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スタイルクエストさん

ジャンルに捕らわれずにこだわった物を探求するスタイルー。 文法や理念、枠にはまらないチャレンジへのクエストー。 文学、哲学、自らは語らない、作品をただひたすらに発信していくのみ、溢れる気泡を思い付くままに飛ばす子供心のままに…。 思い付いてしまうから書く、書くなら面白いと思う物を作りたい、作ったなら誰かに見て読んでもらいたい、だから飛ばしてみる。

性別 男性
将来の夢
座右の銘

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アキハル

14/06/02 コンテスト(テーマ):第三十二回 【 自由投稿スペー ス】 コメント:0件 スタイルクエスト 閲覧数:693

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 駐車場のおじさんとは、もう慣れたものである。
「よくこんな寒い日にバイクでくるなぁ」
「バイカーは、寒くてもバイクですよ」
 おじさんと二・三会話をしながら監視小屋の脇に愛車SR―400を停めた。

 パラパラといるアマチュア登山家達に混ざり細い一本道を歩く。

 潰れそうな釣り堀の先にあるちいさな橋を渡り、まず見えるのは、柔らかそうな白い湯気が立ち上る饅頭屋。ここもここ高尾山に来る目的の一つである。店先で食べる“酒まんじゅう”は蒸したてで、一口目に酒のほのかな香り広がり、追って餡子の甘さが追いつく、何度かもぐもぐすると酒の香りと餡子が絡み合いジャパニーズスウィーツである。

 人には必ずしも出逢わなければならない人がいる。産まれた瞬間に生まれる運命の人。
それは、たった一人である。気づく人もいれば気づかない人もいて、錯覚を愛だと思い込み、大変な思いをする人が大勢い。運命の大半は錯覚である。

 アキオは疎らな観光客に紛れてケーブルカーの降り場から飲食店を通り石段を抜けて、必然的に神妙な赴きになる空気を吸って頂点を目指した。
 猿園のコミカルな看板を見て心の中で苦笑した。以前来たときに猿園の職員が猿にエサを与えながらマイクで見物客に「毎年、猿が増えるんですよ。野生の猿が檻を越えてメスに孕ませるんですよ。オスは何をしているかというと、見て見ぬふりしてるんですよ…怖いから」と言っていたのを思い出したのだ。人間も同じだ。確かに街で不良を見ると怖いもんな…見た目が怖い人はなるべく遠ざかりたいものである。猿も人間も一緒だね。
 頂点付近の寺には所々に住職の言葉が並べてある。どれもが普通だが、改めさせられる言葉ばかりである。今日のアキオの目当てでもある。
 なんとなく、たまに思う。真面目に生きていると思うがゆえに、何もなく淡々とした日々が疑問に思えてしまうのである。コレといった失敗も無く、成功も無い。充実も感じない…これでいいのかな…と。
 陽が暮れるのを早く感じながら、紅くなり始めた高尾山を見つめた。今日は頂点のお釈迦様の生い立ちを見にきた。これが一番の目的で、以前来たときにガッカリした事を今ながら理解できるかもと、今日きたのである。以前のガッカリとは不真面目なお釈迦様に対しての皮肉であり、不真面目な人に対しての軽蔑である。

 疎らな観光客が「寒い寒い」言ってる中をアキオはゆっくり、急がず、確実に一歩一歩、頂点へ向かった。
 お釈迦様は産まれ、遊び、遊び過ぎて反省し、悟りを開き、死んでいった。死を嘆いたのは人だけでは無くあらゆる生命体から悲しまれた。あらゆる経験を積んでこその人生。
今回のアキオはお釈迦様の人生に説得力を感じながら、昨日を思い出してた。

