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タックさん

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爆走疾走! 白線レース

14/06/27 コンテスト(テーマ):第五十九回 時空モノガタリ文学賞【 ON THE ROAD 】 コメント:10件 タック 閲覧数:1819

時空モノガタリからの選評

固めの文章と内容の「バカバカしさ」のギャップが面白かったです。「白線からのはみ出しがすぐさま敗北に繋がる「白線レース」」には、小学生のような無邪気さと、やんちゃな若者のエネルギーを感じました。真面目に考えるのは野暮かもしれませんが、「普通に道路を歩くようになっちまった兄貴」に失望した「若者」のように、いかにバカバカしくとも自分たちだけのルールに拘泥し、大人の世界に染まらずに生きたいのが、ある種の若者なのかもしれませんね。夜中にわざわざ行われるところも暴走行為に似た反抗心を感じますし、心を癒すカタルシスのようにも思えました。こうした若者の行為はしばしば傍迷惑なものだったりしますが、この場合の「迷惑」はむしろ可愛らしいくらいで好感が持てますね。「白鳥の湖走法」などアイデアも面白かったです。

時空モノガタリK

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深夜、商店街。
歩道には多くの若者が立ち並んでいる。道路を囲むように列をなしている。
――その、若者たちの目的はただ一つ。「白線レース」におけるタツミの疾走。
怪我により休業していたタツミの復帰を、間近で見ることにあった。

「白線レース」王者、タツミ。挑戦者、茶髪の若者。
道路の両端、コースである白線上にふたりは立っていた。
横位置をそろえ、戦闘の気合をそれぞれ高めていた。
周囲には、つばを飲む音だけが響いている。緊張が波紋となり広がっている。
開始一分前。
ふたりは合わせたように白線上にかがみ、目線を上向け、
――そして、商店街の電子時計が全てゼロに形づくられた瞬間、両者はタイミングを等しく道路を蹴りあげた。靴音が静寂をやぶり、歓声が商店街にこだました。





間もなく起きたざわめきにタツミは対岸を見、瞠目した。

(なに!? ……あれは、まさか)

スタート直後にも関わらずタツミと若者には差が生じていた。
タツミが若者の後塵を拝する形となっていた。
だがタツミと、知識を持つ一部の観客の驚愕はそこにない。
彼らが驚きと既知を感じたのは、若者の異様な走法にあった。

(前に見たことがある。……確かに、この場所で) 

若者のフォームは太ももを高く上げる平凡な短距離走のものである。それはあまりにも危険な走法だった。白線からのはみ出しがすぐさま敗北に繋がる「白線レース」には、あまりに不似合いにすぎる走法だった。――しかし。

ざわ、と集団から趣の異なる声が上がる。
タツミと一部の者に遅れること数秒、集団はようやくその違和感に気づいた。

(あれは『白鳥の湖』だ。間違いない。なんで、あいつが)

若者の速度の理由――。それは地面に全足裏を接地せず、つま先だけで走る『白鳥の湖』と呼ばれる走法にあった。
接地面が小さくなることにより、はみ出しの危険を減少させる。
速度に対する意識の比重を高めることのできる、選ばれた者の走法だった。

(……まさか、あいつ)

先行する背中。タツミの脳裏にひとつの影が浮かぶ。過去に打ち破った男の姿だった。




(……タツミさん。あんたに負けた後の兄貴を見るのは辛かったよ。『白鳥の湖』を捨て、普通に道路を歩くようになっちまった兄貴……。俺の憧れはいなくなったんだよ)

レースの中間地点を先に通過したのは若者だった。
立ち遅れた王者、タツミは致命的な遅れを見せていた。

(勝つんだ。兄貴のために、――そして俺のために、勝たなきゃいけねえんだ)

若者の顔は歪んでいた。
足は悲鳴を上げ、目に見えて速度は落ちていた。
――速度の代償である。『白鳥の湖』は負担が大きく、急激な疲労が付きまとう。
もはや通常の走法すら不可能になっていた。足はひどく痙攣していた。
――自らの限界を意識する。それでも若者に表出したのは、紛れもない笑みだった。

(『白鳥の湖』の弱点は知っていたよ。でも、……あんたの怪我が治っていないこと、それでもレースに出てくることも、俺は分かっていた。――もう、十分に距離は稼いだよ。その足では追いつけないだろう?)

苦悶の表情。若者は背後を見やった。 
タツミと若者の距離は、逆転不可能なほどに開いているはずだった。

――しかし。

(…………な、なんだと!?)

――焦燥と畏怖に若者の顔は凍りついた。
太ももには血がにじんでいた。
体は苦痛に崩れていた。
だが、タツミは接近しているのだった。伯仲しているのだった。
唇を噛み、全盛の威容で、白線を駆けているのだった。

(――馬鹿な!? その足で、なぜその速度が出せる!?)

