泡沫恋歌さん

泡沫恋歌(うたかた れんか)と申します。

性別 女性
将来の夢 いろいろ有りますが、声優ソムリエになりたいかも。
座右の銘 楽しんで創作をすること。

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狐火

14/07/27 コンテスト(テーマ):第六十一回 時空モノガタリ文学賞【 夜に光る 】 コメント:11件 泡沫恋歌 閲覧数:1896

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 あれは小学校最後の夏休みだった。
 幼馴染の健太と達彦と僕の三人は裏山にあるお稲荷さんで『肝試し』をすることになった。僕らの育った村はかなり過疎地域で、360度グルッと山と田んぼと畑に囲まれている。家が近所でずっと一緒に育った仲良し三人組だが、達彦が夏休み中に転校することが決まった。
 実は両親が離婚することになったらしい、達彦は母親と共に都会に出て行くので、もう三人では遊べない。転校の話を打ち明けられた時、僕ら三人は泣いた。大人の都合で友情を裂かれることが悔しかった。最後の思い出にと、一番弱虫だった達彦が『肝試し』しようと言いだした。
 裏山にあるお稲荷さんは、村の守り神で朱(あけ)の鳥居を潜ると、そこから山頂のお社まで長い石の階段が続く、登り切った場所に狐像が左右にある。稲荷大神(いなりおおかみ)の眷属(けんぞく)である狐は、野山にいる狐ではなく、神様同様、目に見えない存在とされている。そのため、白狐(びゃっこ)さまとして崇められている。
 お社のある裏山は鎮守の森で昔から白狐が棲むという言伝えがある。ここでは虫一匹、草一本とってはいけない神聖な場所なのだ。そして年に数回、鎮守の森では狐火が現れるという噂があった。

 肝試しの夜、達彦のばあちゃんが作った、いなり寿司を健太と僕に渡した。
 これを持って、一人で山頂のお社まで登って、狐像にお供えしてから戻って来るルールだが、日が暮れて真っ暗だし、石段は険しいし、狐火が現れるかも知れない。これは僕らにとって勇気のいる『肝試し』だった。
 三人の中で一番体が大きく、ケンカの強い健太が「俺が一番にいくぜ!」と威勢よく名乗りを挙げた。その声を制するように「言い出しっぺの僕が一番にいくよ」達彦の声が、いつもなら危険なことを一番嫌がるタイプなのに驚いた。
 達彦は朱の鳥居を潜って、どんどん石段を登っていった。山頂まで往復で三十分は掛かるだろう。――その間、健太と僕は下で待っていることになる。
 なぜ、こんな『肝試し』をやろうと達彦が言い出したのか、僕らは不思議だった。

 村の噂では達彦の父ちゃんが、最近、村にできた「灯」というスナックの美人のママと浮気をして、家には帰らないし、農作業もサボりだして夫婦喧嘩が絶えなくなり、ついに離婚する破目になったという。達彦の家にばあちゃんも居て、夫婦が別れると可愛い孫とも会えなくなると嘆き悲しんでいた。

「タッちゃん遅いなあー」
「うん。もう一時間くらい経つぜ」
 上がって行ったまんま、いつまで経っても降りて来ない達彦が心配になり、二人で様子を見に行くことにした。
 今夜は新月らしく、月明かりもなく真っ暗で、小さな懐中電灯で足元を照らしながら僕らは石段を登っていく、不気味なほど静かな夜だった。
 山頂で何やら青白く光っている。もしかしたら、あれは狐火か!?

 暗闇に目を凝らすと、青白い光の中に人影が見えた。
「白狐さま、お願いだ。どうか、父ちゃんと母ちゃんを別れさせないでください。ばあちゃんと暮らせなくなるのは嫌です。友達と遊べないなんて嫌だ! この村から出て行きたくない!」
 達彦の泣き叫ぶような声が聴こえた。
 新月の夜に狐火を見た者は願い事が叶うと、うちのじいちゃんに聴いたことがある。だから達彦は新月のこの夜に『肝試し』をしようと僕らを誘ったんだ。
「僕たちからもお願いだ! タッちゃんを何処にも行かせないでください」

 その時、狐火の中から白い狐が現れた。
『童よ、汝らの願いは聞き届けた。吾を見たことは他言無用』
 凛とした声がいきなり脳天に響いた。これは白狐さまの声だったのか!?
 その後、僕ら三人は急に意識を失い、気が付いた時には石段の下に倒れていた。子供たちが帰らないのを心配して捜していた村人たちに助けられた。
 うちのじいちゃんに、こんな所で何をしていたのかと訊かれたので、咄嗟に「クワガタ捕り」と答えたら頭を叩かれた。「鎮守の森で虫捕りはイカンぞ!」僕らは白狐さまに会ったことを、大人たちにも秘密にした。

 それから三日後、スナック「灯」が火事になった。
 青白い光が店を覆った瞬間、出火してママが首から顔にかけて大火傷を負った。どうやら達彦の父ちゃん以外にも村の男たちを手玉に取っていたらしく、入院先の病院で男たちが揉めたという。その後、店を畳んで村から出て行った。そして達彦の両親は仲直りして離婚の危機を脱した。