 ―昨日。
 夜八時三十二分。緊張のあまりに時間を記憶してしまった。八王子にあるオッパブなる飲み屋にバイト先の先輩に連れていかれたのである。無駄に明るい下品な看板の店に入った。ピンクとブルーのネオン管は何故か下品になる。急な階段を上がり、途中の鏡に映る緊張した自分の顔に恥ずかしくなり、八千円を受付に払いパイプ椅子に座った…。暗い奥のフロアに薄着の女性達が動き回っていて、客席はカーテンで仕切られていて、中でなにが行われているか想像もつかないでパイプ椅子に座っている。奥のフロアの情事が気になりつつもヤンマガを読んだ。普段読まないエロ系の漫画も目を通した。
 僕は何を期待してるんだろう。薄暗く光の無いドロドロした世界は快楽以外は破滅的な世界なのに、数メートル先を行ったり来たりするシルエットに期待している。街で見掛ける可愛い女性とは明らかに違う世界の女…ゲスな世界の女に運命的な出会いでも期待しているのかと自分をバカにしているのと同時にロマンスを求めている気がした。
 このパイプ椅子から立ち上がるまでの時間が長いと文句を言ってしまいそうであった。「おい、店員!早く俺にロマンスをよこせよ!」などと言いたい気分になった。完全にこの赤ライトの世界に漬かっているのを感じた。少し悪を気取ってスカした顔付で次々と呼ばれて行く客を手本にし、店員が呼ぶのを待った。
「稲垣さま。大変お待たせいたしました。こちらへどうぞ」
 日焼けした黒服の店員は、黄色人種では無く黒人に近い肌をしていて、微笑みかけるようにバカにした笑みを向けた。女の乳を揉ませる店での丁寧語は不自然だし、なんか恥ずかしくなってしまう。これを仕事だと思っている男も女もキチガイであり、腐っている。が、しかし、この店に来てちょっぴりドキドキしている自分は救いの無いゴミである。
 狭い席によく見えぬくらい暗い空間で女が隣に来た。
「カオルさんでぇす。ごゆっくりどうぞ!」
カオルと名乗る女は僕の顔を覗き込んで「あ、タイプ」と言って微笑んだ。
「こんな暗いのに見えるわけないじゃんか…」
「顔もそうだけど…雰囲気がね、タイプ」
 そんな台詞を言われたら誰しも、男は勘違いして有頂天になるなと冷静に解釈した。
 周りの客達はデレデレナ顔をして見ず知らずの女とイチャイチャして喜んでいる。快楽図を観ているような気分になり、ここに居たくないと思った。
「お待たせいたしました。15分間のハッスルタイムに入りまぁす!皆様、存分お楽しみ下さいませ!」
 カーテンで横を仕切られて、小さなテーブルはズラされて、カオルがアキオに跨った。
アキオは一瞬、なにが起こっているのか理解出来ないので、身体を硬直させていた。
 カオルの体温が下半身を伝わってきた。まったく知らない女がいきなり跨ってくる情況、バカげている。でも、暖かい、でもでも、バカげている。こんなの駄目だ。と、カオルを見上げた。ブラを外そうとしていたカオルはアキオの淋しそうな顔を見て、そっと自分の胸に抱き締めた。
 カオルは思った。何だろうこの感じ、全部諦めてたのに、諦められない私がいる。この人は誰だろう?なんか或るよ。私とこの人の間に、この淋しそうな顔をしている人は誰だろう。
 店内が少々明るくなり、爆音のユーロビートは鳴り止んだ。
「泣いているの?」
 アキオは言った。
「なんか、涙出た」
 カオルが答えた。
 あとの細かい事は覚えてない…。

