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四島トイさん

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眠りの手前

14/07/28 コンテスト(テーマ):第六十一回 時空モノガタリ文学賞【 夜に光る 】 コメント:2件 四島トイ 閲覧数:948

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 天井に青い光が反射している。
 眠りの底に引き寄せられながら、ぼんやりとその光を眺める。
「……消灯ですよー」
 そっと呟くと、二段ベッドがわずかに揺れた。
「お姉ちゃん起きてたの?」
 室内を照らしていた灯りがふっと消える。衣擦れの音と木製の骨組みが軋むかすかな音が暗闇に溶け込んだ。
「……もしかして、起こしちゃった?」
 おずおずと伺う妹の声に、そんなことないよ、と応じる。
「初めての携帯電話だものね」
 うんごめんね、と妹は気恥ずかしそうに呟いた。再び、明かりが灯る。
 高校の入学祝が妹の寝床から発する光を見つめているうちに、私は眠りに落ちていた。


 待ち受け画面は、抜けるような青い空と白い砂浜だった。
 迫り出した椰子の木が、透き通った海に影を落としている。液晶の彩る南の島の景色。
 二段ベッドの上段は、今夜も南の島の明るさを帯びている。
「……いいよねえ南の島。私、おばあさんになったら南の島で釣りして過ごす」
「彼氏と行く、とかじゃないんだ」
 からかい口調には二歳年下の妹の関心事が見え隠れする。くすぐったい様な、可笑しいような思いに口元が緩む。
「チカは一緒に行きたい彼氏がいるんだね」
「……そうじゃないけど」
「でもそうね……南の島がカップル限定だったらどうしようね……チカが一緒に行ってくれる?」
「……お姉ちゃん寝ぼけてるでしょ」
「うん……お姉ちゃんは眠いのです……」
 仰向けに寝転んで団扇を扇いでいると瞼がぐっと重くなる。まだ消えない青い光を見送るように、気づけば眠っていた。


 カーテンを揺らす秋夜の香りが鼻腔をくすぐる。窓を開けたままだったことに思い至って身を起こす。鍵を掛けたところで、お姉ちゃん、と暗闇から声がした。
「……お腹、痛くない?」
「うーん……食べ過ぎちゃったかもね」
「……ごめんね。泣くつもりなかったのに……気遣わせちゃって」
「なんの。チカが私に付き合ってくれたようなもんでしょ」
 再びベッドに寝そべる。タオルケット越しに丸く張ったお腹を撫でる。駅ビルの特大七段パフェが胃の往来を闊歩しているのがわかった。ぎゅるる、とたくましい音がする。
 すごい音だよ、とチカが呆れたように呟く。途端、彼女のお腹も、きゅううと高く鳴った。
「栄養になあれ。栄養になあれ。すくすく育って大人の女になあれ」
 私がお腹を撫でながら唱えると、太るだけだよ、とチカは小さく笑った。
「でも……何かどうでもよくなってきた」
「……喧嘩のこと?」
「うん……」
 そう、と短く言うと、鼻をすする音が小さく応えた。
「喧嘩はするもんだよ。彼氏と彼女だもの」
「でも……もう修復不可能だよ……」
 ぐすっと湿り気を帯びた言葉が漏れた。
 途端、小刻みの振動音が上段で響いた。ギシッとベッドが強く軋んで、天井が青白い光に照らされる。
 一際深い安堵の吐息が部屋の暗闇にふわりと浮いて、そっと溶けていく。
 お腹を撫でているうちに心地好い温かさに包まれて、私は眠りについた。


 ちょっと狭いなあ、と愚痴ると、お姉ちゃんひどい、とチカが怒った。
「妹が別れを惜しんで、引越し手伝ったのに」
 段ボール箱の散らかるアパートの一室。辛うじて確保した寝床にチカと並んで横になっていた。
 見慣れぬ天井には円盤型の照明。張り替えたばかりだという真新しい壁紙に、買ったばかりの壁掛け時計。二段ベッドに慣れた私にはそれらが遥か遠くに感じられる。
「……お姉ちゃんも大学生かあ」
 感慨深げに呟くチカの上を横切るようにして、照明のコードを引く。
 部屋に暗闇が満ちた。カーテンの隙間からわずかに月の光が差し込んでいた。擦れた墨のような夜の向こうでチカが身動ぎする。
「……暗いね」
「チカ。携帯電話は?」
「……夜までやるものでもないかなあ、て最近思って」
 それに、と続ける。
「お姉ちゃんと話してないと眠くなっちゃうし」
 そっか、と呟くと、うん、と短く応える。
「じゃあ……ちょっと話そうか」
「……しばらく会えないだろうし」
 そう言って、チカは自分の言葉にショックを受けるように押し黙った。しばしの間があって、南の島、と小さく呟いた。
「……一緒に、行こうね」
「……うん。そうだね」
 絶対だよ、とチカは私の肩に顔を埋めるように丸まった。その背中を撫でていると、いつの間にか小さな寝息が聞こえてきた。つられるように瞼が落ちる。
 瞼の裏にぼんやりとした青い光が見えた気がした。


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このストーリーに関するコメント

14/07/30 ナポレオン

拝読いたしました。
なかなか掌編では出せないような深い読後感がありました。特に最後に南の島の話を出してくるあたり、上手いなあと思いました。

14/07/31 四島トイ

>ナポレオンさん
 読んでくださってありがとうございます!
 コメントまでいただいて……
 動きはないし、三点リーダも多いしで、読みづらい箇所が多々あったかと思いますが、ありがたい限りです。もっと読んでいただくことに自信を持てるような作品を書けるよう精進します。
 ありがとうございました!

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