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草愛やし美さん

時空文学コンテスト開催100回、おめでとうございます。思えば、初めて私が、こちらに投稿したのは2012年5月のこと、もう4年近く経ったのですね。時空モノガタリさまが、創作の場を与えてくださったお陰で楽しい時間を過ごすことができました。感謝の気持ちでいっぱいです。 また、拙い私の作品を読んでくださった方々に感謝しております。 やし美というのは本名です、母がつけてくれた名前、生まれた時にラジオから流れていた、島崎藤村作詞の「椰子の実」にちなんで……大好きな名前です。ツイッター:草藍やし美、https://twitter.com/cocosouai 

性別 女性
将来の夢 いっぱい食べて飲んでも痩せているっての、いいだろうなあ〜〜
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転がる石の秘密

14/06/15 コンテスト(テーマ):第五十八回 時空モノガタリ文学賞【 転がる石のように 】  コメント:10件 草愛やし美 閲覧数:1503

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 嵐の夜、高台にあるT別荘地で一人の男が警察に逮捕された。土砂崩れの被害状況を調べに来た消防隊員たちによって発見された時、男は、山肌から流れ出る土砂にまみれ這いつくばって叫んでいた。
「止めてくれ、石が転がる、ああ、石が流れていく」
 隊員たちはみな、男が助けを求めているのだと思ったが、男の立つ斜面に白骨化した腕が突き出ているのを見て驚いた。殺して埋めた死体が露出し焦った男が、必死に証拠隠滅を図っていたとされ、すぐに、警察官が駆けつけ男は緊急逮捕された。 
 捜査により、男の家から、母親がいなくなっていることが判明。近所の人の話では、三年前から母親を全く見かけなくなったとの証言を得た捜査班は、母親の年金欲しさに、男が、死んだ母親の遺体を遺棄したことは確かだと考えた。遺骨に目立った傷はなかったが、殺人も視野に入れ取り調べが始まった。
「母親の年金欲しさに遺体を遺棄しあそこに埋めたんだな、白状しろ」  
 刑事が詰め寄るが男はかたくなに口を閉ざしたまま、捜査は行き詰まり何日も取り調べは続いた。地道な捜査によって次第に男の遺棄当日の様子が判明した。 三年前の母親が亡くなったと思しき日に、一人の男が別荘地まで鉄道を乗り継ぎT駅に降りたことがわかった。捜査班は、不確かながら目撃証言を駅員から得ていた。
「お前は、母親の死体を、鞄か何かで隠し電車を乗り継いであのT駅に行ったのだろ、お前を見たという目撃者もいるぞ」 
――海の傍にあるその別荘地は、バブルの頃は、高値のついた地域だったが、今では、空きの別荘ばかりが目立つ。秋も深まったその時期、駅に人影はなかっただろう。別荘の住人はほとんどが、車を利用して訪れる。だが、時々鉄道を利用してやって来る住人もいたので、駅員は、別段、気にも留めなかったのだろう──
「穴を掘り遺体を埋めた上に、お前、重しとして、山中の大き目の石を何個も積み上げたんだろう。現場検証の結果判明しているんだ。だが、それがお前の命とりだったな。あの酷い嵐の日、その石が転がり出した。お前は、犯行の発覚が心配になって再び行ったことで墓穴を掘ったな。年金欲しさに母親を殺ったのか? いい加減、白状しろ」 
 業を煮やした刑事が何度も男を怒鳴りつけたが、男は口を閉ざしたまま黙秘を続けた。

 だが、事件は一人の刑事により思わぬ方向へ向かう。現場百回という昔型の刑事、田所は何度も別荘周辺地や駅周辺の聞き込みをし、男が大きなスーツケースを引き摺っていたことを突き止めた。辺りをくまなく捜索した結果、それと思しきスーツケースが発見された。登り口にある林道の奥まったところに落ち葉に埋もれた黒いそれはあった。その中から、母親の毛髪が発見され、捜査班はにわかに殺人かと色めきたったが、田所は、念入りにスーツケースのあった周辺を捜索し、ついに、その場所から少し登ったところに落ちていた小さなお守り袋を見つけた。お守り袋は、男の住んでいる近所の神社のもの。その中から、一枚のくしゃくしゃになったメモ書きが出てきた。そこには、箇条書きに書かれた母親のたどたどしい文字が並んでいた。

『弘へ。母ちゃんが死んでも誰にも言っちゃいかん。 役所の人にも、近所の人にも言っちゃ駄目だ。母ちゃんは、海が見えるところで眠りたい。だけど、誰かに言えば、それができなくなっちまうぞ。昔、父ちゃんが生きてた頃、一度だけ行った社長さんの別荘のあった山の中で眠らせて欲しい。家から母ちゃんを運ぶのには、言ったように、あのスーツケースに入れること。山に登る時には、母ちゃんを鞄から出して背負いなさい。背負って登って高いところまで連れていっておくれ。穴を掘ってちゃんと埋めるんだよ。母ちゃんの願い、お前はいい子だから聴いてくれるよね。駅までの行き方ちゃんと書いておくから……』

