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佳麓さん

名前は『かろく』って読んで下されば。 2000から始まるカウントダウンが恐ろしい。 硬いのとバッドエンドは苦手です。

性別 男性
将来の夢
座右の銘 思ったが吉日。 今日やれる事は明日でもやれる!

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「なぁ、あんたはこれ持ってるか?」

14/07/15 コンテスト(テーマ):第六十二回コンテスト 【 未来 】 コメント:2件 佳麓 閲覧数:800

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「ん?……あれ?」
 何かを落っことした気がして、俺は立ち止まった。
 手の中を見ても、ポケットをまさぐっても、見つからない。地面を見渡してもそれらしいものは見当たらない。
 それでも何かを落っことした事は確かなのだ。
 不思議に思いながら歩き出そうとして……ぶつかった。何も無い所にぶつかった。
 透明な壁、そんなイメージ。
 道半ば。この道はまだ先へと続いているのだから進まないといけないのだが、如何せんこの壁が邪魔過ぎる。

「おっさん、邪魔」
 そんな声が後ろから聞こえてきて、俺は道を開ける。振り返るとまだ十代だろう少年が立っていた。
「何してんだ?あんた」
「いや、その、何かを落っことしたんだよ。そしたら前に進めなくなっちまった」
「は?何かって何だよ?何落っことしたかもわかんねーのかよ」
 馬鹿にするように笑われる。然もありなん。
「落したのがわかんなきゃどうにも……おい、おっさん!これどうした?」
 慌てて少年がポケットから取り出したのは、形の定まってないモヤモヤした何かだった。
「あ、それだ。落したのはそうゆう物だった気がする」
 見せてくれた物よりはっきりした形だと思うが、確かにそんな雰囲気だった……多分。
「おいおいおい、落すようなものか?これ。頼むぜおっさん」
 勘弁してくれと、その少年は大げさに嘆いて見せた。
「落したんじゃなくて、自分で捨てたんじゃねーのか?」
「んな訳あるか!そんな大事な物を捨てたりするもんかよ」
 それが何なのかは思い出せないが、それでもこの心の空虚さは、今まで味わった事の無いような薄ら寒いものだ。自分からこんな気分を味わおうとは思わない。
「別に珍しくないぜ、自分から捨てちまう奴なんて。俺の知り合いにだって先生や親に言われて捨てた奴もいるし、社員証と引き替えに投げた奴もいるし」
 スマホをすりすりしながら、興味なさげに語る。
 そうゆうものだろうか。
「そいつらが言うには、完全に無くなってからその大事さに気づくんだと」
「そうなのか?」
「そうなんじゃねーの?実際おっさんだって無くなってから気が付いたんだろ?」
 言われてみればそうだった。

 おっさんに構ってるほど暇じゃねーの。そんな台詞を置いて、少年は立ち去って行った。
 前には進めず、かといって引き返す気にもなれず、結局座る事にする。
「ん?」
 後ろポケットに何か入っていた。さっきは気が付かなかったな、と不思議に思いながら引っ張り出してみると、出てきたのはボールペンだった。何の変哲も無いボールペン。
 書く物はあっても、書かれる物がない。ボールペンを指先でくるくる回しながら、ぼんやりと人の流れを眺めていた。



 ただただ生きていても髭は伸びる。座っているのにも飽きて、寝転がっているうちにウトウトとしてしまったらしい。
 呼びかけられて目が覚めた。
「すみません、そこのおじいさん?」
 はぁ!?
 ビックリしてがばりと体を起こす。
「誰がおじいさんだ!」
「え?あ、すみません。白髪だったのでつい」
 慌てて、髪の毛を一本抜いてみる。まごう事なき白髪。こんな中途半端な所で止まったまま、俺は一体何時間寝ていたと言うんだ?
 と、一瞬思ったものの、どうでもいいかと投げやりな感情が空っぽの心を支配した。過ぎてしまったものは、しかたがない。シカタガナイ。
 白髪の先には、眼鏡の青年が立っていた。
「ん?どうした?」
「その、これはおじ……おじさんの物ですか?」
 青年が取り出して見せたのは、モヤモヤした何か。
「そりゃ、俺のじゃないか!?」
 間違いなく。
「やっぱりそうでしたか」
「おう、ありがとな。でも……」
 今更これを返してもらっても使い道がない。もう先に進む気にもなれないし。
「これ。見てもらえますか?」
 差し出されたのは、モヤモヤした何か。俺の物とだいぶ似た形をしていた。
「おじさんの物と、途中まででいいですから同じ形にしたいんです」
 青年はそんな事を言った。
「それで、コツを教えてもらえないでしょうか?」
 まあそれぐらいならと、青年のモヤモヤした何かを受け取った。一度は自分の物を形作ったのだから出来ない訳がない。覚束ない手つきでボールペンを握ったのだが、しかし、全く歯が立たなかった。
「おかしいな、そんなはずない。一度は自分でやったんだから」
「が、頑張って下さい」
「おう、ちょっと待ってろよ」
 あぐらを掻いてやろうとするが、暗くてよく見えない。
「もっと明るい場所じゃなきゃダメだな」
「あ、だったらあっちがいいんじゃないですか?」
 青年が指さす道の向こう、確かにそちらは明るかった。
「ちょっと来い。いいか?ここは捻るんじゃなくて――」

 結局俺は歩き出した。年甲斐もなく。


『この先、未来です』


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このストーリーに関するコメント

14/07/19 かめかめ

『この先、未来です』がなかったら良かったのに。と思いました

14/07/19 佳麓

かめかめ様、コメントありがとうございます。
『この先、未来です』
実の所、かなり迷いました。かぎ括弧にするか、矢印を入れるか、エンターキーを連打した上で入れるか……
確かに、入れないのが正解みたいですね。参考にさせて頂きます。

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