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徒川ニナさん

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君のさがしもの

14/06/07 コンテスト(テーマ):第五十八回 時空モノガタリ文学賞【 転がる石のように 】  コメント:0件 徒川ニナ 閲覧数:985

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能天気な電子音を町中に響かせながら、今日もタモツはごみ収集車で町を行く。
ある時はじいさんに「うるさいのぅ」と文句を言われ、またある時には小学生のガキどもに「くせー!」と笑われるのだから、もう自分の人生を悲観したくなったって仕方ないと思う。こんなんじゃあ彼女ができないわけだ。ハンドルを握りながら溜息をつくタモツは、基本的にネガティブな性格だ。だけど昔からこうだったわけでは決してない。いつの間にか、どこかに色んなものを置き忘れてしまっただけだ。

ぴんぴろぽろぱれ、ぴんぴろぽろぱれ。
間の抜けた音楽と共に、タモツは次のごみ収集所に辿り着く。
溜息をつきながら運転席から降りると、ぱんぱんに膨らんだビニール袋を、回転板の奥に次から次へと押し込んだ。暗がりの向こう側へ呑まれていく「いらない物」達を眺めながら、可哀想なやつらだ、と思う。でもな、俺だって大して変わらねぇよ。心の中でそう呟いた瞬間、タモツはごみ袋の向こう側に押し込められたくまのぬいぐるみと目が合った。だから何というわけでもないのに、気まずい気持ちになってそっと視線を逸らす。

タモツがようやっと最後の袋に手をかけた瞬間、「待ってぇ!」という絹をつんざくような悲鳴が聞こえた。
次いで、けたたましい足音とともに、一人の女の子が滑り込んでくる。
「待って! まだ持って行かないで下さい〜!」
切れ切れになった呼吸の合間にそう言った彼女は、栗色のロングヘアに、ふわふわシフォンのワンピースという、およそこの場所には似つかわしくない格好をしていた。
文句を言おうとしたタモツが、彼女の顔を見て、ぐっと言葉を飲み込む。長い睫毛に、小ぶりな唇。そう、彼女はとても可愛らしかったのである。
「……大丈夫ですよ」
タモツは心なしか低めの声でそう言った。
「良かったです〜!」
彼女は胸の前で手を合わせて、満面の笑みを浮かべた。ううん、やっぱり可愛らしい。
「ちょっと待ってて下さいね! すぐ見つけますので!」
彼女はそう言うが早いが、最後に1つだけ残っていたごみ袋の口を器用に開き始めた。
「ちょっ、待って! 何してんの!」
「何って、探し物です」
慌てて止めに入ろうとするタモツに、彼女は眉をハの字にしながら言う。
「とっても、とっても大切なものを誤って捨ててしまって。でも私、あれをなくすわけにはいかないんです!」
彼女の瞳にうっすら涙が滲んでいるのを見て、タモツは押し黙った。
そして少しだけ考えてから溜息をついて、ゆっくり彼女に歩み寄る。
「……で? それはどんなものなんだ?」
「探すの、手伝ってくれるんですか?」
「仕方無いだろ、これを持ってくのが俺の仕事なんだから」
「ありがとうございます!」
彼女の浮かべた満面の笑みはきっと美しかったんだろう。しかし、タモツはもう袋の中を覗き込んでいたからわからなかった。チョコ菓子の空き箱を拾い上げながら、すぐ隣の彼女に尋ねる。
「んで、探し物は一体どんなものなんだ?」
袋の中の紙ごみをよりわけながら、彼女は答えた。
「一見必要なさそうなのに、とっても大切で、しかもすごく美しいんです! キラキラしています!」
「何だそりゃあ」
彼女の至って抽象的な説明に、タモツはまた溜息をついた。
「本当にあるのか、そんなもん」
「あるんです! 確かにあるし、絶対になくしてはならないんです」
彼女がムキになってそう答えるので、タモツは仕方なく付き合ってやることにした。
袋の底をさらってさらって、隅々まで目を光らせながら、「それ」を探す。

「あったーー!」
彼女がそう叫びながら飛び跳ねたのは、袋の底に残っていたティッシュの箱を、逆さに振った時のことだった。滴型をした青くキラキラ光る石が、ころんと転がり出てきたのだ。
それは確かにいかにも貴重そうだったし、彼女がなくしたくないと思ったのもわかる気がした。
「何だい、そりゃ」
ほっと一安心したタモツが問いかけると、彼女は嬉しそうに答える。
「これは、私の涙です!」
その返答の意味がわからなくて、タモツは訝しげに眉をひそめた。
しかし彼女はそんなタモツを気に留めるでもなく、あくまでマイペースに笑っている。
「ありがとうございました……あっ!」
深々とお辞儀をした彼女は、すっとタモツの足元にしゃがみ込んだ。
「落とし物ですよ」
それは彼女の「探し物」とは少し違う色味で、何だかいびつで、でも深い輝きをした結晶だった。
「……何で俺に?」
「だってあなたのでしょう?」
彼女はそう言って笑った。彼女のとびっきりの笑顔を、今度こそタモツは拝むことができた。
「じゃあ、お仕事頑張って下さいね!」
綺麗な笑顔を浮かべながら彼女は去って行った。
タモツの手の中に、小さな青い輝きを残して。


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