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光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

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石蹴り

14/06/16 コンテスト(テーマ):第五十八回 時空モノガタリ文学賞【 転がる石のように 】  コメント:7件 光石七 閲覧数:1717

時空モノガタリからの選評

学校帰りの石蹴りの比喩が親の子への想いをうまく表しているなと思いました。「優秀で品行方正であってほしい」という願望は多少なりとも親ならば持つものなのかもしれませんが、教師であればなおさらなのでしょうね。「側溝などに落ちたらゲームオーバー」というセリフにはドキッとしました。長い人生の中では、誰しもそんな風に取り返しがつかないと感じてしまう瞬間が一度くらいはあるのではないでしょうか。後半になるにつれ、彼の絶望感がじわじわと伝わってくる作品でした。

時空モノガタリK

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 小学生の頃、よく石を蹴りながら学校から帰った。校門を出たら道端に落ちている石を一つ選び、それを蹴る。蹴ったら後を追いかけながら止まるのを待つ。止まったらまたその石を蹴る。それを繰り返すのだ。石は不規則な形をしているから、なかなか狙い通りには転がらない。まっすぐ前に蹴ったつもりでも大抵曲がって進む。通学路は車通りの少ない田舎道だったから、道の真ん中を歩いても咎められることはなかった。石が側溝などに落ちたらゲームオーバー。もう少しで帰り着くならそこで終了、まだ家まで距離がある場合は別の石を探して蹴り始める。一つの石を家までずっと蹴り続けられることは滅多になかった。


「結局よお、上の連中は下っ端の事なんか考えてないんだよなあ。こっちはてめえの滅茶苦茶な指示のもと、必死で働いてるっつうのにさあ」
隣のテーブルで男が大声でしゃべっている。かなり酔っているらしく、顔が真っ赤だ。連れの男たちも結構な酔い加減のようで、彼に同調するように声を張り上げる。
「そうそう、自分のために働いて当然って態度。『俺の出世に貢献しろ』って言わんばかりだ。役に立たない奴は切り捨てる。代わりはいくらでもいるってか。俺たちゃそこら辺の転がってる石と同じかよ、畜生」
「だいたい組織というやつは冷たいんだよ。でも、個人を大事にしない組織は絶対潰れるって」
会社の愚痴といったところか。こうやって集まって飲んで発散して、また明日頑張る。一人で酔えない酒を飲む俺とは違い、彼らは建設的だ。
 俺は終電近くまでちびちびやっていた。待っているのは明かりの消えた我が家。玄関に入ると一層の暗がりと静寂が俺を包む。妻はもう寝たのだろう。別々の部屋で休んでいるので、本当に眠っているかはわからないが。
 廊下の電気をつけ、キッチンを目指す。冷蔵庫を開けてウコンドリンクを取り出し、一気に喉に流し込む。――こんな帰宅が続いてもうどれくらいだろうか。
 自室に向かう途中に一人息子の部屋がある。
「一臣、ただいま」
返事がないことは承知しているが、つい立ち止まって声をかけてしまう。ドアをそっと開け、中に入って電気のスイッチを入れる。
「一臣……」
乱雑な机の上。本棚には参考書や図鑑、お気に入りの漫画などがぐちゃぐちゃに入れられている。しわくちゃなベッドの上にも漫画やアイドルの写真集が数冊。――一臣が生きていた頃のままだ。


