れた。
電話で突然、僕の夢の話しを信じて下さい、と高校生の俺が言ったところで、テレビ局の人がまともに取り合ってくれるはずがない。
「やっぱりだめだ」
携帯電話を放り投げ、ベッドに横になった。
「どうするつもり?」
勉強机の椅子に腰かけ、電話を聞いていた千夏の声が聞えてくる。
「どうするも何も、信じてもらえないんだ。どうにもできないよ」
投げ捨てるように言葉を返した。
「でも、信じてもらう。どんなことをしても。そうでしょ」
「だけど……夢の話しなんて誰が信じるっていうんだよ」
「私は」、強い口調に引き付けられるように視線を向けると、真直ぐな眼差しが俺の目を捉えている。
「信じた」
俺は唇を噛みしめ、視線を逸らした。
自分でも信じられなかったことなのに信じてくれる人がいる。
何か言葉にしたら、涙が一緒にでちまう。
最初に予知夢≠ニいわれるものを見たのは一カ月くらい前だった。
ゲリラ豪雨で道が冠水し、マイクロバスの中に俺達バスケ部が数時間閉じ込められるという夢だった。それは翌朝になっても鮮明に脳裏に残っていた。
その夢が二日後に現実のものとなった。
そして、一週間後、また朝になっても鮮明に残る夢を見た。
川遊びをしていた子供二人が溺れ亡くなってしまうというニュース映像と新聞記事。それとまったく同じものを三日後、目にすることとなった。
三度目は豪雨で土砂崩れが発生し、多くの犠牲者がでてしまう大災害だった。
その災害が起こることも夢で二日前には知っていた。場所や日時もニュースや新聞記事の映像で分かっていたのに、俺は何も……できなかった。いや、しなかった。
災害の翌日、助けを求めるように隣の家のインターフォンを押していた。
「信ちゃん。私、夢の話しを聞いた時、最初はバカにしながらちゃかしたよね。だけど信じた。何故だか分かる?」
俺は口を結んだまま、視線を向けた。
「私が知る信司って男は、ちっちゃい頃からお調子者でいい加減なヤツだったけど、絶対に嘘は言わなかった。そして、誰よりも優しく熱い――」、親指を立てた千夏が自分の胸を差し「ここを持ってるヤツだった。そうだよね」
俺はまた唇を噛みしめた――ばかやろう。
「信ちゃん。必死に訴えたら言葉は届くよ」
「……お前だから……だよ」
絞り出した言葉を優しい声が受け止めてくれる。「そうかもしれない。だけど、みんなにも絶対に届けなくちゃ。信ちゃんの夢は未来からのSOSなんだよ」
未来からの……SOS。
俺は体を起こした。向けた視線の先に真剣な眼差しと力強い声が、「助けられる命を見捨てるわけにはいかない。そうでしょ、唐川信司!」
俺はしっかりと頷いた。
テレビ情報番組のお天気コーナー、中継場所に多くの人が集まり、お天気おねえさんの後ろに人垣ができている。俺と千夏はその最前列にいる。
テレビカメラがおねえさんを捉えている。
ディレクターらしき男がカウントダウンを始めた。
体が強張る。
横の空気が揺れた。
千夏が、しゃべりだしたおねえさんの前に飛びだし、紙を大きく広げ、そこにある文字を叫んだ。
「明後日の九月一日、B県で大地震が起きます。大津波が襲ってきます」
ここに来る時、俺は千夏に言った――あの夢は偶然が重なっただけかもしれない。だから、今度はただの夢ってこともありえる。
すると、千夏は二コリと微笑んで――ただ夢のならそれでよし。バカな高校生が騒ぎを起こしたって笑われるだけ。問題なし。でしょ。
だよな。俺も飛びだし、カメラに向かって紙を掲げて叫んだ。
「津波は堤防を越えて襲ってきます。とにかく高い所に避難を。九月一日午後二時に――」
言葉の途中で体が後ろに引っ張られた。両腕を警備員に掴まれている。
千夏はスタッフらしき男に腕を取られている。それでも必死に訴えている。
千夏の言葉が頭をよぎる――とにかく必死に訴えよう。心から叫べば誰かの胸に届く。届かずとも、私たちの姿が話題になって、ネットにでも取り上げられれば、何かが変わる。きっと。
俺は引きずられながらも伝えたい思いを必死に叫び続けた。
「九月一日! B県! 地震! 津波! 逃げろ!」
テレビ局の警備員室に親も呼ばれ、こっぴどく叱られた。だが、高校生ということで厳重注意で済んだ。家に帰ってからも、両親が怒るわ、泣くわで大変だったが、なんとか夜中には解放された。
眠れぬ夜を過ごした早朝、千夏から電話があった。「今からB県に行くよ」
「……」戸惑いから言葉に詰まる。
「やれることは全てやろう」
思いのこもった言葉に、返す言葉はひとつ、「よしっ、行こう!」
★
未来からメッセッジーが届いてくれればと思うことがある。だけど、届いてはくれない。ならば、悲しき辛い過去を思い、忘れることなく活かしていきたい。
未来のために