1. トップページ
  2.  蛍 火

かめかめさん

http://ameblo.jp/kamekame1976/ ブログデシセイカツバクロチウ

性別 女性
将来の夢 印税生活
座右の銘 ハワイに行きたいと思ったら、一歩踏み出さないといけない。 ハワイは向こうから近づいてこない。

投稿済みの作品

3

 蛍 火

14/07/12 コンテスト(テーマ):第六十一回 時空モノガタリ文学賞【 夜に光る 】 コメント:5件 かめかめ 閲覧数:872

この作品を評価する

 夜の闇はねっとりと、肌にまとわりつくように重い。
 祭り囃子が遠く聞こえる。
 美夜子は明るさに背を向けて走る。
 足元を照らす灯もなく、足の先は闇。月は厚い雲におおわれ地に影を落とさない。美夜子は走る。

 村はずれの六本松。そこから南の山際へ十町。
 御蔵川にかかった橋のたもと。あの人がそこで待っている。
 逸る足を押さえ、息を整え、いかにも余裕のある女のように身づくろいする。
 うぶな娘じゃあるまいに、頬を染めて男にあうなんて。我ながらおかしくて、うつむいてくつくつと笑う。
 川端へ出ると、夜風が洗い髪に心地良い。
 水辺に一つ、二つ、蛍。

「ああ、おしいねえ。虫籠を持ってきやせんかった」

「蛍などとって、腹の足しにもなるまいに」

 どきりと胸が鳴る。
 けれどひややかに、あわてないように、そちらへ目をやる。

「なんとまあ、風流を解せぬ方。蛍を口に入れようなんぞ、よほどお腹がお空きなと」

 闇の中からぬめりを帯びて、男がぬうと姿を現す。

「腹は空いていぬよ。ただ、喉がかわいた」

 男は一足飛びに女の元へ飛びよると、片腕で女をかき抱いた。もう片腕で女の髪を引き、喉をさらけださせる。男はその白い、白い喉に、歯を立てる。

 ぷつり。

 女の喉に真っ赤な血の玉が浮く。
 男はそれを舌で舐めとる。ぺろり、ぺろり、ぺろり。
 舐められるたび、女ののどからは際限なく血の玉が浮き出る。ぺろり、ぺろり、ぺろり。
 女の背はくくっと反っていく。男に喉をさらけ出すように、男が舐めやすいように。
 女の体がふるふると小刻みにふるえる。そのたび血の玉もふるえ、女ののどを滑っていく。それを男の舌が追い、あまさず舐めすする。

 男が満足したころあいには女の体からはぐったりと力が抜け、男の腕が女を掻き抱いていた。

「ぜんぶ、飲み干しておくんな」

 女が細い声を絞り出す。

「できはしないよ」

「できないなら、そこの川にうつ伏せになるだけさ」

「どうして」

 男が女を地面に下ろす。女はなんとか一人で座ると、乱れた髪をかきあげた。

「嫁ぐことになった」

 男は静かに女を見下ろしている。

「そうしたら、あんたに血をやることもできんのよ。だから、どうか全部すすっておくんな。あたしの血を、一滴残らず」

 男は片膝をつき女を抱きしめると、顎に手をかけ、顔を上向かせた。

「おりょう!!」

 突然呼ばわる声にそちらを向くと、女の父親が息を切らして立っていた。

「お前、夜な夜などこへ行くかと思ったら、男なんど作ってからに! この親不孝もんが!」

 大股に近づく父親を、男がぎろりと睨みつける。その目は闇の中、こうこうと赤く光った。

「ひいっ! ばけもの!」

 父親は小さく叫ぶと、村の方へ駆け去っていった。

「ああ、あんた、あんた、どうぞ逃げておくんな。お父はきっと村のもんを連れてくる。かがり火を焚いて、松明を振りかざして、あんたを狩りに来る。どうぞ……」

 男は女の髪に手をかけると、ぐいっと引いた。女ののどをさらけ出し、歯を立てる。尖った牙で女ののどを深く噛み裂く。溢れ出る血を、飲みすする。一滴もこぼさぬように、一滴も残さぬように。

「ああ、あんた……きれいな火だねえ。あんたの目の中に燃えてる……。それは、あたしの血?」

 女はぐったりとこと切れた。男は女の体を横たえると、女の手を胸の上、組んでやった。
 男の目は血のように赤く、獣のように光る。
 足音も立てず、男は山の中に消えた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

14/07/12 草愛やし美

かめかめ様、拝読しました。

艶美なもののけに、暫し、心盗られそうになりました。時代物版、ドラキュラ? はたまた、もっと恐ろしい怪物なのか? いずれにしろ、女は男に心奪われ、囚われのまま、逝くことができ、幸せだったのかも……と、思いました。読み終わり、タイトルの蛍火は、おりょうの儚さのことだったのかと感じました。

14/07/13 黒糖ロール

かめかめさん

和風吸血鬼、よかったです。
妖艶な感じ、あまりここではみないので新鮮でした。

14/07/13 泡沫恋歌

かめかめ 様、拝読しました。

吸血鬼の男と蛍の描写が和の美しさでした。
こういう日本的な吸血鬼も有りかと思いましたね。

最後に女は死なせて貰って、その方がたぶん幸せなんだと思います。

14/08/23 かめかめ

>草藍さん
夏の宵に蛍は色んなものを運んでくるように思います。
それにしても、女の名前が途中で変わっている事にさっぱり気付きませんでした。おりょう、ごめんよ。
コメントありがとうございました!

>黒糖ロールさん
新鮮かめです。獲れたてです。生です。
コメントありがとうございました!

>泡沫恋歌さん
恋に死ねたらいいな、という憧れがあります。そんなに人を好きになりたいなあ。
コメントありがとうございました!

14/08/23 かめかめ

>草藍さん
夏の宵に蛍は色んなものを運んでくるように思います。
それにしても、女の名前が途中で変わっている事にさっぱり気付きませんでした。おりょう、ごめんよ。
コメントありがとうございました!

>黒糖ロールさん
新鮮かめです。獲れたてです。生です。
コメントありがとうございました!

>泡沫恋歌さん
恋に死ねたらいいな、という憧れがあります。そんなに人を好きになりたいなあ。
コメントありがとうございました!

ログイン
アドセンス