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草愛やし美さん

時空文学コンテスト開催100回、おめでとうございます。思えば、初めて私が、こちらに投稿したのは2012年5月のこと、もう4年近く経ったのですね。時空モノガタリさまが、創作の場を与えてくださったお陰で楽しい時間を過ごすことができました。感謝の気持ちでいっぱいです。 また、拙い私の作品を読んでくださった方々に感謝しております。 やし美というのは本名です、母がつけてくれた名前、生まれた時にラジオから流れていた、島崎藤村作詞の「椰子の実」にちなんで……大好きな名前です。ツイッター:草藍やし美、https://twitter.com/cocosouai 

性別 女性
将来の夢 いっぱい食べて飲んでも痩せているっての、いいだろうなあ〜〜
座右の銘 今を生きる  

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あいつとあたし

14/07/12 コンテスト(テーマ):第六十回 時空モノガタリ文学賞【 涙 】 コメント:10件 草愛やし美 閲覧数:1265

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 あいつ、剛太郎は、幼稚園からほんと泣き虫だった。ちょっとしたことでビービー泣くもんだから手に負えない。引っ越して来た家が近所だっていうだけで、一緒に通学することになったけど、道に出たとたんにビクっとしてもう泣き顔だ。
「とかげは何もしないってば」
「だってぇ……」 
 都会から電車でほんの二時間ちょっとの漁港のあるこの田舎町。あたし、灯(あかり)の家も、漁業で生計を立てている。田舎には畑や田んぼも多い。あいつと通学路を歩くと、河原や畦道からバッタや蛙が顔を出す。あいつは、生き物の類が全て苦手で、キャッと叫ぶとあたしにしがみつく。あたしが追っ払ってやると、ありがとうと小さな声が背後から響く。あいつはあたしの背中に隠れガタガタとまだ震えていた。
「もう弱虫! 仕方ない、あたしが面倒見てやるよ」
 その言葉に涙目のままだけど、嬉しそうにコクンと頷くあいつ。
「ほんと、男のくせに、面倒くさい奴。どうしてそうなるのか、わけわかんない」
「灯が、女なのに凄すぎるだけだよ」
 そんな会話が何十年も続いた。高校は違ったが、あいつとは、幼稚園から、小・中と一緒に通学した。中学の時、あいつは苛めにあった。剛太郎なんて強そうな名前なのに、すぐ泣くもんだから苛めの標的だ。――「おい、お前、なよなよしてすぐ泣いて男のくせに何て奴だ。海の男の住む町の恥だ」とばかりに、男子達に苛めらる。あたしが守ってやるしかない。
「やめろよ、弱い者苛めするのは海の男のやることじゃないだろ!」
 気が付けば、いつも苛めグループの間に立ちはだかっていた。
「馬鹿ね、逃げりゃいいのにさ。今度からあたしの名前を言いな、この辺の奴らはみんな知りあいだから、あたしがずっと守ってやるよ」
 漁師仲間は結束が固い。親に言えば、奴らが怒られるとわかっていた。
 
 ◇

『BAR 夢右……むう、オープンしました。夢右では、毎晩、ショーをやっています。ぜひ、お越しください』──印刷された店の案内状の脇に、小さなあいつの文字が書き添えられている。『灯、僕は、泣き虫とはさよならしたんだ。この店で頑張っている僕を絶対、見に来て欲しいんだ。剛太郎』 
 あいつは、高校卒業前に、都会へ引っ越し、しばらくは手紙のやり取りもあったが、今ではそれも絶えていた。どんなショーなのだろう? あたしは都会へは卒業旅行で出た程度。都会の印象は、人が多くて疲れ果て帰って来たことしかなかった。高校卒業後、漁協に勤務したあたしはこの田舎町でずっと変わらない生活を続けていた。

