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クナリさん

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路傍の時代(とき)にて ――Madder Nightfall on the Road

14/06/06 コンテスト(テーマ):第五十九回 時空モノガタリ文学賞【 ON THE ROAD 】 コメント:9件 クナリ 閲覧数:1316

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明治維新が成り、日本が新たな舵を切って後。
一人の男が、板橋の地をさ迷っていた。
壮年近くに見える男は野太い杖をつき、近隣の民家を一軒ずつ訪ねる。
「近藤勇の亡骸を、ご存知ありませんか」
と問うが、答は芳しくない。
近藤が板橋で斬首されてから十年。京の不逞浪士を震撼させたその名が、もう忘れ去られようとしている。
手掛かりは、この地のみ。
男は荒れ野の只中で、十年前に打ち捨てられた骸を捜していた。



新撰組二番隊隊長、永倉新八。
局長近藤らと同じく、新撰組前身、試衛館以来の生え抜きであり、組織の中核である。
新撰組の重要な戦闘では必ず、最前線で猛剣を振う永倉の姿があった。
その永倉が、ある日新撰組を去る。
大政奉還の後、新撰組を含む佐幕派が、京を追われて転戦を強いられた中のことである。
この頃の近藤は増長が目立ち、従来の仲間さえ家来扱いにした。
それが、ついに永倉との決定的な亀裂を生む。
気概の塊たる永倉は、近藤と同盟こそすれ、家来になった覚えはないと憤慨して、新撰組と決別した。
同じ志の下、命をかけて国の為に戦わんと多摩から上洛した時には、思いもしなかった別れ方だった。
背中を預け合って戦いに明け暮れた戦友と、こんな別離をするのは、心外の極みである。
それでも、近藤の無礼が許せなかった。
永倉は、全てが悔しかった。
ただ無念を噛み締めて、去った。

これと前後して、試衛館以来の新撰組幹部は次々と死ぬ。
藤堂平助、斬殺。
井上源三郎、戦死。
近藤勇、斬首。
沖田総司、病死。
そして五稜郭で、最後まで戦い続けた土方歳三が、戦死。
新撰組が、潰えた。

十年後。
既に松前藩へ帰参していた永倉は、決意した。
(近藤先生を弔う)
試衛館時代を知る生き残りは、もう永倉だけである。
喧嘩別れしたからといって、あの大動乱の京都で命がけで戦った男達を、歴史の路傍へ忘却させる訳にはいかない。
協力者は僅かにいたが、単身で板橋へ向かった。
まずは骸を見付けねばならない。
近藤の首は京へ送られていたが、胴体はこの辺りに埋まっている。
近藤は死したとはいえ、新政府の業敵とされていた。それを弔わんとすれば、永倉の身にも危険が迫る恐れがあった。
だが、永倉は周辺への聞き込みを決行する。

十軒、二十軒の門を叩いても、これという手掛かりは得られない。
自ら藪を分け、すすきを払い、石を退け、林をさらい、土を舐める様にして近藤を探した。
手持ちの物を売って日銭を得、傷んだ着物に垢の浮いた体を包み、人々の目は日に日に胡散臭げになって行く。
かつて、京の真中を大手を振って歩いた、泣く子も黙る新撰組隊長である。
希代の剣客集団の中枢であり、池田屋の死地へ切り込んで京都大火を防いだ功労者である。
王城の地で、最強と目された剣士である。
それが食い詰め者の様な姿で、片田舎の道の上、民家で延々頭を下げ続けている。
無様だった、と思われる。
恥であった、と思われる。
だが、永倉は諦めなかった。
恥が、何程のものか。
『誠』一字の旗の下、苦楽を分け合い、剣一振りを頼みに生死の狭間を駆け抜けた同士の為なら、頭一つ、下げいでか。
剣のみに生きた男の矜持が、その剣友を無下にすることを許さない。
それが、永倉新八の士道であった。
無敵の剣士の、剣無き戦いであった。

