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遥原永司さん

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娘の絵

14/08/09 コンテスト(テーマ):第六十二回コンテスト 【 未来 】 コメント:5件 遥原永司 閲覧数:1179

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 小学校の授業参観にきたシングルマザーのアキは、教室外の壁の前でしばしあっけにとられていた。
 娘の絵が右上の最も目立つところに貼ってあり、しかもそこには堂々「大賞」と書かれた金色のリボンまで付いている。
「サトミちゃんの絵、三年年の学年コンクールで大賞をとったんですよ」
 横から、担任である若い男性教員がうれしそうに声をかけてきた。
 それは『未来』という課題によって描かれたもので、海にかこまれた日本列島のなかに空き缶やらゴミ袋やらがめいっぱいつまっている、まるで日本そのものがゴミ捨て場か東京湾の夢の島になったかのような作品だった。
「あ、そうなんですか……」
 アキは微妙な笑顔で返事をした。
 授業参観がおわっての放課後、保護者会でも例の絵の話題になった。
「ほかの作品もすばらしいものばかりでした。ごらんになられたと思いますが、空飛ぶ未来の乗り物や、いろんな動物たちと暮らせる家、宇宙ステーション、たくさんの人たちが笑顔でいる地球……どれも子供らしい希望に満ちたものばかりです。しかし私はあえてあの絵を推しました。たしかに職員のなかでも反対の声はありましたが、あのように一面的でない考え方をほかの生徒たちにも広く知ってほしかったんです」
 担任の熱弁にほとんどの父兄が感心したようにうなずく。
「あの、でも子供らしい絵というのは、子供のときにしか描けないものですし、その、できれば今はそういった絵の方が……なんといいますか、子供らしい価値観といいますか……」
 と、ただひとり反論めいた発言をしたのは、他ならぬ母親のアキである。
「たしかに、おっしゃることもわかります。しかし大人びている、ということは、ただそれだけで切り捨ててしまうべきものではないと思うんです。いまある現実を見据えて、ああいう社会に対する鋭い視点を早くから持てること、形として表現できるということ、それもひとつの立派な個性だと考えています」
「はあ……」
「いいじゃないですか、サトミちゃんの絵、本当にすばらしいと思いますよ」
 と父兄らからも称賛され、アキはなんだかバツが悪そうに頭をさげた。
「ただいま――」
 帰宅してリビングに行くと、サトミは弟とテレビゲームをしている。
「おかえりなさあい」
「サトミ、あの……」
「ん、なぁに?」
「……ううん。なんでもない」
 サトミはちょっと小首をかしげると、またテレビのほうを向いた。
 姉弟そろっての背中、よくみる光景。
 その横のテーブル上に散乱するビールやジュースの空き缶、部屋のすみに放置されたふくらんだゴミ袋、林立する空のペットボトル、流しの洗いきれていない食器類――これらもあわせてごく日常的な光景である。
 アキは荷物を置くと、数カ月ぶりにそれらを片づけ始めた。


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このストーリーに関するコメント

14/08/09 クナリ

母親も子供も、ほとんど心理描写がされていないのがこの作品のいいところですね。
特に子供の内面がどんな状態なのか、非常に気になります(^^;)。

14/08/09 遥原永司

クナリさん感想ありがとうございます。
そうですね、なんとなくこんな形がふさわしいかなと思って淡々と書いた感じでした。
最後のサトミの描写に”無邪気な様子で”みたいな言葉を使おうかなとも考えたのですが(つまりサトミ自身は母に対してなんら責めるような意思はないという意味で)、もうここまできたらそこらへんも読者にゆだねて想像してもらえればいいかなと考えてやめました。なので内面がどうであるかにつきましては読んでいただいた方次第ということに一応なっております。

14/08/11 泡沫恋歌

遥原永司 様、拝読しました。

素直な気持ちで自分の家庭の情景を描いたかも知れない絵が、大人たちによって、
過大評価されてしまっている。

一番、戸惑っているのは母親のアキさんだったかも知れませんね。

ごく普通の日常を巧く表現されているなあーと感心させられました。

14/08/11 遥原永司

泡沫恋歌さん感想ありがとうございます。
おっしゃるとおり娘のサトミ的には本当に素直な気持ちで「このままゴミが溜まってったらこうなるだろうな」というのをダイナミックに描いただけなんですけどね・・・。そういう純粋さに隠された事情と、大人の誤解とがおもしろい皮肉になるかなと思って書いてみました。
アキはきちんとはしてませんが、でもこういったことで娘を責めるでもなく、とまどって改善しようとするあたりが人間らしくてきらいになれません。またこの日常は一部私自身にも重なるところがありますので、作品には自省の意味も若干込められていたりもします。

14/08/11 遥原永司

泡沫恋歌さん感想ありがとうございます。
おっしゃるとおり娘のサトミ的には本当に素直な気持ちで「このままゴミが溜まってったらこうなるだろうな」というのをダイナミックに描いただけなんですけどね・・・。そういう純粋さに隠された事情と、大人の誤解とがおもしろい皮肉になるかなと思って書いてみました。
アキはきちんとはしてませんが、でもこういったことで娘を責めるでもなく、とまどって改善しようとするあたりが人間らしくてきらいになれません。またこの日常は一部私自身にも重なるところがありますので、作品には自省の意味も若干込められていたりもします。

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