 ◇

 都会の外れのビルの地下にその店はあった。扉を開けると、剛太郎が出迎えてくれた。席に着くとコース料理がどんどん運ばれて来る。戸惑っていると、「今日は僕の驕りだから一杯食べて、昔のお礼だよ。僕、今からショーの準備あるので、また後でね」と、囁き、あいつは控室に入っていった。
 店内が真っ暗になりスポットライトが幕に当たると舞台袖から、幕前に美しい女性が躍り出てきた。音楽と共に、華麗なダンスが始まる。店の中ほどにあるポールを掴みポールダンスを見せる女性の筋肉が美しい。次々と、女性が出てきて歌って踊る。でも、女性だけど、違和感が漂う、太ったおじさんって人も混じっている。もしかして、全員、男……? あの中心で踊っているのは。「げっ、剛太郎!」 驚愕に眼を見張ったまま妖美な舞台に見とれる。生き生きとあいつは、中心になりテキパキ動いている。弱虫だったのに、あいつは何て逞しいのだろう。

 ショーが終わって美女に変身したあいつが席にやって来た。
「どうだった、灯。この店はドラァグクイーンって言う女装家の店なんだ」
 美女のあいつを前にして、あたしは、わけもなく涙が滲み出て来るのを感じた。ああ、あたしの初恋は終わったんだと切なくなる。鼻がキュンとして涙が溢れてきた。あいつは、必死になって慰めてくる。
「ごめんよ、驚かせて。でも、どうしても、灯には女装のことカミングアウトしたくて……この店で認められて、今度テレビに出るかもしれないんだ、その前に知って欲しくて。あっ、誤解しないでね、僕は女装が好きなだけで、そっち系じゃないから。灯のこと忘れたことなかったよ。いや〜告白するって、照れるなあ」
 涙が止まらない。なんであたしが泣いているのか、あいつには全くわかってないようだ。逞しく生きているあいつ。もう守ってやらなくて良いってこと? あいつは泣き虫を卒業して華麗に変身して、コクってくれている。
「ずるい剛太郎、逞しくってしかも綺麗すぎる」
 やっと、それだけ言えたけど、幼児のようにワンワン泣いているあたしを周りの客が呆れたように見ている。
「今度は、あたしが泣き虫になる番なのよ、だから泣いて良いんだからね」 
 わけのわからないこと言って泣き続けているあたし……。


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このストーリーに関するコメント

14/07/12 草愛やし美

解説: ドラァグクイーンとは、女装家のこと。海外の映画で、有名になった言葉。日本では、古くから、歌舞伎など女形の伝統があり、男性が女装して人前で芸を披露するのに違和感がない素地があったが、近年、人気のあるオネェ系の芸能人の方々が、活躍し、一躍ブームになった。
様々なドラァグ達が、バラエティ番組を通しメディアへ露出するようになり、今では、オネェ系のひとつの形としてドラァグクイーンの存在が社会的に認知され始めている。美しく変身することに憧れ、中世的な存在の女装家のクラブやBARなどが、増え、流行りになりつつある。舞台では、ショーが実施され、歌手の歌に合わせた口パクでの成り切り演技や踊りなど、楽しめる構成になっており人気を博している。

画像左は、ドラァグクイーンが一躍有名になったアメリカ映画「三人のエンジェル」のポスター写真よりお借りしました。
真中画像は、先日私、草藍が実際に行きました女装家のBAR『do with café』で実施されるショーのチラシからお借りしました。右画像は、その時に、携帯で撮りました自分の画像を使っています。

14/07/12 gokui

 読ませて頂きました。
 剛太郎が灯のためと思ってやっていること、灯が剛太郎に求めているもの。2000文字で複雑な男女の心がよく描けているなあと感心しました。おそらく、剛太郎と灯はこの後も友達であるとは思いますが、一緒になるという道はこの時に閉ざされてしまったのでしょうね。

14/07/13 滝沢朱音

草藍さん、こんにちは!

ドラァグクイーンのお話☆ すてきですね。実際にお店に行かれたとはヾ(o◕ฺω◕ฺ)ノ ヒャッホーゥ♫
灯と剛太郎の最後のシーン、わんわん泣く幼なじみを見つめるドラァグクイーン☆絵になりますね。
その後の二人のお話も読んでみたいなぁと思いました。
(実は案外うまくいったりして…?!)

私は「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」っていう映画(大好きなのです♥)でドラァグクイーンのことを知りました。
「三人のエンジェル」、なんだかおもしろそうですね。今度見てみようっと♪

14/07/13 泡沫恋歌

草藍さん、拝読しました。

ドラァグクイーンとは女装家のことですか。
いろいろ新しい言葉があって、こうして創作仲間の作品から勉強させて貰ってます。
人それぞれ、いろんな嗜好があって然りです。
案外、剛太郎くんと灯ちゃんはお互いを認め合って上手くいくかも知れませんね。

楽しく感動的なお話ありがとう!

