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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

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火祭り

12/06/15 コンテスト(テーマ):第八回 時空モノガタリ文学賞【 大分 】 コメント:3件 そらの珊瑚 閲覧数:2208

時空モノガタリからの選評

最終選考

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 再会というものは、どこか運命めいた香りが漂うものである。
 曜子が小椋と再会したのは、高校の同窓会であった。卒業してから二十年もたてば、男女ともそれなりに変わる。スポーツマンでモテていた男の子の頭髪が無残に薄くなっていたり、白雪姫のように美しかった女の子がすっかり太ったおばちゃん風になっていたり。 自分はどう見えているんだろう。
 それを知るのはちょっと怖い気がした。年より若いと言われれば密かに小さなガッツポーズを作るだろう。それはとりもなおさず、もう若くはないという事を証明してしまうのだが。
 小椋は曜子が初めて付き合った男だった。どちらもうぶで真面目な高校生だったので結局一度だけキスしただけで、卒業すると曜子は東京の大学へ進学し、二人に間は自然消滅してしまった。風のたよりで小椋は海外で暮らしていると聞いた時、やはり縁のなかった人だと思ったのを覚えている。
 それから 数年後同い年の医者である男と結婚した。今の夫である。夢見ていた結婚生活はしかし楽しさより苦しさの連続だった。中規模の総合病院の跡取りでもあった夫との間に、なかなか子が出来なかったからだ。
 五年の不妊治療の末、やっと男子を出産した時には、嬉しさよりも、もうこれであのつらい治療から開放されたという安堵感のほうが勝っていた。
 しかし大変なのはそれからだった。将来の病院の跡取りとして立派の育ててちょうだいね、という義父母のプレッシャーを感じないわけにはいかなかった。夫もそれにならえである。忙しさを理由に子育ては曜子にまかせっきりだった。
 小学校受験に失敗した時に暗に曜子に原因があると非難された時の悔しさは一生忘れられないだろう。
 私だって一生懸命やったのよ。
 その時、おかあさま、ごめんなさい──と言って小さな瞳を涙でふるわせた息子の真一を曜子はただ抱きしめるしかなかった。
 再会した小椋とはそれから時々逢うようになった。ほとんどが昼間のシティホテルである。今は日本で暮らし、フリーカメラマンとなった小椋は時間が自由になる。
「今度ケベス祭りの取材をするんだ。良かったら一緒に行かないか?」
 二人の故郷は大分だった。
「そういえばケベス祭り一緒に行ったわね」
「ああ、あの頃松木は怖い、怖いって俺を盾にして逃げたよな」
 今だに私を旧姓で呼ぶ男は、この世でたぶんひとりだけだろう。
「そうだっけ?」
「俺、今の松本にとって盾になってるか?」
 いつになく真面目な顔で言う男に曜子はぶっと吹き出した。
「なによ、火遊びしてる張本人のくせに」
 ふたりのことを火遊びだと茶化すのはいつも曜子の方だった。小椋にはそれがどこか不服だった。自分の気持ちがいい加減なものだと言われているみたいで。
「俺なら曜子をちゃんと幸せにする」
 今まで逃げてきたことに向き合ってみようと小椋は本心を言った。小椋には今の曜子の生活がどうしても幸せなものと思えなかったのだ。
 曜子は心の動揺を悟られないようそのままストッキングを注意深く上げたが、指に出来たささくれに引っかかったのだろう、ツー……伝線してしまった。
 しまった。でも確かバッグの中に予備があったはず──。
      ◇
 悩んだ末、曜子は友人の結婚式があると嘘をつき、小椋と一緒に『ケベス祭り』に行く。
行けば、これからのふたりのことに何か正解を出せるかもしれない、そんな気持ちからだった。
 『ケベス祭り』は大分の櫛来社の神事で火祭りである。奇怪な木の面をつけたケベスに扮した氏子の男が、棒を燃え盛る火の中にかきいれ、振り回し、当たり一面火の粉が飛び交う。なんとも粗暴な祭りである。
 曜子は、人は一体いつから火を手にいれたんだろうと思った。
 火──。
 それは恐ろしくもあり美しい。
 あかあかと小椋の横顔が染まっていく。この人と人生をやり直してみようか。
 その時真一の声が聴こえた。
 おかあさま、ごめんなさい──。
 いいえ、謝るのはおかあさまの方よ。
 祭りはいよいよクライマックスを迎え、火の花があたり一面咲き、狂ったように爆発している。
 火の子を振り落とすこともせず、ただ立ち尽くす曜子は、祭りが終わったら答えを出さなければと思い、このまま時が止まればいいと願った。
 身体の芯まで熱く燃えていくようだった。


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このストーリーに関するコメント

12/06/15 そらの珊瑚

すみません、曜子の旧姓、松本→松木の間違いです。

12/06/15 泡沫恋歌

拝読しました。

うちの両親は大分県の出身ですが、このケベス祭りのことは知りませんでした。
勇壮なお祭りみたいですね。

たぶん、ふたりが一緒になれなかったのは選択肢を間違えたのではなく
大事な時に、運命がリンクしなかったせいでしょう。

再び、運命がリンクして胸に火がついたようですから……
きっと、ふたりの第二章の始まりです。

12/06/15 そらの珊瑚

恋歌さん、コメントありがとうございます。
ケベス祭り、実際に見たことはないのですが、まさに火祭りで、奇祭とも呼ばれているらしいですね。

結末は決めてあったのですが、書き始めてみたら、このようになってしまいました。
母性と女の性のせめぎあいののち、曜子はどちらを選択するのか、それは読者の方に想像していただけら嬉しいです。

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