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鮎風 遊さん

この世で最も面白い物語を見つけ出したい。 そのために、ひとり脳内で化学反応を起こし、投稿させてもらってます。 テーマに沿った個別物語の他に、いくつかのシリーズものをコツコツと書き続けさせてもらってます。 その主なシリーズものを紹介させてもらいます。  ☆❤☆❤☆ 新シリーズ 『ツイスミ不動産』 __ 2017.07.16よりスタートさせてもらいました。 カサリンとクワガタ野郎があなたが求める終の棲家を紹介いたします。  ☆❤☆❤☆ 『刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)』 __ 2017.05.21 ただ今、27話 __ 1話完結の2000文字推理小説です。この少ない文字数の中で、百目鬼刑事と部下の芹凛(せりりん)がいかに事件を解決していくか、その醍醐味を味わって頂ければ、光栄です。 これからも引き続き難しい事件に挑戦して参りますので、よろしくお願いします。  ☆❤☆❤☆ 『漢字一文字の旅』 __2017.04.04 ただ今、連載41__ 漢字にまつわるエッセイです。  ☆❤☆❤☆  『歴詩』 __歴史上の人物になりかわって、その波瀾万丈の生き様の思いを詩に綴らせてもらってます。 本作品については、フォト音(on)小説という形で、you tubeにもUPさせてもらってます。 詳細はこちらHPです。  ☆❤☆❤☆  http://ayukazeyuu.net/index.html  ☆❤☆❤☆                         よろしくお願いします。              

性別 男性
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夜のささや木

14/07/12 コンテスト(テーマ):第六十一回 時空モノガタリ文学賞【 夜に光る 】 コメント:4件 鮎風 遊 閲覧数:1630

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「そろそろね」
 福夫がアパート近くの公園で夜空を見上げていると、横のベンチに座る若い女性から囁きが聞こえてきた。

 熱帯夜、どうも寝付きが悪い。気分転換にとベットから抜け出して、ふらりと出掛けてきた。
 天空の天の原には夏の大三角形、ベガ、アルタイ、デネブが輝き、それを貫き、天の川がどっかと横たわる。
 都会から見上げる宇宙は決して煌びやかなものではない。それでも今夜は、その壮大さに福夫は見取れてしまってる。
 そんな時に唐突に、暗がりの向こうから見知らぬ女が囁いた。そろそろね、と。
 一体これは何だ?
 福夫がそっと窺うと、膝の上に何かを乗せている。察するに、それが女の囁き相手のようだ。
 しかし、それは犬ではない。また猫でもない。福夫は不思議で、さらに目を懲らして確認してみると、鉢に植わった苗木のようだ。
 すなわち夏の夜に、若い女が苗木を抱え、そろそろねって…、なんじゃ、これ!
 換言すれば、彼女が直面している――そろそろねの事態とは、一体何なのだろうか?
 うーん、方程式を解くより難しく、答えが見つからない。
 福夫は遂に辛抱しきれず、「どうかされましたか?」と女性に伺った。これに女は特段の反応を示さず、「この木はね、夜にキラキラと光るんだよ」とピント外れなことを宣われた。
「はあっ?」
 福夫の脳は焼きそば状態に。要は脳内血管が複雑に絡み合ってしまったのだ。
 だが、このまま放置すれば、今宵は眠れないだろう。そこで「何と言う木なの?」とピンポイントに問い直した。すると女は目鼻立ちの整った顔を上げ、シャープに言い放ったのだ。
「ささやきよ!」

 えっ、ささやきって?
〈囁き〉でなく…〈ささや木〉ってこと?
 福夫はいきなり猫パンチを喰らったように、目の前がくらくらと…失神しそうな心持ちに。一方女の方はフフフと、ふわりこんと微笑んでやがる。
 その後は一段とトーンを上げて、「人生て、よく迷うでしょ。この木はね、そろそろという時に、キラキラッと光って、どうしたら良いか、勝手に囁いてくれるのよ」と。
 こんな女の講釈に、ここは男の度量が必須。ホッホーと大袈裟に、合点承知の助的なリアクションをかました。
 しかし、女はずるいもの。「私、幸って言うの、このささや木、育ててくれない」と、好タイミングでの、いわゆる強要。されどもここで断れば男が廃る。まさに一発回答で、OKと。
 ここまでは丸っきり行き掛かり上のこと。だが福夫はちょっぴり幸せ気分となり、苗木を持ち帰ったのだった。

