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たつみさん

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切なき呪縛

14/07/06 コンテスト(テーマ):第六十回 時空モノガタリ文学賞【 涙 】 コメント:0件 たつみ 閲覧数:659

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小学2年生の大輔に父はいない。母は……。
3ヶ月前、大輔は肺炎と喘息で入院していた。
体調が安定した頃、ベッドに横たわる彼に母親は「ちょっと仕事場に行ってくるね」と声をかけた。
それに対し大輔は泣いてぐずった。
普段なら、仕事に行く母を、彼は笑顔で見送っていた。本当は寂しかったとしても。
だけど今は、病気で心細くなり、無理矢理抑え込んでいた素直な幼な心≠ェ顔をだしてしまったのかもしれない。
母親は辛さを押し隠し、「ごめんね。ちょっと顔をだしてくるだけだから。ほら、もう泣かないの。大ちゃんがいい子にしていたら、すぐに戻ってくるから」
だが、半身を起こした大輔は、嫌々、と幼児のように首を振っている。
母親は彼の涙を拭い、「もう、泣かないの。ほら、約束しよう。大ちゃんがいい子にしていたら、ママはすぐに帰ってきます」
大輔が視線を上げると、柔らかな微笑み浮かべた母親が小指を立て、「ママが約束破ったことある?」
大輔は首を横に振り、肩を揺らしながらもぐっと涙を飲み込んだ。
二人の小指がしっかりと交わった。
   ★
――ぼくは、おじさんやおばさん、先生のいうことをちゃんと聞いています。友だちとケンカもしません。いい子にしています。

ぼくが暮らすおじさんの家に信雄という茶髪男が現れた。外国で写真を撮っていたというおじさんの息子は「俺がおしめを替えてやったこともあるんだぞ」と頭をグリグリ撫でてきた。そして、次の瞬間には目を潤ませ、「大変だったな。交通事故で、亜紀おばちゃんが……」
すかさず、おばさんが「このバカ息子!」と頭をはたいた。
ぼくは目を強く閉じ、その場を後にした。
あの日から、大人たちが今みたいな言葉をぼくに投げかけてくる。その時は強く目を閉じればママの言葉が浮かんでくる。約束とともに。

だから――ぼくは泣きません。いい子にしています。

信雄くんはいろいろなところに連れていってくれます。
この間は近くにある遊園地に連れてってくれました。
信雄くんは、大人にはつまらなそうなものでも、子供みたいにはしゃいで言っていました。「ほら、大輔、もっともっと楽しめ。つまらなくたって思いっきり笑え。そうしたら楽しくなる。10倍も100倍も」
観覧車にのった時には突然、真剣な顔になり、「もし嫌なことがあったなら怒れ、泣きわめけ、子供なんだから大人を困らせてやれ」と言っていました。


そんなある日、信雄くんが「ドライブに行くぞ」と言いました。
そして、着いた場所……。
ぼくは車から降りることができなかった。
初めての場所だけど体が、嫌だ、と言っている。
あの日≠ゥら――再び熱がでて、ぼくの入院は数週間続いた。退院してからも、ぼくは無言で首を横に振り、ここにくることは拒み続けた。
信雄くんが、ぼくを無理矢理車から引っ張りだし、石の前に立たせた。
ぼくは石から視線をそらし、目を閉じた――ママはここにはいない。
その場を離れようとすると、信雄くんがぼくの腕を掴んだ。
「いいか、大輔。逃げずにしっかり見ろ! これがお前のママのお墓だ」
ぼくは瞑った目に力を込めた。強く強く――

――ママ。ぼくは泣きません。いい子にしています。

「大輔! 大輔!」
叫び声が響いている。
ママの声が聞えない。
「大輔! 大輔!」
約束が消えちゃう――やめろ!
ぼくは目を開け、目の前へと視線をぶつけた。
信雄くんが真直ぐぼくを見つめ、叫んでいた口を噛みしめている。
漏れでたような静かな声が聞えてくる。「いいか、大輔。この下にあるものをよく見とおけ」
向きを変えた信雄くんが、お墓に手をかけた。
腕に力を込めている。
ぼくはその腕にしがみついた。
信雄くんは顔をぼくに向けて、「大輔! お前のママは死んじゃったんだよ」
「バカ! なんでそんなこと言うんだよ。ママは戻ってくる。約束したんだ!」
ぼくは目の前にあるものを何度も何度も叩いた。
今までとどめていたものが体の中から溢れてくる。
目からも――ぼくは拳を握りしめて堪えた。

――ママ。ぼくは泣きません。いい子に、いい子にしているよ。だから、戻ってくるよね。戻ってきてくれるよね。ねぇママ、約束したよね。ねぇママ、ママ、ママ……。
 
何も聞こえてこない。
ママは何も言ってくれない。
だけど、上から優しい声が降ってきた。
「大輔、泣け。悲しい時は、思いっきり泣けばいいんだ」
目の前には、ぼくの拳と大きな胸がある。見上げれば、信雄くんの目から大粒の涙が流れ落ちている。
ぼくは目の前の胸に顔をうずめた。そして――「ママ!」
あの日以来、その言葉を初めて声にだして叫んだ。
とめどなく涙が溢れてくる。
辛いけど、苦しいけど、悲しいけど……涙は止められない。

優しく包み込んでくれる腕の中で、ぼくは思いっきり涙を流した。


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