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かめかめさん

http://ameblo.jp/kamekame1976/ ブログデシセイカツバクロチウ

性別 女性
将来の夢 印税生活
座右の銘 ハワイに行きたいと思ったら、一歩踏み出さないといけない。 ハワイは向こうから近づいてこない。

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転がらない石、むすぶ石

14/06/05 コンテスト(テーマ):第五十八回 時空モノガタリ文学賞【 転がる石のように 】  コメント:2件 かめかめ 閲覧数:945

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「新居に引っ越す時には、家具より何より、オモトの鉢植えを運び込むの。そうすると家内安全に過ごせるのよ」
 そう言って母が抱えてきたオモトの鉢植えは大きめの石の上に苔が敷き詰められその間からオモトの葉がすっくと立っている美しいものだった。
「オモトは水さえやればいいから無精のあんたにピッタリよ」
 そう言って鉢植えを置くと引っ越しの手伝いもしてくれず母はさっさと帰ってしまった。父の仕事の都合で引っ越しを何度も経験している我が家はいわゆる転勤族というやつで俺も中学校にあがってからは荷造りも荷解きもすべて一人でやっていたし何の不都合もないうえに今回の引っ越し荷物も非常にコンパクトにまとまってしまった。
 家電がいくつかとクローゼットに入るだけの衣類それとベッドやサイドボードくらいで軽トラック一台で事足りて運送屋に悪い気がするくらいだから母に手伝ってもらう何事があるわけでもない。
 運送屋がやってきたと思うとほんの数分で家具の設置を終え少しの段ボールを積み上げ終えオモトの鉢植えを抱えて部屋の隅っこでぼうっと突っ立った俺の脇をすり抜けて帰って行った。さて荷ほどきをと手を動かし始めたがこれもあっという間に段ボールを畳み終えすぐに手持ちぶさたになりやはりオモトの鉢植えを抱えてぼうっとすることになった。
「水でもやるか」
 オモトの鉢植えを抱えてキッチンに行くと言ってもワンルームしかも1Kシンクはすぐ目の前にあり三歩でたどりつき蛇口の下に鉢植えを置き思いきり水をかける。
「こら! なんと乱暴なことをするのじゃ!」
 突然の怒声に驚いて水を止め振り返ってみたが誰もいないうえに玄関を覗いてみても鍵はきちんと閉まっている。
「……外の声かな」
「ぬしの目と耳は飾り物か? ここじゃ」
 声をするほうに顔を向けるとオモトの鉢植えに小さな人がチョコンと立っていて昔の中国風のというか高松塚古墳の壁画の女性のような服装をしているからどうやら女性らしい女装でなければ。
「やっと気付いたか。わりあいニブイヤツのようじゃな」
「はぁ、すみません」
「なんじゃ大の男が情けなや。簡単に頭を下げるものではないぞ」
「はぁ、すみません」
「それにしても、ぬし、鉢植えに水をドドドとかけてはならぬ。母御に教わらなんだか」
「はぁ。植物を育てるのは初めてで」
「おお、情けなや。近頃のをのこは草木を愛でることもせぬか。それでは良いうたも詠えまいに」
「はぁ。音痴なもので」
「もうよいわ。さ鉢植えを乾いたところに置いてたも」
 俺が鉢植えを窓辺に置こうとすると小さな人が叫ぶ。
「たわけもの! オモトを陽にさらすものがあるか日陰に置け!」
 やれやれとためいきをついたら小さな人にギヌロと睨まれたのだがなにせ鉢植えを育てるなど本当に初めてで鉢植えの置き場から水やりや株分けの仕方まで小さな人が捲し立てるのを有りがたく拝聴した。
「株分けできるんですね」
「当たり前じゃ。ぬしの母御は名人ぞ。宅にようさん鉢植えがあったろうに」
 そう言われると庭のすみに平たく尖った葉をした植物の鉢植えがいくつも並んでいて母がせっせと世話をしていたような気がしなくもないがあれが全部オモトだったのだろうか。
「まあ、ぬしには株分けはまだ早い。もっと先の話ぞ。それよりぬし、何か忘れてはおらぬか?」
 なにか忘れているだろうか実家に忘れて来たということだろうかオモトの水やりは今したばかりだし何かあったか?
「ぬし、察しが悪いの。我に挨拶がまだぞ」
「ああそうか。こんにちは」
 俺が軽く頭を下げると小さな人は深く長いため息をついた。
「ぬしや、我が姿に驚きもせず、同居者にまともな挨拶もできず、それでよう加冠の儀を過ごしたの」
「はぁ。ヤカンの火はまだつけてません」
「今の世はさありなむ。二十歳が加冠とか。しかし物知らずはぬしのせいだけとは言い難いの。なにせぬしらは各地をてんてんした流浪の身。転石苔むさずとはよう言うたものぞ」
「はぁ」
「ぬしも屋うつりばかりで友がきもできず不憫なことこの上なし」
「はぁ」
「よろし。これから身につけて行けばよろし。我がさまざま教えむほどに。ぬしはゆるりと『ジョーシキ』を学べばよろし」
「あの」
「なんぞ」
「あなた、いったいナニですか?」
 小さな人は深く長いため息をつきそれから延々二時間ほど礼儀作法について講義が続いたわけだがその知識が身についたかどうか甚だ疑問であるし小さな人が語る作法はいささか古い時代の苔生したもののように思われた。
「これから学んでいけばよろし」
 そう言って講義を終えた小さな人は満足したように苔の上に居座って俺もしばらくはこの部屋に居座るんだなと思うと不思議な気持ちが胸に湧いてきてもしかしたらそれは、深緑色をした小さな植物に、似ているのかもしれないなと思う。


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このストーリーに関するコメント

14/06/18 そらの珊瑚

かめかめさん、拝読しました。

おもと、とても日本的な植物で、いかにもこんな小人が住んでいそうです。
おそらく仙人のようにお年を召した方だと。
上から目線であるのに、どこか憎めない会話が楽しかったです。

14/07/12 かめかめ

>そらの珊瑚さん
楽しんでいただけたなら、うれしいです。
小さい人はさて、どんな年齢か。考えていませんでした。
そらの珊瑚さんがおっしゃる通りかもしれません。

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