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とある錬金術師が売る未来

14/08/03 コンテスト(テーマ):第六十二回コンテスト 【 未来 】 コメント:0件 きまねこ 閲覧数:782

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「この瓶の中に入っているのは未来なのですよ」
親指程度しかない小瓶をこちらに突き出しながら、物憂げな表情で錬金術師の男はそう言った。
歳の頃にして40代前半。
長く伸ばした金髪を後ろで1本に結び、髪の色とよく合った金糸の刺繍が美しいローブを羽織った姿は幻想的ではあるのだが、どうにも私の眼には胡散臭いペテン師にしか映らない。
おそらく、古臭い丸眼鏡の奥にある気だるげな双眸と異常な猫背のせいだろう。
半纏を着たおじさんがこたつで丸まっているイメージがぴったりなくらい、まるで覇気がない。
こんなのが、かの有名な『未来を錬成する錬金術師』だとは。
渡されるままに小瓶を受け取り薄い硝子の中を覗き込めば、白に近い半透明の光が所在なさげにふわふわと浮き沈みを繰り返している。
ケセランパセランみたいだ。
そう言えばまだ私が小学生の頃だったか、ケセランパセランだと思っていたものが実はポプラの綿毛だと同級生に指摘されからかわれたことがあった。
「何言ってんですが、それはケセランパセランで間違いありませんよ」
何気なく語った昔話に、錬金術師はつまらなさそうに呟いた。
「これだから知識の乏しい人間には嫌いです」
だからこんな穴倉の様な所に住んでいるのだろうか。
面積にしてワンルーム程、木でできた円形の床を囲うように360度を囲む壁。
まるで、筒の中にでも入っているかのような気分だ。
そして、出入り口以外の壁は全て本棚になっていて、一冊分の隙間もなく一生で読み切れないような量の本がぎっしりと納まっている。
開かなくても難しいとひと目でわかる革製の本達。
背表紙には英語なのかその他の国の文字なのかわからない題名が軒を連ねている。
狭い。
ワンルーム程の面積とは言ったが、実際は本棚の奥行きのせいで随分と切り捨てられてしまっていて、錬金術師が使う机と道具類、あとは私の座る椅子があるだけで結構な圧迫感に包まれる。
限られた面積で大量の本を収納するためだろう、活動範囲に比べて天井がやたら高い。
そのせいか天井に電気はなく、机の上に置かれた1つのランプだけが狭い部屋の中を照らしていた。
温かい光はとても落ち着くが、読書をするにはあまり適していないように思う。
だから眼鏡なのだろうか?
そう考えると少しだけ愉快な気分になった。
「あなたの様な人間はたびたび僕の元を訪ねて来ますが、皆さん何を思って『未来』何かを買いに来るのでしょうか。安いものではないでしょう」
用途が全く想像できない金属製の機械を弄くり回していた錬金術師が急に話しかけてきたことに驚いて、危うく小瓶を落としそうになる。
「どうして、そんなこと訊くんですか?」
そして何故このタイミングで?
私が笑ったのが勘にでも触ったのだろうか。
怯えを含んだ視線で恐る恐る視線を合わせるが、続いた会話があまりにもスムーズだったので自分の考え過ぎだとすぐに悟る。
「いえ、ここに長居したのはあなたが初めてだったので。皆さん未来を受け取ったらさっさと代金を払って出て行くんですよ。人のこと何だと思ってるんですかね。別にいいですけど。僕、人間嫌いですし」
「じゃあ、なんで未来なんて売ってるんですか?」
「質問を質問で返しますか。そうですねぇ……しいて言えば面白いからですかね。いくら未来を買ったところでそれが確実に作用するという保証はない。これは契約の前に必ず言っていることですが、こんな不確かなものに金を払う人間を見ているのが面白い」
「思いの他下衆な考えを持ってますね。お客の目の前で」
「訊いてきたのはあなたでしょう。それで、あなたが未来を買う理由は何ですか?」
いざ真っ直ぐ見つめられると、言葉に詰まる。
気だるげな眼差しの奥にある真剣さが微妙に怖いが、それと同時に本当に興味があるんだなと感じさせられた。
「希望が欲しいんですよ」
たぶん、他の人達も。
「どんなに不確かなものでも不安定なものでも、希望が無ければ先には進めないんです。どうしたらいいのか悩んで、それでも答えは見つからない。そんな時に未来が買えるなんて聞いたらこぞってやってきますよ」
「そんなものですか」
「そんなものですよ。先のことがわからない。だから目に見える形で未来を欲しがるんですよ。安心したいんです」
私、語ってるなぁ。
これは後で羞恥に苛まれるな。
「まぁでも、希望のために利用されるのは悪くはないですかね」
一瞬ではあったけれど、初めて錬金術師が笑った。
今日は随分と貴重な体験をしている気がする。
「僕は折角錬成したんです、馬鹿な使い方だけはしないでくださいね。人生も未来も、人間には一度きりなんですから」
「わかってます」
大事な私の未来なのだから、無碍になんてしない。
「まぁ、せいぜい頑張ってください」
相変わらず気だるげそうに、錬金術師はそう言った。


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