 ――やっぱり稲荷大神の白狐さまは祟り神なんだ。

 
 やがて大人になった僕ら三人は、達彦は農家を継ぐと結婚して子供も生まれた。健太は町で板前の修業をして日本料理『狐火』の店主になった。僕は都会で普通のサラリーマンになったが、年に一度の村祭りの日には再会している。

 あの夏の事件は僕ら三人だけの永遠の秘密なのだ。


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このストーリーに関するコメント

14/07/27 泡沫恋歌

写真は先日、京都にある伏見稲荷大社に参拝した時に撮影した写真です。
お稲荷さんの朱の鳥居が続く、千本鳥居は幻想的でとても美しい。

私、神社が大好きなんです♪(*^‐^*)v

14/07/28 草愛やし美

泡沫恋歌様、拝読しました。

狐火ですね、白いお狐様は、三人の秘密。これ以上のコメントはネタばらしになりますので、控えますが、三人の友情は永遠のものでしょうね。過疎の村など描かれていて、社会風刺も効いていて、面白くて一気に読み終えました。

お狐様は、なによりも、子供達の純なる気持ちに応えてのことでしょうが、たぶん、持って行ったいなり寿司は、なくなっていたことでしょう。お狐様の好物であるいなり寿司がきっと願いを叶えてくれる奉納になったのかもとも、思います。もしかして、料亭「狐火」の名物は「いなり寿司」かもですね。笑

14/07/30 そらの珊瑚

泡沫恋歌さん、拝読しました。

白い狐に、少年たちの純粋な願いが届いたのでしょうか?
少年たちの一夏の友情物語、大人になった今も
きっと秘密の宝物のような思い出なのでしょうね。

14/08/03 黒糖ロール

夏と少年と神社がでてきちゃうと、もうそれだけでよだれがでてきてしまいます…(笑)
どことなく人びいきのイメージのある稲荷神社なら、ありそうかもと思いました。
面白かったです。

14/08/03 泡沫恋歌

草藍 様、コメントありがとうございます。

過疎の村で、小さい頃から兄弟のようにして育った、
三人の少年の絆は深く、離ればなれになることが辛かったと思います。

いなり寿司で三人の願いを叶えてくれた白狐さまは、
さすが稲荷大神の眷属ですよ。


凪沙薫 様、コメントありがとうございます。

神社は決して古臭くないですよ。
現代の神社は時代に則して進化しています。

日本人は無宗教などといわれますが、日本人にはDNAに滲みこんだ
神道があります。


そらの珊瑚 様、コメントありがとうございます。

夏の夜の不思議な物語ですが、三人の友情が永遠に続くような
感動的な白狐さまとの出会いでした。

伏見稲荷大社へ行くとあっちこっちに狐の像がありますよ。
それぞれ個性があって面白い。

14/08/03 泡沫恋歌

黒糖ロール 様、コメントありがとうございます。

夏と少年と神社で、何か書けそうな題材でしょう。

こないだ、伏見稲荷大社に行った時に、このお話のイメージが浮かびました。

お稲荷さんは日本一多い神社なんですよ。
総本山が伏見稲荷大社で千本鳥居は有名ですが、実は有に鳥居の数が千本越えてます。

けれど、お稲荷さんは崇り神なのでとても怖ろしいのです。
悪霊などを封印しているお社もあります。

14/08/06 鮎風 遊

少年たちの思い出、なつかしい感じがしました。
お稲荷さんはどことなく神秘ですね。
しかし、子供たちにとっては格好の遊び場。
小さい頃、よく遊びました。
だけどまだ狐火は見ていません。ちょっと怖いですよね。

14/08/06 泡沫恋歌

鮎風 遊 様、コメントありがとうございます。

神社の境内というのは子どもたちの遊び場でしたね。

私も中学の頃、下校途中にある神社で友達とよく喋っていました。
神社ってなぜか心が落ち着く不思議なオーラが漂っているのです。

ちょっと懐かしいお話で書いてみました。

14/08/17 ドーナツ

拝読しました。
お稲荷さんというのは、何処かミステリアスでひきつけられる神社です。
狐火、白狐ーーこういう言葉を見ただけでもうワクワク、物語の不思議な世界に引き込まれました。

妖歌詞の譜に気だけじゃなくて、ぼくたちの友情があったかさも与えてくれます。怖いけど素敵なお話だと思います。

14/08/17 ドーナツ

すみません、たいぷミス訂正します。
妖歌詞の譜に気だけじゃなくて。。。訂正
妖かしい雰囲気

14/08/25 泡沫恋歌

ドーナツ 様、コメントありがとうございます。

こないだ、京都の伏見稲荷に行ってきたんですが、やっぱり朱の鳥居は綺麗です。
私は神社大好きなんで、あの千本鳥居を潜ると敬虔な気持ちになります。

わざわざ、訂正ありがとうございます。

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