ある日暮れ時、永倉はついにカヤの茂みにそれらしき塚を見付ける。
胸中で歓声を上げた時、四五人のごろつきが現れた。
全員、木刀を持っている。最近目障りの余所者をからかい、いたぶってやるつもりである。
近藤の塚を、彼らが足先で小突き、けたけた笑った。
「よう素浪人、探し物はこれか」
「おう。……今日、」
永倉は、剣代りに太い杖を上段に構えた。
「永倉新八の前で、その塚を嗤ったことを不運に思え」
当時、永倉は既に改名している。だが、あえてそう名乗った。
男達がかかって来た。
当然、比べるのも愚かしい程の力の差がある。
永倉の一の太刀で、一人目が右の鎖骨を割られる。
返す刀で二人目の肋骨を砕き、続いて三人目の胸を強かに突いた。
残った二人は泡を食い、悶絶した三人を引きずって逃げ出した。
「ご無沙汰で。つまらぬ剣を見せましたね」
多摩と同じ茜色の夕焼けの下、野辺の道上を風が渡った。

永倉が中心となって建立した新撰組の碑は、東京都は北区にある。
新撰組が誕生してから滅ぶまで、六年間。
近藤らを含め、その間に死んだ隊士百三十名が、碑には刻まれている。
永倉が残さねば顧みられなかったかもしれない、士魂の痕跡である。

永倉はその後小樽で、静かに没する。
彼は自らの筆で、新撰組の記録を多く残した。
自室には近藤と土方の写真が置かれ、よく拝んでいたらしい。

尚、先述した、永倉が改めた名は、杉村義衛という。
義をまもる、と書く。


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このストーリーに関するコメント

14/06/06 クナリ

・この話は史料を元にしていますが、創作を含みます。
・新撰組の碑に刻まれた名前は、戦死した人々だけでなく、隊内で粛清された者たちのものも多くあります。
中には、永倉自ら斬った隊士の名前もありました。永倉は、それらを隠し立てすることなく書き残しました。それが永倉の誠であり、士道だったのかもしれません。
・永倉は他の隊士とは違い、新撰組についての記録を積極的に書き残しました。
大幹部自ら著したそれらは、明治維新後は長く悪役だったために歴史研究も遅れに遅れた新撰組の、貴重な資料となっています。

14/06/06 クナリ

ひとまずこれで、自分めの新撰組シリーズは一区切りです。
読んでくださった皆様、まことにありがとうございました。

14/06/06 草愛やし美

クナリ様、拝読しました。

集大成ですか、なるほど、大変読みごたえのあるお作でした。

2千文字でここまでの内容、もちろんクナリさんの実力の成せる技あっては当然のことですが、それに加味して情熱が素晴らしかったと思います。
クナリさんの新撰組への熱き思いを見た感があります。永倉新八を含め、新撰組への、深い憧憬、お見事でした。拍手

14/06/07 ナポレオン

拝読いたしました。
クナリ様の新撰組シリーズは毎回ひそかに楽しみにしていました。毎回、タイトルのセンスが光っていたと思います。
明治維新後にも士道を貫く永倉新八の哀愁を感じました。2000字でこれだけのものを書けることに驚きです。

14/06/07 クナリ

草藍さん>
ありがとうございます!
新撰組のことをあまりご存じないということでしたが、それにもかかわらず読んでいただけて、毎回非常にうれしく思っておりました。
新撰組の話はたいてい、土方歳三が戦死した戊辰戦争までしか語られない気がして、「その後の話」を書きたくて、最終回として持って来ました。
いやあ、実力なんてないっすヨ…(^^;)。
思い入れだけで筆を運んだような気がしますねー。
新撰組は正義の味方ではありませんし、粛清の中では冤罪やとばっちりで命を落とした方もいたでしょうから、「新撰組素敵!」とばかりもてはやすことはできませんが、やはりその心根のかっこよさみたいなものは、偏在するんですよね。

