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サトースズキさん

性別 男性
将来の夢 社会復帰
座右の銘 ニートは毎日が休日? ちがうね。毎日が夏休み最終日なんだ。 もちろん、やるべきことは何ひとつ終わってない

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ドライブイン

14/06/21 コンテスト(テーマ):第五十九回 時空モノガタリ文学賞【 ON THE ROAD 】 コメント:0件 サトースズキ 閲覧数:852

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 彼女はあたりを見まわす。斜め向かいの席にいた若いカップルだった
「キスしてよ」声が耳に入った
「もう出ようぜ」若い男は言った
「キス、してよ」女は自分の手をそっと男に重ねた
それから男はキスをした。「もう出よう」
女は特にそうする理由もなかったが、メニューをきれいに並べなおしたり、紙ナプキンを折り畳んだりしていた
 駐車場に派手な車が入ってきた。濃いサングラスをかけた女が二人降りた。サングラスの女たちは案内されるでもなく、入り口から一番遠い席にまっすぐ向かった。二人が座ると同時にたくさんの料理が運ばれてきた
 彼女の後ろには大声で電話をかけている男がいた。客の何人かが男を睨みつけていた「それでさ、そいつのお袋なんて言ったと思う?『手を洗ってきなさい』、だぜ、信じられるか、」男は笑った
 サングラスの女たちに目をやる。すでに二人は食事を始めていた。苛烈な食事だった。どちらも一言も口をきかなかった。まるでこの半年間何も食べていなかったのよ、とでもいったふうだった。がつがつがつ、と貪るように食べた。Tボーンを指でつまみあげ、そのまま口の中へ放り込んだ。肉の油とソースにまみれた指を小さな舌できれいになめた。間違って指まで食べてしまうんじゃないかと思った。きっとそれでも彼女たちは構わず食事を続けるんじゃないかと思った。その二人が指を食いちぎって、食べている様子が彼女の頭の中をよぎった。ウェイトレスは満足そうに、そしてうっとりとみとれるように二人の食事を眺めていた
「『手を洗ってきなさい』だってよ、なぁおい頼むぜ、参っちまうよな、」男はまだ笑っていた

 何かが間違っている、と彼女は思う。突然、怒りと、そして恐怖が湧き上がってきた。わけがわからなかった。彼女はひどく混乱しはじめていた。一刻も早くこの場を離れたい、と思った。勘定をテーブルの上に置きそのまま外へと出て行った
 陽はもう沈んでいたが、空はまだぼんやりと明るさを留めていた。駐車場では猫たちが、真昼の熱を残したアスファルトに背中を擦りつけていた
彼女はシートに座るとバッグを助手席に放り込み、ハンドルに覆いかぶさった。ため息をつく。何かが間違っている、と思う。まったくひどい一日だった。ひどい一日。彼女はそれについて考えてみた。だが、それがひどく現実感を欠いていることに気が付いた。まるで彼女の中にむりやり誰かの記憶をつめこんだようだった。彼女は自分の胃が締め上がっていくのを感じる
 突然二人の女が自分の指に齧りついている映像が浮かんだ。もう我慢できなかった。彼女はドアを開け、地面に這いつくばった
彼女は吐いた。体中の一つ一つの毛穴から汗が噴き出るのがわかった。汗と一緒に体温も外に流れ出た。鈍く野太い寒気が背筋を走った

「大丈夫かい?」
彼女が地面から顔を上げると男がいた。電話の男だった。電話をしていた時と同じ笑顔がまだそこには残っていた。汚らしい笑顔だった。顔が笑うというよりは、歯の間につまったやにが笑ってるという感じだった。男は彼女の脚を、熱を帯びて微かに潤んだ瞳を覗き込んでいた。男は彼女に手を伸ばし腕を掴む。「大丈夫かい」
「離してよ」彼女は男を睨みつけた。男は一層強く腕を握りしめた
「離してよ」男はにたにたと笑うだけだったが、店内から若いカップルが出てきて不審な目つきで男を眺めたので手を離した
「勝手にしろよ、俺は別になにかしようってわけじゃないんだ、親切で声かけたんだからな、勝手にすりゃいいさ」そう言って自分のトラックへと歩いて行った。彼は「クソ女」と呟いた
 彼女は家まで車を走らせた。家の中は気味の悪い静けさで包まれていた。製氷皿から氷を取出し口の中へ放り込んだ。氷を噛み砕く、ばりばり、という音が廊下の闇の中に吸い込まれていった。その音は彼女をたまらない気分にさせた
バッグから電話を取出し、確認もせずリダイヤルした。誰だってかまわなかった。かけた先は自動応答だった。「ご契約内容の確認は、一を、内容の変更に関するご相談は、二を、」彼女は構わず喋り続けた。今日の出来事を朝から順番に喋りまくった。それはまったくひどい一日だった。そしてひとしきり喋り終わると、その場に崩れ落ちた。冷蔵庫に寄りかかった。不意に涙が出てきた。怒りは、それがあらわれたときと同じく彼女の意志とは関係なくすぅっと消えてしまった。怒りがなくなると、恐怖はより悪意に満ちたものに感じられた
「あたしね、怖いの。恐ろしいのよ。もうね、なにもかもがよ、」と彼女は受話器に向かって怒鳴った。何とかそれだけを言い終わると、電話を捨て両手で顔を覆った
彼女のその告白には誰も返事をしなかった。事務的なツゥー…、という電子音が流れているだけだった。ややあって電話のむこうから返事が返ってきた

「ご契約内容の確認は、一を、…


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