 アキオは売店でビールを買って山間から見える八王子の街を一望した。
 人の中にはお釈迦様がいて、失敗や浴を露にして恥ずかしくなり、消そうとする。正当化しようとする。自分にすら嘘をつく、的をえない試行錯誤して沼に浸かる。川のような人生は意味を流すもの、なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜの繰り返しである。きっと、お釈迦様はなぜを繰り返し死ぬ前に見出だした人なんじゃないかなと思う。人の血は赤いのは何故?その何故を考えながらが人生。ヘッ、これも昨日の罪をもみ消そうとする言い訳である。
 ジョージ・A・ロメロは創成主だと思う。
 ゾンビ映画を通して人類へ警告しているのだ。理由無き、誰も想像出来ない災害として死人を蘇らせる荒業を選んだロメロは、ユーモアのセンスを含めて神に近い存在である。
 誰も解決出来ない災害が起きた時の人間の本質的な生に対しての貪欲さと、偽善が滅びを辿る様を見せてくる。そして、結果、災害とは人間に対しての悪環境なだけであり、ゾンビも人間も何ら変わらないのである。むしろ、人間の方が悪の存在ではないかと、問いかけてくるような気がする。人間が同じ種を残酷にいたぶり殺す様子は、まさにゾンビが人間が襲うのと一緒である。街中の群衆などもゾンビが群がるのと変わらない。
 アキは、お気に入りのゾンビ映画を観ながら、マスメディアから入る情報と照らし合わせて、擦り合わせている。自分一人が考えてもしょうがない事だけど、一人一人が多少なりと考えなきゃならない事だと思っている。非力だけど、アキオは常に人間の事を考えている。

 ふと、隣を見ると地味な女が同じように八王子の街を一望している。アキオはビールを飲み干してゴミ箱に紙コップを捨てに行こうとした時である。
「もしかして、昨日のお客さん?」
 女が話し掛けてきた。
 アキオは、まさかと思いながら「カオルさん」と呟いた。
 カオルはニコニコしながら近づいてきた。
「本当はハルコです」
 と言いながらアキオの冷たくなった頬にキスをした。
 アキオは一瞬戸惑ったが、直ぐに此が運命だと感じた。
「人が産まれる。人一人に絶対に出逢わなくてはならない人がいる。それは男女の関係とは限らない、人生を変えるとも限らない、見逃してしまうのが殆どである。しかし、稀に気付く人間がいる。」
 アキオはハルコを強く抱きしめた「見つけた」
「見つかっちゃった」
 落ち葉を巻き上げながらつむじ風が二人に微笑んだ。
 ハルコはアキオの顔をジッと見つめた。アキオはその真剣な眼差しにはにかみながら視線で応えた。離れられないのではないかと思うくらい二人は抱き締め合った。アキオのライダースを透して、ハルコのダウンコートを透して、お互いの熱が暖め合っていた。
 アキオはバイクに跨がり、饅頭屋の若旦那に借りたヘルメットをハルコに被せてエンジンを駆けた。エンジンは快調にかかりSRはアキオはご機嫌を伺うようにピストンを回転させている。
 アキオはアフガンストールをハルコの首に巻いて、自分は襟を立てた。
 この凍てつく冬は、運命の二人の熱を更に熱くさせた―。
 アキオの部屋は六畳のフローリングで家具類はほぼ無い…。ソファとベットがポツリとあるだけの部屋である。二人はさっき抱き合ったのが嘘のように緊張していて、うつ向いたまま無言になってしまった。まるで、ボンボンと令嬢のお見合いのようである。
「あ、俺、コーヒー入れてくるよ」
 ぎこちなく席を立った。
ハルコも上着を脱ぐタイミングを失っていまい、コートを着たまま座っている。
 僕は何をやっているのだ。部屋に入るなり互いに身体を求めるものだと思っていた。でも、なんか恥ずかしくて想像しただけで緊張してしまい、一息つこうと思ったら、更に緊張してしまった。愛に言葉はいらないはずなのだが、伝わっているのは伝わってきているけど、恥ずかしくてなかなか手が出ない…。
 情けない男である。
 ハルコは思い切って立ち上がり、アキオに近付いた。コーヒーを見つめるアキオはまったく気付いてない。ハルコは後から抱き付いた。アキオは声が出ないくらい驚いた。コーヒーも流し台の中へ落としてしまった。コーヒーの湯気が立ち込める中、二人は先ほどの続きを始めた。見つめ合い、互いの唇の柔らかさを確認し合った。舐めたり、歯を立てたり、軽く噛んだりした。
「アキオが行動出来ない時はアタシが引っ張るよ」
「あぁ、頼む」
「でも、離さないで欲しいよ。見てて欲しいし、求めて欲しい。こんな事を言うなんて、こんな気持ちになれるなんて…アタシ…思わなかった」
 涙目のハルコを真っ直ぐ見つめた。何故に涙がでるのか、何故に悲しくもなく逆に嬉しい感情に包まれているのに涙が出てしまうのだろう。
「愛してる」
「愛してる」
同時に言った。
 互いに服を脱がしあい、シングルベットに潜り込み、何度も何度もキスを交わした。熱くなる身体を絡ませて受け入れた。激しく揺れたり、ゆっくりと愛を囁きあったり、今までしたことの無いサービスをお互い提供した。飽きること無く二人は絡み合い、時を忘れて求め合った。
 過去はどうでもいい、未来は関係無いと二人は思いながら、深い眠りについた。
 アキオとハルコは三日間離れる事無く一緒に過ごした。狭い部屋で会話する時もしないときも身体を寄せ合って時が過ぎるのを待っていた。
「こんな事を言うのおかしいかも…でも、言いたい…愛してる」
「わかっているんだ。君の愛が入り込んでくるのが…苦しいよ。愛しくて…愛し過ぎて苦しいよ」
 ベットの中で二人は悶え苦しんだ。