14/07/13 鮎風 遊

こういう生き方もあるのかと興味深く読ませてもらいました。
灯さんは灯さんで、剛太郎は剛太郎で、それぞれの道を歩めて良かったです。

まあ、それにしてもポールダンスとは…、結構力いるし、難しいんですよね。
剛太郎、よく頑張った。

14/07/13 そらの珊瑚

草藍さん、拝読しました。

途中からの意外な展開に驚きました。
ああ、でも女装が趣味なだけで、心は男でよかったです。

キャラクターが生き生きと描かれていて、面白かったです♪

14/07/25 黒糖ロール

女装家の話、とはいえ、正道の恋愛ものにも思えました。
深読み?するなら、頼れる男になったあいつを前にして、
やっとあたしが女の面をだせるようになったのかな、とも。

14/07/26 kotonoha

読ませていただきました。
ドラァグクイーンって女装家のことだったのですね。
お互いに惹かれあっていても片方が思わぬ方向へ行くときがあるのですね。

人生は面白くまた残酷で悲しいですね。

14/07/29 草愛やし美

>gokui様、コメントありがとうございます。

読んでいただき嬉しいです。。TVなどを通じて女装家さん達の活躍は知っていましたが、先日、女装家さんの店に行き、その素晴らしさに感心しました化粧だけをとっても、私にはまねできないほどの芸術性があると思います。
いろいろな道というか、生き方があるんだなあと思いました。

マツコデラックスさんや、ミッツマングローブさん、ナジャグランディーバさんなど、有名な女装家さんだけでないけれど、頑張っている人を書きたいなあと思い作品にしました。

>滝沢朱音様、お読みいただき感謝しています。
コメントいつもありがとうございます。お店はたまたま半額クーポンで知って行った次第ですが、その迫力には驚きました。映画は全く見ていないのですが、大汗、機会ありましたら、見てみます。きっと、面白いだろうなあと思っています。 
作中の二人、案外、プラスマイナスでうまくいきそうに、作者も願っています。笑顔

>泡沫恋歌様、いつもお読みくださって嬉しいです。

人は様々なパターンがあると思います。ちょっと極端な剛太郎ですが、応援したいと思います。コメントありがとうございました。

>鮎風遊様、そうなんです、いろいろな生き方があってもいい、──そんな時代になりました。現代は、そういう意味で、とてもいい時代じゃないかと思います。最近、ポールダンスはダイエットで流行っているらしいですが、私には無理でしょう、できれば凄く恰好いいだろうなあと憧れます。いやそれより、見てみたいです、まだ実演見たことないんです。大汗 苦笑
コメントありがとうございました。

>そらの珊瑚様、お立ち寄り感謝。コメント嬉しいです。
キャラクター、自分でもノリノリで描けました。書いていて楽しかったです。二人には幸せになって貰いたいなあと作者も希望しています。

>メイ王星様、お読みくださって嬉しいです。
女性心理、嬉しいお褒めの言葉に舞い上がってしまいました。一応、私も女なんですが、女性心理も男性心理も理解が苦手です。物語の中でもよく右往左往してしまうところありますので、コメント凄く嬉しかったです。
灯の涙は、彼が好きだと言ってくれた言葉が嬉しかったことと、彼が女装家だけで、ゲイでなかったというふたつの告白によるものとの設定です。わかりずらかったようですね、もう少し客観的に書けるようにしなければと肝に命じました。貴重なコメントをありがとうございました。

>黒糖ロール様、その通りです。私の拙い文章から、読み取っていただき嬉しいです。コメントありがとうございました。

>kotonoha shizuku様、お忙しい中をお立ち寄りくださって感謝しています。
女装家さんは、この作品の場合、歌舞伎役者さんくらいの立場に考えていただければ幸せに思います。
私の文が未熟なため、うまく表現し切れていなかったようです。私はどうも主観が入り過ぎる欠点がありまして……汗 もっと、精進して、分かり易い客観的な文を書ければと願っております。コメントをありがとうございました。

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