真横に迫るひとつの疾風。
若者は焦り、『白鳥の湖』を再び体現しようとする。
だが、足は動かない。飲み込まれる感覚に溺れるばかり。
タツミは笑んだ。鬼面のごとき異相で笑みを浮かべた。

(お前は強い。……もしかしたら、あいつよりも。だがな、俺は王者なんだ。『白線キング』の名は、そう簡単に譲れないんだよ)

差は埋まっていく。ゴールである街灯は眼前にある。
血を垂らし、気迫全開の走りを成すタツミ。
棒の足に復讐心を宿らせ、前を向く若者。
集団にも勝者は予想できなかった。
どちらも勝者に相応しい精神だった。


だが、そのどちらも勝者になる事はできなかった。
ゴールまで辿り着けなかったのだ。





「……で、おたくら、何してたの?」
「あの、……は、白線、レースです」
「……は?」
「……いえ、なんでも、ないです、はい」
 警察署である。ふたりの走者は縮こまっている。任意で連行されていた。騒ぎに対する、近隣住民による通報だった。
「あんたらさ、何してんのよ。こんな夜中に人様に迷惑かけんなよ」
「……」「……」
ちなみに観客の若者たちはすぐ逃げた。すげー早さだった。


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このストーリーに関するコメント

14/06/28 クナリ

緊張と閑話の妙、楽しませていただきました!
まるで異世界の話のように展開し、最後に現実に着地する感覚がよかったです。

14/07/01 光石七

拝読しました。
「“白線レース”って何?」と思っていたら…… そのままでしたか。
『白鳥の湖』走法に笑ってしまいました。
馬鹿馬鹿しいんだけど真面目、真面目なんだけど馬鹿馬鹿しい。
とても楽しかったです。
でも、馬鹿馬鹿しいことに命を捧げるのも青春ならではですよね。

14/07/03 草愛やし美

タック様、拝読しました。

白鳥の湖のくだりで、思わず笑い転げそうになりました。凄い走法ですね、──っというより、白線レースそのものが、おかしいでしょう。茶髪の若者たちが、真面目に命をかけて、というより、その両足をかけて、レースに挑む感動物語に乾杯です。嗚呼、おかしすぎます。どこからどうやって、こんな面白いこと考えつかれるのかしらと、思いました。
最後の一文が生きてますねえ。すげー早さ、ならば、白線レースもその逃げ足でもう一度と応援送りそうになりました。爆

14/07/05 タック

クナリさん、コメントありがとうございます。

ある程度緊張を高めて、その後のどうしようもないオチに……、というのが一応の目標でありました。もう少し、なんとかできたのかな、とも思いますが、これが今は限界のようにも思えます。異世界、ですか。そう思っていただけたのはとても嬉しいです。ご一読ありがとうございまじた。

(というか……、この文字数でレースものなんてできる事じゃないですね。……実力の不足を棚に上げて、そう思いましたです、はい)

14/07/05 タック

光石七さん、コメントありがとうございます。

はい、そのまんまです。道路と歩道を分ける白線。ただ、その上を走り勝ち負けを競うという、なんともくだらないレースでありました。
「馬鹿馬鹿しいものを、あたかも真面目であるように書ければいいな」と思い、書きはじめましたので、光石七さんのお言葉は本当に嬉しく思います。
他人から見れば無駄なものでも、当人にとっては命がけ。青春の一側面かもしれませんね。ご一読ありがとうございました。

14/07/05 タック

草藍さん、コメントありがとうございます。

『白鳥の湖』……。改めて読み返してみれば、本当にナンセンスですね。誰が命名したのでしょう。『白鳥の湖』。ただ、つま先立ちで走る、というものなのですが、技名がつくと、どんなにくだらないことでも一応立派に見えるから不思議ですね。楽しんでいただけたなら、嬉しいなと思います。
変な、とてもくだらない話ばかり書いていますが、これからもご一読いただけたら幸いです。ありがとうございました。

14/07/28 黒糖ロール

とても面白かったです。
まじめに馬鹿するのって、やっぱいいですよね。

14/08/02 タック

朱音さん、コメントありがとうございます。

こちらこそ、朱音さんと並ばせていただき、とても光栄です。そして入賞、おめでとうございます!

朱音さんの創られる小説は情景が目に浮かぶようで、構成であったり、登場人物のリアリティのある姿であったりと、自分には欠けている部分を自然に素晴らしく描かれているので、いつも勉強させてもらってます。これからも、お付き合いさせていただければ幸いです。ありがとうございました。

14/08/02 タック

黒糖ロールさん、コメントありがとうございます。

そうですよね! 「まじめに馬鹿馬鹿しい」は書いていて面白いので、いつもやりたいテーマではあります。

でも、なかなかアイディアも思いつかないし、そこそこに構成なりなんなりに悩んだりもするので、難しいところです。面白いと言っていただけて、とても嬉しかったです。よろしければまた、ご一読ください。ありがとうございました!

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