ナポレオンさん>
ありがとうございます。
新撰組はあまり時空モノガタリではみかけない題材かも、と思いながらてちてち書いておりましたが、読んでいただけてとてもうれしいです。
内容は暗殺とかが中心で殺伐としているし、タイトルはちょっと気を遣ってつけようかな、と思って命名しておりました。
着目していただけて光栄です。
功名心も強かったように伺える近藤さんと比べ、永倉さんの場合は純粋なる剣士、という感じがして、自分の中ではそのストイックさがかっこいいなあと。
とはいえただ剣を振るだけではなく、矜持のために近藤さんと喧嘩別れしたりと、その気高さにも惹かれるんですよね。

14/06/07 泡沫恋歌

クナリ 様、拝読しました。

よく調べてお書きになりましたね。
新撰組はいろいろ諸説もあって、キャラクターが伝説化していてテーマとしては難しいと
思いましたが、お見事に書き切って素晴らしいと感歎しています。

よく新撰組は幕末に咲いた「徒花」だと言われますが、彼らの真っ直ぐな生き方には
感銘を受けますよ。

執筆ありがとうございます。

14/06/09 クナリ

凪沙薫さん>
まさに、書いている間は恐れ多くもそんな風情でした(^^;)。<血風録
司馬レジェンドの血風録は、確か全話は読んでないんですけどね。
でも、「時代小説の文体とはこーゆーものだッ」という価値観は明らかにあれで造られましたねッ。
永倉先生、板橋の野ッ原で近藤先生の亡骸を探して、協力者を募って碑を建立するまでは大変だったらしいですからねー。
ごろつきの登場はまったくの創作ですけども(^^;)。
新撰組に好意的だった幕府の医者、松本良順に書を書いてもらって、それを売って行脚その他の諸費用に充てたという話もありますが…そんなに潤沢だったとは思えませんし。
まあ、それも本当かどうかは分からないですが…(歴史の悲しさ…)。
歴史物を書く時って、「何がどうした」というのを現代小説以上に明らかにしないといけないと思うんですよ。
それが、自分の中の「正統派」なので、それがうまくいったのかもしれませぬー。


泡沫恋歌さん>
そうなんですよね、どうも司馬レジェンドを含む多くの作家様や脚本家様の手によって、新撰組は登場人物(特に幹部クラス)のイメージがファンそれぞれにあって、「これが本当だ」「それはウソだ」が入り乱れて、キャラがほうぼうに立ちまくりなんですよね。
そうすると新撰組を題材にして、少なくとも「歴史小説として読んでもらえる」レベルに仕上げて投稿するには、たとえ無料サイトの掌編であってもそれなりにちゃんと調べて書かないと、「知ってる」方々にはもう読んですらもらえないと思うんですよ。
知った上でウソをついたり肉付けをしたりしているのか、そうでないかって大事なんだろうなあと。
ここまでに自分が書いた一連の新撰組関係の作品は、あまり新撰組をご存じない方に特に向けて書こうとしており、それが一つのテーマでもあったのですけど、同時に新撰組ファンの方にも「これでいかがでしょう? 自分の中の新撰組なんですけど、お口に合いますか?」と伺う作品群でもありました。
ともあれ、飽きっぽいクナリめが熱量を落とさずに数作を書くことが出来たのは、この濃ゆい新撰組の面々のおかげです(^^;)。
楽しんでいただければ、何よりでございます。

14/07/02 光石七

永倉さんに真の漢を見た気がしました。
新撰組は一人一人が魅力的ですが、クナリさんの描き方はとても好感が持てました。

14/07/05 クナリ

光石さん>
はかなく散った人々も立派ですが、生き残った当事者として、生きているからこそできることを探して実行し続けた永倉さんの強さって、やっぱり凄いんですよね。
隊士はたぶんそんなに人格的に優れたわけじゃない方も多かったでしょうけど(失礼な(^^;))、その辺は「伝わらざる歴史」の都合のいいところでして、さんざんに美化し放題なので、好きに書いているであります!
お褒めにあずかり光栄です!(ビシイ!)
ありがとうございますッ。


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