 あっという間に一年が過ぎた。
 窓際に置いたささや木に朝夕の水やりを欠かさなかった。そのお陰で背丈は天井まで届き、枝は思い切り張りだし、六畳一間が葉っぱで埋まってしまった。
 何も囁かない…ささや木、正直、邪魔だ!
 さてさて、これからどう始末したら良いのだろうか?
 ほとほと困り果てた福夫、堪らず非常連絡先にある幸に電話した。すると意外に、まっかせなさ〜い、と軽かった。

 昨年と同じような暑い夜に、アパートを訪ねてくれた幸は、あら、ごっつうならはって、となぜか都言葉で第一声を発し、灯りをポンと消しはりました。後は、さっ、囁きを聞きましょ、と福夫に四の五の言わせない。
 それに負けて、福夫は真っ暗闇の中で、ささや木が漏らすであろう囁きをじっと待っている。
 時の流れがまどろっこしい。だが横には幸が。福夫の胸が高鳴る。思わず幸の肩をそっと引き寄せてみた。幸は拒まず、身体を擦り寄せてきた。明らかに二人に恋心が芽生えたのだ。
 そんな時だった、幸は木に星が舞い降りて来たわと告げ、さらりと植木の背後に回った。その一瞬キラキラキラと葉っぱが輝いたように福夫には見えた。
 それからだった、「山野に、戻りたいわ」と。
 その囁きの主は……木か、それとも幸か?
 福夫には判別がつかない。それでも確かに聞こえた。

 その夜からだ、福夫はプロジェクトをスタートさせた。つまり、ささや木を山野に返してやろうと。しかも福夫も付き添って、いや、幸も連れてということなのだ。
 幸いにも福夫の故郷は山野が広がる地。
「俺、都会の仕事を辞めて、田舎に帰ろうと思うんだ。というのも、このささや木を、幸と一緒に、もっと大きく育てたいんだよ」
 こんなプロポーズに、幸がコクリと頷いてくれた。

 時は烏兎匆々(うとそうそう)、それから幾星霜を重ねた。
 高原にささや木と呼ばれる大きな木がある。
 その根っこには福夫と幸の『幸福』と記された墓標が立っている。
 そして人たちは噂する。

 満天の星空に、大三角形が作図される頃、ささや木に星々が降り注ぎ、キラキラと光る。
 そんな夜に、光沢ある幹にそっと耳を当ててごらん。木の精、幸の囁きが聞こえてくるから。
「そろそろ、幸せになろうね」と。


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このストーリーに関するコメント

14/07/13 泡沫恋歌

鮎風 遊 様、拝読しました。

「ささや木」ですか。
人生の節目に迷ったらささやいてくれるのは有難い木ですね。
Twitterなんかより、きっと、もっと素敵な囁きなのでしょう。

不思議な女性、幸と福夫で二人は「幸福」を掴んだと思います。

これもささや木のお陰でしょうね。

14/07/13 草愛やし美

鮎風遊様、拝読しました。

わあ〜〜素敵な木ですねえ。なんて、ロマンティックなのでしょう。夜に煌めき囁く、聴いてみたいものです。
オチがとっても楽しかったです、全く気づかずに読み進み、あっ、そうか、だから、幸と福夫だったのねと納得して頷きました。ささや木という語呂合わせも、いいなあと思いました。

14/07/28 鮎風 遊

泡沫恋歌さん

コメントありがとうございます。

そうですね、こういう木を一本育てたいものです。
ホームセンターで売ってたら買いますが、
植えるスペースがないかな。

14/07/28 鮎風 遊

草藍さん

コメントありがとうございます。

ささや木って木、幸福を呼んでくれます。
実はもう一つ不思議な木がありまして、
それは……つぶや木……です。

こちらはどんな木なんでしょうね。

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