 なぜ…こんなにも苦しんだ。

 なぜ…こんなにも愛しいんだろう。

 この愛が本物だと感じている。言葉では無い。物体化してるように触れられるみたいな愛だよ。臓器の一部みたいな感じがする。

 ―四日目の朝。ハルコは居なくなった。うっすらと雪が降っていた。部屋は冷気に満ちている。
「そうだよな…」
 アキオは呟いた。悲しみ、驚き、動揺、が入り乱れた結果、納得せざるえない情況だがらである。バイト生活で食い繋ぎ、将来性の無い、会話もつまらないし何もない男である。高校を卒業後、就職や進学する仲間を笑い飛ばして東京へ出てきた。夢も希望も無く、片親の母に負担を掛けたくないと綺麗事を言って、良い子を気取っていた。でも、今は、振り替えると何もない七年であった。音楽とバイクが好きだが詳しくも無い、楽観過ぎて二十六歳にして常識すら知らないしその場が何と無く楽しければいい。典型的な存在する意味も危うい男だ。運命の出会いなどするわけが無いのだ。開き直る、開き直る開き直る開き直る。開き直れ開き直れと何度も、自分を勇気付けた。ダメに決まっている。
 この世には絶対に出逢わなくてはならない人が必ずいる。しかし、出逢えたとしても、一緒になれるわけでは無いのだ。擦れ違うだけかも知れない。挨拶を交わすだけかも知れない。年が離れているかもしれない、同性かもしれない。ハリウッドスターかもしれないのである。気付くだけでも奇蹟なのである。
 アキオは、ハルコの影を追い掛け、店の前に行ったりもした。しかし、ストーカーになった気がして、その後、行かないようにした。
 なぜ、人は冷たくなるんだろう…。知らない人と身体が触れた時にムスッとするのはどうしてだろうか、人間のメカニズムというのはわからない事ばかりである。寺なんかに行くと落ち着いた気持ちになるのは、なぜだろう。
 僕は、ルールに従っているのだが、時折に例外が訪れる。バイクに乗っている時にダンプが寄って来たりタクシーがわざと前に入ろうとしたりする。人は人を敵として、人を味方とする。ルールという決め事に縛り合いながら、ルールを破りながら時を刻む…。繰り返しながら破滅に向かっているように思う。人の上に人。人の下にも人。上下関係のある生き物はアリンコと人位かなって思う。しかも、ひとは全てを破壊する。なんだかんだと正義を装い神に媚びてガイアを攻撃するのである。

