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ナポレオンさん

まだまだ未熟者ですがコメントもらえると嬉しいです。 忙しくてなかなか投稿できませんでしたが半年ぶりに復活してみました。 しかし、皆さんレベルが高いです^_^;

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青春の熱病

14/07/02 コンテスト(テーマ):第六十回 時空モノガタリ文学賞【 涙 】 コメント:7件 ナポレオン 閲覧数:906

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それはひどく暑い真夏の夜のことだった。
僕は、その日もなかなか寝付けずにいた。田んぼや畑ばかりのこの小さな町では、夜になると虫やカエルの声だけが聞こえていた。やがて寝ることをあきらめた僕は布団から出て着替えを済ませると、静かに玄関の戸を開けた。寝付けない夜は、いつもこうして突然外に出てはふらふらと当てもなく町をさまようのであった。とはいってもこんな熱帯夜では涼みにもならない。真っ暗な道を歩く僕の体はむしろ湯気が出そうなほど火照り始めていた。その姿はまるで、熱病に冒された患者の様だった。

夜の街は、ただ歩くだけで昼間とは違って刺激的だった。その夜は、月は出ていなかった。空に光る満点の星々は町全体を包み込むように照らしていた。僕は当てもなく歩きながら、道端の白い花や庭先の灯篭がわずかな光を受けて神秘的に輝く様を眺めるのが好きだった。僕もこんなふうに星明かりに照らされて輝いているのだろうか、なんて変なことを考え時折一人で恥ずかしくなった。
静まり返った夜道にカエルの声と僕の足音だけが響く。田舎なので人と会うことはほとんどない。たまにふらふらと出歩く老人を遠目に見るくらいだ。いつもは、そんなふうに近所の田んぼの周りをぶらぶらするだけだったが、この日は少し先にある、この町では珍しく深夜でもやっているコンビニまで行くことにした。それはこの夜がいつも以上に暑かったからなのかそれとも僕の体がいつも以上に熱かったからなのかは、今となっては分からない。

コンビニは町の中心部にあった。中心、とは言っても小さな町役場や郵便局があるだけなのだが、田んぼや古びた民家しかない近所とは違って夜になっても明かりが絶えることはなかった。煌々と光を放つ自販機やひっそりと佇む電灯が容赦なく僕のことを照らし出した。その光に、普段はひた隠しにしている僕の心の奥の奥まで見透かされるような気がして僕の体はいつも以上に熱を帯びた。

ふと、近くに人の気配がした。黒っぽい服のために気が付かなかったが、僕の少し先を高校生くらいの女の子が歩いているのが分かった。よく見ると、同じ高校に通うハルカという幼馴染であった。
「ハルカじゃないか」
僕は彼女の方に駆け寄った。彼女は僕の方を振り向くと、驚いたような顔で口に手を当てた。
「きゃっ、あ!ユウ君!?どうしたの?」
「ちょっとコンビニまで行こうと思ってね」
「え、ああ、そうなんだ、私もコンビニに行こうと思っていたところなの」
彼女の笑顔はどことなくぎこちなかった。
「奇遇だね、でもこんな夜中に一人で出歩いちゃ危ないよ」
「そ、そうかもね。こんな田舎でも変態さんの一人や二人いるかもしれないわね」
それから僕たちはコンビニまでの道を二人して歩いた。相変わらず、ひどく蒸し暑い夜だった。
「それにしても暑いね」
「そうだね……」
「コンビニに何買いに行くの?」
「さあ……」
何故だか、ハルカの態度がだんだんと冷たくなっていく。
「どうしたの?さっきから静かだけど、具合でも……」
夜の静寂を引き裂く乾いた音が響いた。彼女が僕のほほを張り倒したのだった。
「近づかないで!この変態」
僕は何も言えず、痛んだほほを撫でた。彼女の声は少し上ずっていた。見ると、彼女は大粒の涙を流して泣いていた。
「私、ユウ君のこと好きだったのに、それなのに、なんで、なんで……」
それっきり彼女は今まで歩いていた方とは逆向きに走っていった。
「待ってくれ、これは、これは――」
僕は全力で駆けていく彼女のことをただ茫然と見送ることしかできなかった。
「変態……か」
確かに変態か変態じゃないかで言えば僕は変態だろう。艶やかなサテンのマントの下に女児向けのスクール水着とひらひらしたレースのスカート、赤いリボンのついたニーソックスを身に着けた僕はまぎれもなく変態だった。
「僕も君のことが好きだったんだ……」
僕は彼女の消え去った後の吸いこまれるような闇に向かってそうつぶやいた。

