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ポテトチップスさん

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グラウンド・ゼロ

14/07/01 コンテスト(テーマ):第六十一回 時空モノガタリ文学賞【 夜に光る 】 コメント:1件 ポテトチップス 閲覧数:857

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東京の夜空が一瞬、カメラのフラッシュのような強い光で包まれた。町田駅から自宅に向かって歩いていた野口洋介や周りにいた人々が、光につられて空を見上げると同時に、凄まじい爆音が鼓膜を振るわせた。落雷する音とは違った人工的な何らかの爆音に、野口や周りにいた人々は耳を両手で押さえた。
星のない夜空に浮かび上がるキノコ雲を見た時、両手で耳を抑えたまま息をのんだ。
『あの方角は都心だ……』野口は携帯電話を取り出し、千代田区に所在する国立演芸場に2人の息子を連れて落語を観に行っている、妻の芳子の携帯電話に電話を掛けた。
「ただいま回線が込み合っています。しらばく経ってからお掛け直しください」何度掛けなおしても、同じガイダンスが流れた。
野口の体中の血液は激しく血管内を流れ息が荒くなり、それでいて頭は真っ白といった風で、何も考えが浮かんでこなかった。
近くにいた背広を着た中年男性が叫んだ。「北朝鮮が永田町に核爆弾ミサイル攻撃をしたらしい! 早く東京から離れろ! 強い放射線で被ばくするぞ! 東京から離れるんだ!」
男の叫びを聞いた人々は、走って逃げる者や車を急発進して逃げる者で慌ただしくなった。
野口は中年男のワイシャツの襟首を両手で掴んで「妻と2人の息子が千代田区にいるんです!」と叫んだ。
「もう死んでるよ! 千代田区にいる人や動物は全滅だ。あんたも早く東京から離れろ!」
「離れられる訳がないでしょ! 妻と2人の息子に連絡がとれないんだから!」
「2発目の核爆弾ミサイルが飛んでくるかもしれんぞ!」男はそう叫んで、野口の手をほどき走って逃げて行った。
そうだ、タクシーで国立演芸場に妻と子を探しに行こうと思い立ち、町田駅ロータリーに向かった。向かう途中、警察車両や消防車、救急車が都心の方向にスピードを上げて通り過ぎて行った。
駅前ロータリーに到着するとタクシーは一台も無く、大勢の人が改札口で不安そうに自分の手で自分を抱くようにして佇んでいた。
電車も運休となっていて、妻と子を探しに行く手段がなくなった。
「なんで運休なんだよ! 妻と子を探しに行くから俺を都心まで運んでくれよ」
「緊急事態なんですよ! 核爆弾ミサイルが永田町に落ちたんです。どうやって通常運転できますか! 私だって今すぐにでも逃げたいんです!」駅員が息を荒くして怒鳴った。
「俺は……、俺は、どうしたらいいんだよ!」野口は頭を掻きむしった。
走ろう。走って妻と子を探しに行こうと野口は思い、町田駅を出ると町田街道を246号線まで全力で走った。しかし、都心へと続く246号線まで来ると、自衛隊が道路を封鎖していた。
「危ないですから、今すぐにでもどこか安全な場所に避難してください」
「行かせてくれよ。妻と子が爆心地にいるんだよ!」
「お気持ちは分かりますが、危ないですので、避難してください」
「なんで自衛隊は北朝鮮の核爆弾ミサイルを爆破しなかったんだよ!イージス艦や地上からミサイルを迎撃するパトリオット・ミサイルだって配備してるんだろう。何のための自衛隊だよ! 国民一人すら守れずに何が国を守るだ!」
「本当に無念です。悔しいです」
「無念だ悔しいなんて言うなよ! 何で……守ってくれないんだよ……」野口は地面に膝をついて泣いた。自分が嫌いになった。心底嫌いになった。妻の芳子に国立演劇場でやっている落語のチケットを渡し、子供達を連れて行って来いよと勧めたのは自分だった。会社の社長から落語の講演チケットをもらい、さほど落語に興味はない妻に、捨てるのはもったいないからと言って渡したのだ。
野口は迷彩服を着ている自衛隊員の脚に強くしがみつきながら、涙が枯れるまで泣いた。

全世界史上、3例目の核爆弾が投下された日から2ヶ月が過ぎた。
北朝鮮は自衛隊も加わった国連軍の14日間に及ぶ攻撃により、無条件降伏をした。
日本の首都東京の中心地に着弾した核爆弾は、一瞬のうちに10万人の人々を命を奪った。それだけでも深刻だったが、火事や強い放射線被ばく、さらには酸素欠乏により核爆弾ミサイル着弾から30日後には、死者の数は32万人にまで増えた。
野口は仏壇の妻と2人の子の遺影に向かって手を合わせた。亡骸すら無く、もしやすると『ただいま』と言って、今日にでも帰って来てくれるような期待をいまだにしてしまう。
野口は目を瞑った。
瞼の裏にあの夜のあの眩しいカメラのフラッシュのような閃光が光った。妻と子が不幸中の幸いだったのは、一瞬にして苦しまずに亡くなったことだ。
野口の閉じた目から、涙が頬をつたってズボンを濡らした。

おわり


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このストーリーに関するコメント

14/07/23 ポテトチップス

凪沙薫さまへ

感想ありがとうございます。
コンテストのテーマが『夜に光る』だと目にしたとき、東京の中心部に核爆弾が落ちたらどうなるだろうと、不謹慎ですが想像してしまいました。

実際、もし東京の中心部に核爆弾が落ちたら32万人が1ヵ月以内に亡くなるという本を見かけました。
恐ろしい話ですが、まったくのゼロの話ではないと馬鹿な私は思ってしまいます。

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