 吉祥寺の“いせや”で待ち合わせして、井の頭公園を散歩しながら花見をした。桜は満開で昼間からサラリーマンや近所の人達が騒いでいる。毎年変わらない花見である。
 雅司は缶ビールを飲みながら大道芸人を見つめている。ハルコはそれを見つめている。罪悪感に包まれた気持ちを押さえつけて、いつもの笑顔を向ける。雅司と出会う前にアキオに会いたかった。そしたら、こんなに辛くなる事もなかったのに…。渦巻く心中なのに笑顔はいつものままで、雅司は気付かないでいる。
 こんな気持ち…いっその事、消えてしまいたい。止められそうにない重い想いを胸に雅司の後姿を追い掛けた。
 夜、雅司に打ち明けた。部屋の中を追い回せながら殴られた。鉄の塊のような雅司の拳が何度も身体に叩きつけられた。雅司は罵声をアタシに投げながら止める事無く殴った。

 ハルコはシャワーを浴びながらアキオを想っている…。何度も「ごめんなさい」と呟く。右目に出来た痣、三本折れたあばら骨、左手の小指も骨折した。この傷は、雅司の“愛の形”なのである。アタシが裏切ったからじゃなくて、心配だから…心配したあげく感情が爆発してしまった。アタシのせいだ。
 ハルコはシャワー室から雅司がテレビを見ながら笑っているのを確認してから、無駄毛処理用カミソリを折れた小指の左手首に当てて、血管をなぞるように引いた…。気が遠くなる中、湯船に赤が広がっていく。
「ごめんなさい…アキオ」

 二月九日、深夜。
 アキオは呼ばれた。一秒足りとも忘れた事も無いハルコの声だった。
「ハルコ…」
 ライダースを着てアフガンストールを巻いて、ハルコの為に買った新しいヘルメットを持ってアパートの階段を駆け下りた。
 エンジンはあの日とは違って、なかなか掛からなかったが、アキオは強く念じてなんとかかけた。キックし過ぎて股関節に痛みを感じた。
 国道20号線は静まり返っている。高速を潜り抜け、カーブの橋を渡り、半端な繁華街の八王子駅を越えて16号線が紛らわしい交差点で救急車と擦れ違った。湿った空気の中、アキオは食いしばりながらハンドルを握る。
 銀杏並木はアキオの爆音に目を覚ましたのか、黄色い葉っぱを散らし始めた。信号は全て青。アキオはアクセルを強く、強く回した…早くハルコに会いたいから、ハルコの元へ早く行きたいからフルスロットルである。
 町田街道、咄屋の看板が目立つが道は見にくい、山道から平坦になる、気が抜ける辺り、アキオが差し掛かると同時にダンプカー…待っていましたというように弾丸のアキオを拐った。
 左から来る巨大な塊に一瞬気が付いたが構わなかった。光、次の瞬間、闇に包まれた。
 アスファルトに鉄が擦れて火花が散った。SR400の車体からエンジンが取れてしまっていた。転がったエンジンから火が出ている。タイヤは八の字に変形していて、フェンダーはどこかに飛んで行ってしまった。交差点はオイルと血とガソリンが混ざっていて月明かりが黒々く照らしている。ダンプカーの運転手は運転席で頭を抱えている。
「大丈夫ですよ。僕はちゃんと保険に入っているから、僕がスピード出しすぎていたから…でも、恋人が呼んでいるんです…急ぐので、僕は行きますね…」
 アキオは歩いた。
 国道20号線の真ん中を高尾山に向かって歩いた。
 交差点に転がるアキオの左足が無い。身体のあらゆる部位が破壊されていて、洋服を着たカエルみたいにグチャグチャである。
 アキオは交差点を振り返り、自分の肉片を見ても気にせずに歩いた。
 たぶん、絶対に待っていてくれているよ。
 きっと…。

 八王子の町を一望できる。

 ハルコは、アキオの来るのを待っている。生暖かい湯船は鮮血に染まり、雅司はダウンタウンのくだらない番組に笑っている。

「だいぶ待たしちゃったね」
アキオは、ハルコを後ろから抱きしめた。
「平気だよ。絶対来てくれるってわかってたもん」
 生まれた以上、出会わなければいけない人が誰しも必ずいるのである。それに気がつく人と気がつかない人がいる。
 ほとんどが後者である。

 終わり



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