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黒糖ロールさん

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水色のピアス

14/06/30 コンテスト(テーマ):第六十回 時空モノガタリ文学賞【 涙 】 コメント:8件 黒糖ロール 閲覧数:933

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 瑠衣にとってのピアスは、やっぱり感情の塊なのだ。無表情な瑠衣の顔を見つめながら、そう感じた。
 左耳に三つ、右耳に五つ、ある。仲良くなってから知った数だ。
 人が親しくなるにつれ、教えあう数字が増えてくる。家族の人数、年齢、経験人数、身長、体重……。まあ、生まれたときからあいてる穴の数は聞かなくてもわかるが、と下品なオチを考えていると、
「今、エロいこと考えてる」
 ぶっきらぼうに瑠衣から指摘された。ああそうだ、と答えながら、瑠衣の耳たぶとピアスを撫でた。
 最近、耳たぶを舐めさせてくれない。唾液に含まれる菌、などという動画を見たせいで、ピアスの穴から雑菌が入るのが嫌になったらしい。
「おい、耳たぶ舐めたいのか。かわりにこれ食べれば。食感似てると思う」
 今も瑠衣は釘を刺してきて、果汁入りグミを渡してきた。俺は子供扱いをされている、とため息がでた。こんなに甘くないぞ、と言ってみたが無視された。
 瑠衣は眠いのか、うつらうつらしている。猫そのものだと思いながら、眠りにつくまで付き添うことにした。


「芸術とカップルは爆発だー!」
 お洒落に気を使った居酒屋チェーン店で、そう叫んだのが瑠衣だった。しばらくして、彼女はさらに大声で繰り返した。友達と二人で飲んでいた俺は、隣席からの声にびっくりした後、なかなかよくできたセリフだと感心してしまった。
 彼女の第一印象は酔っぱらい以外の何物でもなかったわけだが、しばらくして席を跨いでの絡み酒となり、失恋話に付き合わされ、音楽の趣味が合って意気投合、次の朝、気がつけば隣で瑠衣は寝息をたてていた。
 そんな馬鹿なという話だが、ドラマでは馴染みのあることで、既視感さえ覚えた。もしかすると、ドラマの典型ストーリーを何度も人々が視聴することで、日常にこうしたドラマが起きやすくなっているのか。などと、この状況について、妙な分析をしながら、口が半開きになった瑠衣をあらためて見た。化粧が濃く、きつい顔つきをしていた。ミカのカがやけに難しい字の、歌手の中島によく似ていた。後で聞くと、憧れの人らしかった。
 後日、ファーストフード店で、瑠衣と付き合うことになったと説明すると、友達は呆れたように言った。
「お前の恋愛って、相変わらず早くて安いよね。牛丼チェーン店か」
「早くも安くもない、真剣だ。付け加えるなら、美味いとは思う」
 茶髪を振り乱し、目にかかった尖った前髪で友達の目を突く勢いで力説した。
「はいはいっと。あ、追加でポテト頼んでくる」
 マッシュルーム型の黒髪、黒縁眼鏡、亀の甲羅模様の如く缶バッチいっぱいのリュックという出で立ちの友達が遠ざかっていく。
 音楽好きという共通点は服装の壁を超える。しみじみ彼の後ろ姿を見るたびに感じてしまう。
 正直、自分自身、瑠衣と長続きするとはまるで思っていなかった。
 ただ、初めて一緒に朝を迎えたとき、頬の涙の跡を見てしまったからには、という想いはあった。