 田所は、詳細にその別荘地へ行く行程が書かれているメモ書きを男に示し、諭すように話しかけた。
「もう、誰にだって母ちゃんのこと話したっていいんだぞ」
 男はやがて、ポツリポツリと話し出した。
「刑事さん、あの石が転がらなかったら、ずっと母ちゃんは海を見るところで眠らせてやれたのに……墓には石があるだろう、だから石を積み上げたのに、その墓石が嵐で転がっちまって土砂ごと流されたんだ。あんなに落ちちゃもう海は見えない、母ちゃんごめんよ」
「遺言か……。優しいお母ちゃんだったんだなあ、お前に年金残そうと、必死になって考えた策だったのだろう」
「母ちゃんは、近所の燃えないゴミに出てた大きなスーツケースを持って帰ってきた時、嬉しそうだった。俺が工場長に何度も馬鹿だって言われても殴られても我慢して工場やめてなかったらよかったのに、工場やめたらもう仕事なかった。苦労ばかりかけて母ちゃん、ごめん」
――取調室に謝り続ける男の泣声が響いていた。


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このストーリーに関するコメント

14/06/16 滝沢朱音

草藍さん★こんにちは〜
おお〜っ、今回はミステリー仕立て?ですね!
2000文字でミステリー、難しいと思うのですが、さすがだなぁと思いました。
冒頭のセリフ、ドラマの一場面のようで印象的。。。

>「工場長に何度も馬鹿だって言われても殴られても」
弘のこと、母ちゃんはどれだけ心配しながら亡くなったのでしょうね(´Д⊂ヽ

それにしても、いろいろなジャンルで自由自在に書けるって…脱帽です☆彡

14/06/16 泡沫恋歌

草藍 様、拝読しました。

殺人事件かと、思いきや、こんな切ない親子の話だったんですね。
たぶん、世の中には残して逝く子供のことを思って、自分から行方不明になる
親もいることでしょう。

最後に、この男が謝りながら泣いているシーンを想像すると悲しいですね。
この話はとてもリアルに感じる物語でした。

14/06/17 そらの珊瑚

草藍さん、拝読しました。

親が死亡したあとも届けず、何年も遺体と一緒に暮らしていたという事件がありましたね。
まったく生きづらい世の中です。
子供の行く末を案じてしたことは決していいことではありませんが、
まさに母心だと思いました。

14/06/17 かめかめ

おもしろかったです

14/06/19 鮎風 遊

サスペンス、されど哀切窮まる物語でした。

だけど年金をだまし取った罪は重い。
その罪を償っていくのが母への一番の供養かな?
男の泣き声は、そう改心したからだと思います。

14/06/19 クナリ

正しさとは何なのか。
親として、人として、社会の構成員として、守るべきは何なのか。
いろいろ考えてしまいますね。
悪人がいなくても、悲しいことは起こるものですね。
その根拠が、時には思いやりや愛情で。

14/06/20 草愛やし美

>滝沢朱音様、いつもお読みくださって嬉しいです。コメント励みになります、ありがとうございます。

ミステリー仕立てにしていただければ、大変嬉しいです。テレビ番組では、サスペンスものが大好きな私ですが、推理物を書くのはたいそう難しいです。プロットを組み立て、つじつまを合わせ、なんて離れ業とも思える芸当はできません。泣
似たようなもので、自分なりに頑張りました。ドラマのように感じていただけたとのお言葉、非常に嬉しかったです。いけないことですが、収入のない息子を持った親は、死にきれないと思います。

>泡沫恋歌様、コメントいつもありがとうございます。

大昔は、姥捨て山の風習があった地方もあります。いつの時代も親は残して逝く子供のことを考えるものだと思います。弘は、心底、海の見える場所に母親を眠らせたかったのではないかと思いたいです。

>そらの珊瑚様、お読みくださりコメントをありがとうございます。

数年前から、年金欲しさに遺体を隠すというニュースが世間を賑わせています。残された子供が、隠しておいたというのが一般的な報道ですが、本当にところはわかりません。もし、親が、それを支持する遺言をしていたとすればと思います。母心は、恐ろしいことも考えかねないほど深いものではないかと考え書いてみました。

>かめかめ様、楽しんでいただけたとのコメント嬉しいです、ありがとうございました。

>鮎風遊様、いつもお立ち寄り感謝しております。

年金を搾取した罪は重いと思います。でも、この母親の心情を思うと、彼の罪が少しでも軽くなることを願ってしまいます。社会が、もう少し優しければとも思うのですが、日本自体が借金大国ですので、なかなかなのでしょうね。悲しいことです。

>クナリ様、お読みいただき嬉しいです。

そうなのです、悪人はいないのに罪になってしまったのです。社会の制度にも限りがあるもの、いけないことは確かなのですが……。でも、この母子を責めることは私にはできません。仕事につけず、ホームレスの若者も多いと聞きます。文明国とうたっていますが、何だか矛盾だらけと感じます。コメントありがとうございました。

14/06/25 黒糖ロール

犯罪の裏にあるいろいろなことを考えさせられました。
おもしろかったです。

14/07/02 ドーナツ

拝読しました。

この親子愛、ほろりと来ました。

息子を思う母、母を思う息子素晴らしいです。
お守りが出てきたのもやはり子を思う母の愛かなと思います。
でも、いい刑事さんが担当してくれてよかったね。

最近 ずさんな捜査 増えてるしね。

14/07/03 草愛やし美

>黒糖ロール様、お立ち寄りくださり感謝しています。コメント嬉しく、意欲に繋がります。戴きましたコメントを励みにして創作を頑張りたいです。ありがとうございました。

>ドーナツ様、お忙しい中をお読みいただきありがとうございます。コメント嬉しいです。
収入のない子供を残し逝ってしまうことは親として死ぬに死ねないことだったと思います。子供のためなら、親は頑張れますから。
良い刑事さんに巡り合えたことを、天国で母親は喜んでいるかもしれません。でも、生活は厳しいかと思います。この後、出所してからが大変です。この刑事さんや役所が、彼をサポートすることを願っています。

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