その時、じめじめとした熱病のような夜を冷ますように、空から大粒の雨が降り注いだ。静まり返った夜の世界は一瞬にして雨音にかき消され、僕は世界からも孤立してしまったようだった。
僕はずぶぬれになるのも構わず立ち止まり、僕の青春が雨に濡れた砂の城のようにさらさらと崩れていく音を聞いた。嗚呼、寒い。こんなにも寒いのか、青春の終わりというものは。
この凍てつく寒さのわけは、僕が変態という熱病に冒されているせいでも、針のように降り注ぐ雨のせいでも、スカートの下で水着の局部に開けられた穴から`あれ’があれしているせいでもない。彼女が最後に見せた涙の一滴が僕の心に触れたことだけが唯一の原因なのだ。

17歳の夏。青春の熱病から解放された僕は降りしきる雨の中、一人家路についた。


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このストーリーに関するコメント

14/07/02 タック

拝読しました。

確かに変態的で、確かに異様な光景ではあるのですが、それでも確かに「青春」の香りのする作品ですね。主人公の服装を想像すると、思わず笑ってしまいます。
嫌われた理由は明白なのに、どこか理不尽さのようなものが感じられ、作者様の力量の素晴らしさによるものなのだろうな、といたく感心しました。
真夏の夜の空気、雨の中の変態的な十七才、とても不思議でありながら、青春の甘さただよう御作、たいへん面白かったです。ありがとうございました。

14/07/03 メラ

ナポレオンさま、拝読しました。
いやあ、ビックリしました。純文学的な雰囲気がいきなり変態話。サプライズな展開で面白かったです。
変態か。ちなみに東京都港区青山に勤務していた頃、深夜に全裸で歩く変態に遭遇し、会話したことあります。「きもちいいっす」って言ってました。

14/07/05 クナリ

生半可な突ッ込みなど入れる余地もない、最後まで真剣かつおおまじめな主人公がとてもいいです。
彼女の笑顔がぎこちなかった理由、そもそも最初にひどく驚いていた理由、そもそも彼女と出会うまでのくだりでの彼の描写あれこれ…とさかのぼっていくと、周到な複線やミスリードに改めて気づきますね。

14/07/06 ナポレオン

タック様
コメントありがとうございます。
作者の力量だなんてこんな変態話にもったいないお言葉、ありがたく受け取ります。青春というやや暴走しがちでデリケートなものを大分極端に書いてみました。面白いと言っていただきありがとうございます。

メラ様
純文学とみせかけての変態展開にサプライズを感じてもらえて大変うれしいです。本当はいつか真面目な純文を書いてみたいのですが、実力が追いつきません(+_+)
深夜に全裸ですか……実に気持ちよさそうですね。……冗談です。

14/07/09 ナポレオン

クナリ様
コメントありがとうございます。
とにかく真面目な変態を出せば面白くなると思ってる単純な筆者です(笑)。
若干最初からオチをにおわせる感じにしたので気づいていただけてうれしいです。

メイ王星さま
コメントありがとうございます。
彼は変態を突き詰めて達観してしまったのでしょう。その気持ちは彼のような変態にしかわからないのであります。

14/07/16 ナポレオン

凪沙薫様
コメントありがとうございます。
誰にでも思い出したくない青春はありますよねー。私なんかは現在進行形で黒の歴史を紡いでるような気がします……。ユウ君には冷静になってもらうことを祈りましょう。

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