 芸術系の専門学校に通う瑠衣は、アンバランスな内面を押し隠す鎧のように、服装が完全にパンク系だった。顔は端正だが、性格は根暗なほうらしく、モノクロのえげつない絵をよく描いていた。
 悩める女子と一括りにしては失礼だが、瑠衣は、いわゆるメンタルヘルスに通う女性だった。自傷癖はなかったが、髪で隠していた耳のピアスが全部見えたとき、なるほど、と腑に落ちたところはあった。瑠衣いわく、泣きたいときにほとんど泣けないらしい。
「ああ、それ間違いなく、泣く代わりにピアスあけてるよな」
 訳知り顔で指摘したところ、
「勝手にわかった風に言うな。上から目線な男ってキモいんだよ」
 ぴしゃりと言い返された。タトゥーや過剰なピアスといったものが、社会的な記号でどう扱われるのか、その意味を知ってはいるが実感していない年齢の危うさを目にしたような気がして、少し億劫になった。
「愛ってなんだろ……」
 結局、煙草をふかしながら、口にすれば笑ってしまうようなことに悩んでいる姿がとても微笑ましく、庇護欲を掻き立てられたのは事実だ。口にせず悩むのが大人の嗜みだとすれば、憚らず口にできるのが若者の才能なのかもしれない。


 瑠衣の耳たぶのピアスは凝り固まった涙の証だと決めつけてから、半年間付き合いが続いている。
 こうして寝顔を見ていると、俺はピアスがやっぱり苦手だと思った。むにゃむにゃいう彼女を見つめながら、できればひとつずつピアスがとれていけばなあと祈ってみる。
 手の中で人肌にあったまった果汁グミを口に入れると、意外と美味しかった。


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このストーリーに関するコメント

14/07/01 泡沫恋歌

黒糖ロール 様、拝読しました。

過度に開けたピアスというのも、一種の自傷行為なのかも知れませんね。
あれはみていて痛々しい感じがします。

主人公の性格が優しいので、瑠衣さんのピアスの穴がいつか塞がっていくかもです。

心に沁みる良い作品でした。
ありがとうございます。

14/07/01 草愛やし美

黒糖ロール様、拝読しました。

なかなか可愛らしい彼女さんですね。若者の感覚はこのようなものなのかなあと、老いた私はぼんやりした輪郭の中で読み進みました。まさに知らない世界に踏み込んだ楽しさがあるお作ですね。「芸術とカップルは爆発だー!」この場面に素晴らしい名文句だなあと、頷きました。

数えられない、いわゆる形にできない涙の表し方を、ピアスの穴で表現され、瑠衣が隠している心の痛みがそれによって見えてくるようですね──凄く上手いなあと感心しました。

14/07/03 黒糖ロール

泡沫恋歌様

私もピアスたくさんあけてる人みるとぎょぎょぎょっとなります。
もちろん個人の自由なのですが…。
主人公は優しい男っぽいですね。見習いたいものです。


草藍様

若人の知り合いが何人かおりますので、彼らの話を参考にしました。
若人たちの感覚を想像して書いたのですが、意外と楽しかったです。

カップル爆発してくださいっていうのは、常日頃思っております:-)
泣くとすっきりするので、瑠衣さんにも泣くことをおすすめしたいですね。

14/07/09 gokui

 読ませていただきました。
 「涙」のお題に、泣けない女性という、「あっ、やられたなあ」とつぶやいてしまいそうな見事な発想でした。その手があったか! ちょっとまねしちゃうかもです。

14/07/12 かめかめ

ピアスが何色なのか気になるところです。

14/07/13 黒糖ロール

gokuiさん

やや、そんな発想だなんて…。恐縮です。
どうぞどうぞ、まね?してくださいませ。



かめかめさん

題名には水色とありますが、たぶん水色じゃないと思います:-)
小説って、だいたいウソでできてますから。

14/07/14 光石七

拝読しました。
泣きたいのに泣けないのはつらいですね。泣くことでスッキリする部分もあるので。
ピアスを開けることが涙の代わり、瑠衣の心のアンバランスさが伝わってきました。
でも主人公の優しさが彼女を変えていきそうな予感があります。
素敵なお話をありがとうございました。

14/07/25 黒糖ロール

光石七さん

主人公優しい…んでしょう、たぶん。
チャラ男のような気もしますけれど(笑)
やっぱりおっさんからすると、ピアスはあんまりあけないほうがいいとは思いますね。
コメントありがとうございました。

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