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スレイさん

趣味で小説を書き始めた高校生です。 何かを感じたときに、表現する手段が無ければ悲しい。 そう思って少しずつ書き始めました。

性別 男性
将来の夢 世界を旅すること
座右の銘 Let it be

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人は死んだら星になる

14/07/27 コンテスト(テーマ):第六十一回 時空モノガタリ文学賞【 夜に光る 】 コメント:4件 スレイ 閲覧数:1482

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交通事故で亡くなった母のお通夜の帰り道、当時4歳だった妹のユウが私の服の袖を握りながらこんなことを言った。
「ねえ、お母さんはどこに行ったの?」
ユウは「死」というものをまだよく理解出来ていないのだ。私は考えた。どう答えようか。どう答えたら妹が「死」を理解できるのか。どう答えたら幼い妹はショックを受けずに済むだろうか。
それはその頃の小学四年生の私には難し過ぎる質問だった。私は何も言えずにいた。ただ妹のうるんだ目を伏せ目がちに見つめ返しただけだった。
私が困窮しているのを察してか、父がハンドルを握ったまま振り向いた。その時の私はすがるような目をしていたのだと思う。父は私の目を見て、任せなさいといった様子で小さく頷きまた正面に向き直った。
「ユウちゃん、あのね。」
父が口を開いた。真面目な表情がバックミラーに映り込んでいた。
「お母さんは、星になったんだ。だからもう、帰ってこない。」
ジャリジャリと音を立てながら、私たちの車は家の駐車スペースで停車した。エンジン音が途絶えて辺りは完全に静かになった。
私は内心頭を抱えていた。なんという子供じみたことを教えてくれたものだ。これなら私が言ったほうが幾分かましだった。
ユウは何も言わなかった。ただぼんやりとした横顔を見せて、窓の外を眺めていた。いくら幼いとはいえ、妹は父の嘘を見抜いてしまったのかもしれない。この妙な雰囲気に堪えかねて、早く外に出たいと思っているのかもしれない。
しかし、ユウはいつまでたってもドアを開けようとはしなかった。私ははっとした。妹の目は確かに夜空を映していたのだ。
「ねえ。」
ユウが小さく口を開いた。
「なんだい?」
父が答えた。わざとらしい、苦しげなお気楽そうな声だった。
「ママは、どのお星?」
「それは……」
父の動揺が見てとれた。夜空を仰いで、壊れた扇風機のように小刻みに首を動かした。今度は父がこちらを見た。すがるような目をしていた。
私は小さく人差し指を立てた。指の先には三角形が二つ組み合わさったような、短い時を刻む砂時計のような形の星座。
「オリオン座。」
囁くと、父は何度も頷いて、また前を向いた。
「ユウちゃん。」
父は落ち着きはらった声で言った。
「なに?」
「ちょっと前に来てごらん。」
私はユウのために少し左に寄った。
「こんな形に星が並んでいるだろ?」
「どこどこ?……うん、うん。」
見えなかったが、父が指でガタガタの砂時計を描いている様子が想像できた。
「あれが、お母さんだよ。」
ユウはしばらく黙って、その後に一言二言囁いた。父がそれに応じた。私にはよく聞こえなかった。私は手持ちぶさたに北斗七星を探した。その夜の星はどこか滲んでいて、結局諦めてしまった。
「さっきユウはなんて言った?」
車を降りた後、私は父に聞いた。父はにやけ顏で答えた。
「確かにお母さんに似てるってさ。」
私は首をひねって砂時計を描いた。何度も描いた。
「ああ……。」
「な?」
やっとその意味に気付いて笑った。確かにお母さんのスタイルは抜群だった。私たちはそのまましばらく薄ら笑いで、夜空に明るく輝くオリオン座を眺めていた。不思議な気持ちだった。母が亡くなった翌日にこんなしようもないことで笑った自分たちが情けなくもあった。でもひょっとしたら、母は本当にあの星座になったのかもしれなかった。

あれから四十年余りが過ぎ、私はリビングに貼った全天星図の前で薄ら笑いを浮かべている。
母の父母、つまり私の祖父母にオリオン座のことを話すと、涙を流すほど笑っていた。ひとしきり笑うと、二人は「おおいぬ座」と「こいぬ座」になることを所望した。十五年ほど前に往生した二人は、母と合わせて三人で仲良く冬の大三角形を形作っている。
父は五年前に、おれは「うみへび座」になるからな、と言い残して息を引き取った。何とも特異な遺言であるが、巨大なうみへび座を選ぶあたり見栄っ張りの父らしい。
ユウは小学生でオリオン座を習うときに、あれはお母さんだと言い張って大恥をかいたそうだ。そのことを思い出しては赤面する妹は、人が死んで星になるなんてバカらしいと言っていたが、最近は肌のシミを気にしながらちゃっかり「おとめ座」を予約してしまっている。
私たちとの中では「人は死んだら星になる」。子どもたちはバカにして笑うが、それでいい。夢見がちな子どもたちが私の星座を持って行ってしまっては困るからだ。それに子どもたちもいずれ年を重ねるうちにそれが案外本当かもしれないと思うだろう。その証拠にあれ程バカにしていた夫も、いつの間にか「ペガスス座」に付箋をつけている。
この調子では危ないかもしれないと、私は「はくちょう座」の付箋をセロテープでさらに強く固定してほくそ笑む。
誰にも分からない死後の、ささやかな楽しみが紙の夜空に輝いた。


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このストーリーに関するコメント

14/07/29 草愛やし美

スレイ様、初めまして、拝読しました。

いいなあ、このお話。とても、ほのぼのしますね。幼い妹を思いやるお姉ちゃん。これまた、その幼い娘を思いやる父親。よくあるお話なんですが、家族みなが、そんなことはあり得ないことと考えながらも、そこに思いを馳せて、あり得ないことを真実だという風に成り立たせている。みんなが優しく、温かい。ほっとするそんなご家族ですね。

私も、この作品を読んで、夜に光る星を見る目が変わるように思います。素敵なお話で癒されました。

14/07/30 スレイ

草藍さま、初めまして。コメントありがとうございます。

僕自身、現実にはあり得そうもない突飛なことほど「もしかしたら……」なんて考えてしまいます。そういう人も案外多いんじゃないでしょうか?
迷信とか都市伝説とかいった類いのものに関しては、結局のところそれが真実なのかどうかは大して重要なことではないのかもしれません。
騙されたと思って信じてみたらいかがでしょう?

14/07/30 ナポレオン

スレイ様
拝読いたしました。
母の死から始まる悲しい話が死後星座になるという概念を通して最後はほんのりと温かい話になり、気持ちよく読むことができました。夜に光るというテーマにこれ以上なくしっかり沿っていたと思います。

14/08/11 スレイ

ナポレオンさま、コメントありがとうございます。
雑な構成でしたが、何とかしっくり収まってくれたなら幸いです。

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