『もうしんどい。ダメ息子でゴメン』
一臣の携帯に残されていた書き込み。一臣は遮断機を無視して走ってくる電車の前に飛び出した。そして一臣の十七年の人生は幕を閉じた。
「あなたのせいよ! あなたが一臣に厳しすぎたのよ! ちょっと成績が悪いと叱って、遊びとか友達とかも口出しして、いろいろ制限して……。そんなに教師の体面が大事だった? 親は親、子は子でしょ。一臣は勉強もスポーツも苦手だったけれど、素直で気の優しい子だった。なのに、あなたはいつも頭ごなしに怒鳴って……。それでも一臣はあなたの期待に応えようと一生懸命頑張ってた。でも思うようにいかなくて、苦しんで……。あなたが一臣を殺したのよ!」
妻は俺を責めた。俺は何も言い返せなかった。
「お前の将来のためだ」
俺は何度も一臣にこう言った。だが、その裏には教師の息子らしく優秀で品行方正であってほしいという願望が確かにあった。一臣もそれを敏感に感じ取っていただろう。しかし、一臣は俺に拳を振り上げて反抗したりはしなかった。口答えすらしなかった。むしろ、俺の望む基準に満たない自分を悪者にして、一人で悩んで抱え込んで……。
 一臣を追い詰めたのは俺だ。こんな結末になるくらいならいっそ刃向かってきてほしかったと思う。でも、一臣にはそれができなかったのだ。優しすぎるほど優しい子だから……。
 何故俺は一臣の良さを一臣が生きているうちに認めてやれなかったのだろう? 子どもは一人一人千差万別だ。なのに、俺は自分の理想を一臣に押し付けていた。俺が描いた道をまっすぐ行け、と。これが一番正しいのだ、と。
 しかし、人は必ずしもまっすぐには歩めない。脇に逸れたり後退したりすることもある。蹴っても思う所には転がらない石のように。
「……落ちたら……ゲームオーバー……」
視界がぼやけてくる。石とは違い、人間は替えがきかない。わが子の代わりなど存在しないのだ。たとえ他にたくさん子どもがいたとしても、一人失えば親の心にはその子でしか埋められない穴が開いたままだ。
「一臣……」
俺はしばらく佇んでいた。そして涙を拭い、電気を消して一臣の部屋を出た。


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このストーリーに関するコメント

14/06/16 泡沫恋歌

光石七 様、拝読しました。

冒頭の石蹴りの挿話が上手く活かされてると感心しました。
なるほど、石が側溝などに落ちたらゲームオーバー、人生もそんなものでしょう。
喪ったものは二度と戻らないのです。

悲しい話ですが、強く心を打つものがありました。
ありがとうございます。

14/06/17 そらの珊瑚

光石七 様、拝読しました。

石蹴り、私もやりました。懐かしいです。

石は何度でも取り替えることはできますが、我子となればそうはいきませんね。
逸れても後退してもまっすぐ人生を進めなくてもいいことを、ゲームオーバーに自らするまえに、なんとか気づいてほしかったです。

14/06/17 かめかめ

「落ちたらゲームオーバー」なるほどです。
家のすぐそばまできていたのに。あと一年で解放されたのに。悲しいですね

14/06/17 光石七

>泡沫恋歌さん
コメントありがとうございます。
自分が小学生の時にやってた遊びから思いついた話ですが、展開や息子の死と石蹴りとの結びつきが強引な気がしていました。
受け止めてくださり、感謝です。

>そらの珊瑚さん
コメントありがとうございます。
石蹴り、今の子はやるんでしょうかね?
強引な展開でしたが、書きたかったことを受け止めてくださり、うれしいです。

>かめかめさん
コメントありがとうございます。
主人公は大学、就職まで息子に道を提示してました。
一臣は中学生のつもりで書き始めて途中で高校生に変え、いろいろ書き込みも不足してるので、ちぐはぐな印象を与える部分があるかと思います。
もっと早く構想がまとまればよかったのですが。

14/06/18 草愛やし美

光石七様、拝読しました。

石ころ蹴り、やりましたね。結局、最後まで蹴り続けないでやめてしまう、そういう遊びでしたね。最後に、この冒頭部分に戻り、今一度深く生きることを考えていました。

人は石と違い替えが効かないもの、その通りです。若い息子さんには、まだ芽が若く、多くのことに耐えられる強い心が育っていなかったのでしょうか、教師という仕事の父親の対面も共感できます。私の友人は、先生をしていた頃、(今は違います)、子供を叱る時、まず、雨戸を閉め、隣近所に聞こえないようにしてから、叱ったと言ってました。世間の見る目もあるので、ほんと因果なお仕事なのかもしれません、切ないですね。

14/06/19 光石七

>草藍さん
コメントありがとうございます。
親が子供に生き方を押し付ける動機付けを探す中で“教師としての面子”に思い至りました。
確かに聖職というイメージもありますし、子供たちを指導する立場ですから自分の子をうまく育てられないのは恥ずかしいと思うかもしれませんね。
大変な職業です。
一臣の弱さとか主人公のエゴとか描写が足りませんでしたが、汲み取ってくださり感謝です。

14/06/21 光石七

>凪沙薫さん
コメントありがとうございます。
特に理由はないんだけどやってみる、子供独特の感覚ってありますね。
でも、うまく言葉にできないもやもやを和らげる意味もあったのかもしれません。
石蹴り、皆さん経験されてるんですね。
私は主人公同様、車があまり通らない田舎道が通学路で、道路を目一杯使ってました(笑)
今の子たちは石蹴りやるのでしょうか……

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