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しーぷさん

性別 男性
将来の夢
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絶えぬ光

14/07/13 コンテスト(テーマ):第六十一回 時空モノガタリ文学賞【 夜に光る 】 コメント:0件 しーぷ 閲覧数:737

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ある処に、一人の男がいた。男は国の端に居を構え、国一番の鍛冶屋として五十余年ほど鉄を打ち続けていた。家族はいない。
王宮へ依頼の品を届けた帰り、浜辺で赤子の声を聞いた。声のする方を見てみれば、産まれて一年と経たないであろう子が、毛布に包まれて泣いていた。
何を思ったのか、男はその赤子を拾い上げ、再び帰路についた。





「じじぃ!」
それから二十年、未だに鉄を打ち続けている男の家は、少々騒がしくなっていた。
「薪割り終わったんなら早く飯作れ」
男は風量で火を調節しながら、じっと鉄を見つめ槌をふるった。
男の腕は国中皆が認めるほどで、その技術を盗もうと他国からも弟子入り希望の者がやってくるが、男は全て断っていた。そのため、少年が飯当番となっている。

「なあ、なんで街のほうに住まないんだよ。あっちならガスもある。こんな方法で火を熾さなくたってよくなるじゃねぇかよ」
二人が住んでいる場所は海と山に挟まれており、夜にだけ山側から風が吹く。男は山風が吹いてる時にしか仕事をしない。つまり、男が鉄を打つのは決まって夜だった。

「この風で熾した火じゃなけりゃあ、いいもんはつくれねぇ」
「ふぅん」とだけ言った少年は、飯も作らずに男の仕事を食い入るように見つめた。



「早く荷車持ってこい」
昼間は夜に打った鉄を国へ持っていく仕事がある。依頼された品だ。収入のほとんどは、国の兵士たちの武具。
少年が家の裏手から荷車を持ってくると、男はガチャリと音をたてながら昨晩うった物を積んだ。
「よし、早く出せ」
男はそう言ってから荷車に乗り込んだ。荷車を引くのはいつも少年である。
「振り落とされんじゃねぇぞ、くそじじぃ」





毎日変わらず、そんな日々が過ぎていたが今日は違った。

「俺一人で?」
「ああ、そうだ」
男は、布に包まれた剣を机の上に置きながら言った。

「客に渡すまでは、絶対に俺の傍から離さねぇっていつも言ってたじゃねぇかよ」
「配達くれぇならお前一人でも出来るだろうと思ったんだがなぁ」
「馬鹿にしすぎ、よゆーだっつぅの!」
少年は奪うように机の上の剣を持ち、豪快に扉を開けると家を出ていった。
「夕方にはもどっからよ」





「やっとじじぃも俺のこと認めてくれたってことかな」
仕事の帰り、少年はニヤニヤしながら浜辺を歩いていた。思ったより時間がかかってしまい、気づけばとっくに陽が落ちていた。強い風が少年の髪を揺らす。
この時間だと、すでに男が鉄を打ち始めている頃だ。早く帰って薪割りをしなければ。そう思って足を速めた、が、ここで異変に気付いた。この辺には遮蔽物がなく、遠くにだが、小さく工房が見えるのだ。いつもなら火の赤い光が見えるのだが、今日は見えなかった。

なんとなく。

嫌な予感。

少年は真っ直ぐに駆けた。



「じじぃ!」
男は槌を持ったまま倒れていた。
少年が駆け寄ると、うっすらを目を開け弱々しく口を開いた。

「やっと帰ってきたか鼻たれ坊主」
「おい。どうしたんだよ」

男は苦しそうにゆっくりと呼吸をしてから「迎えが、もうすぐ来るみてぇだ」と言った。
「は? どういうことだよ」

男は苦しそうに呼吸を重ねる。少年の脳はだんだんと事態を理解していく。
「待てよ。俺、じじぃから何も教えてもらってねぇぞ。鉄の打ち方くらい教えてくれよ」


「死ぬんじゃねぇよ!」



「俺は……死なねぇよ――」



男はゆっくりと右手を持ち上げ、握っていた槌を少年の胸に押し付けた。
「おめぇを拾ってからちょうど二十年。俺のお古だが、まあ、いいだろ。誕生日おめでとう」
少年が両手で強く男の右手を握ると、男は静かに目を閉じた。


開いた扉から迷い込んだ月光が槌を照らし、少年を照らし、男を照らした。


少年の頬をつたう涙は、顎から滑り落ちていく前に拭い去られた。





その日の夜から、不格好な、鋼を打つ音が響いたそうだ。


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