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浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。

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ひときわ

14/07/11 コンテスト(テーマ):第六十一回 時空モノガタリ文学賞【 夜に光る 】 コメント:1件 浅月庵 閲覧数:1021

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 ーー黒。私が唯一自信を持ってわかる色で、産まれた時からずっと私はあなたと顔を付け合わせ、にらめっこをし続けている。目を背けても瞑っても、あなたは私の前へと現れ、特に表情も変えずそこらを覆っている。
 私はずっと檻の中だ。一寸先も遥か未来も“闇”が待ち構えていて、この景色が政治と一緒でなにも変わらないことを知っているし、また今日も周囲を埋める車のクラクションの音は、私の存在意義をかき消そうと忙しい。
 甲高い無機質な音が、お前なんかこの世に必要ないんだよ、消えちまえって罵声に聞こえてきて、余計に私は一歩を踏み出せない。責められれば責められるほど私は膝が震え、たちまちに自分を鎖で縛り上げて固まってしまう。誰か助けてください、なんて言葉、乾涸びた喉から絞り出そうにはあまりにも勇気が足りなすぎる。

 すると、私は不意に肩を叩かれる。「大丈夫ですか? ちょっと失礼しますね」柔和な声が私の鼓膜を震わせる。
 次の瞬間、私の体は足を揃えて宙に浮き、もの凄い勢いで体ごと移動する。どうやら私は抱っこされているようだ。
 ーー車の通らない安全地帯へ逃げ込み、私は降ろされる。地に足のついた私は恩人にお礼を言おうとするけど、なかなか声が出ない。「あ、あの......」
「困ってるんだったら助けを求めて良いと思いますよ。案外、この世界のみんな捨てたもんじゃないと思うし」彼の言葉はまるで、優しさを凝縮した花束のように私の手元へ届けられる。私が道路で立ち往生している様子を見ていた周囲の人たちが大丈夫かい、と声をかけてきて、私は我慢ができなくなる。
「......うぅ.....」押し殺していた感情が一気に溢れ出る。目の前にいるのは赤の他人なのに、私は我慢できなくなって涙で地面にSOSのサインを刻んでいく。そのあまりにも優しすぎる一言はきっと汚れのない白なんだろうな、と思いながらも明確にあなたたちの思っている白と同じなのかは断言できない。でも、とても素晴らしい色なのだということはわかる。

 彼は泣きじゃくる私に困った様子も見せず、この手を引いて、 ご飯を食べに連れて行ってくれる。助けてほしいと頼んだつもりもないのに、彼の気遣いや暖かい言葉は私をどんどん救ってくれる。昼間の海にも連れて行ってくれるし、楽しさや喜び、解放感を私に無償で与えてくれるのだ。

「どうしてあの時、私のことを助けてくれたの?」と聞くと「それが当たり前だからだよ。君でなくても助けた」と言われてちょっと凹むけど「でも、優しくするのは君のことが好きになったからだよ」と言われるとちょっと照れる。ある意味バカップル。
 映画に行きたい、美術館に行きたい、動物園、水族館なんて私のわがままを、彼は迷った様子も困った様子もなく受け入れてくれる。
 行ったことのないところへ行ってみたい。私の目に映るのは黒一色に決まりきっているけど、彼が普通に感じるものに私も触れてみたいのだ。空気感をその肌に、この手に。

 私は本当に幸せだ。ずっと暗いところにひとりぼっちで、寂しくて悲しくて辛くても誰にもなにも言えなかった。
 そんな私を、彼は檻の中から解き放ってくれた。こんな待ち望んでいたこと、他にないだろう。

 一度だけ、もし一度だけ抗えない運命を聞き入れてもらえ、夢を叶えてくれるのなら、私は数秒だけでも良いから彼の服装を、手を髪型を、その顔をこの目で眺めてしっかり脳裏に刻みつけたいと思うけど、勿論それはただの妄想だ。
 まぁそれでも、私は全然構わない。この手に掴んだものは大きくて、私が両手で抱え込もうと思っても次から次へと溢れ出てしまうほどいっぱいで大切なのだ。

 ーー今までもこれから先もずっと私の世界は“夜“だ。どんなに世界が笑顔に満ちても、私の世界に赤も青も緑も黄色も間違ってふらーっと迷い込んでくるなんてことはあり得ない。
 でも、そんな夜の中、あなたは私の思う“白”でひときわ輝いていて、この世界に何十億人いたって、残念ながら私はあなたを見つけ出すことなんて容易いのだ。目映い光を頼りに、その頼りになる右手を掴まえて、もう絶対に離さないから、と冗談めいて笑顔をこぼすことなんてもう今となっては簡単なのだ。


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このストーリーに関するコメント

14/07/27 光石七

拝読しました。
夜の中の光、こういう切り口もあったんだと感嘆しました。
これからもお幸せに、と伝えたいです。

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