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草愛やし美さん

時空文学コンテスト開催100回、おめでとうございます。思えば、初めて私が、こちらに投稿したのは2012年5月のこと、もう4年近く経ったのですね。時空モノガタリさまが、創作の場を与えてくださったお陰で楽しい時間を過ごすことができました。感謝の気持ちでいっぱいです。 また、拙い私の作品を読んでくださった方々に感謝しております。 やし美というのは本名です、母がつけてくれた名前、生まれた時にラジオから流れていた、島崎藤村作詞の「椰子の実」にちなんで……大好きな名前です。ツイッター:草藍やし美、https://twitter.com/cocosouai 

性別 女性
将来の夢 いっぱい食べて飲んでも痩せているっての、いいだろうなあ〜〜
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ポーの水車

14/06/02 コンテスト(テーマ):第五十七回 【 私を愛したスパイ 】  PRIVATE:I’S賞 コメント:6件 草愛やし美 閲覧数:1023

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 その人は、川縁に座り、腕を組んで物思いにふけっていた。川の水の色を見ているのだ。水の色の濁りに細心の注意を払っているのだ。汚れ具合によって、水車の回転を速める。この川は、未来へと流れるもの。だからこそ、澄んでいなければいけない。ポーの島は、川の中州にあった。島を囲む川には水鳥が群れ動物達も水を求めやって来る。いつ頃から、その島があったのか、そして、その島にいつから、この人が住み始めたのか、誰も知らない。もちろん、私など、生まれ出でて数年の若輩者にこの川も含めて、世界のことなんかわからなくて当たり前なのだ。

 私がこの島にやって来て、もう一か月も経ってしまった。任務を忘れたわけではない。だけど、どうなのだろう、それほど、私の任務が大事なものなのか、わからなくなっている。ポーの島に住む、鴎のジョナと一緒に、この人の手伝いをやっているほうが、どれだけ楽しいことだろう。わかっているけれど、私はスパイなのだ、任務を遂行しなければ。私は、孤児、幼い頃から特殊な訓練を強いられてきた。洗脳もなされたはず……だけど、私の脳は軋み出してきている。

「ああ、君か。紅茶を飲むかい。君が来てから、僕はお茶をするだけの時間でさえ、こんなに楽しいものだと知ったよ」
 私の目をじっと見てポットから紅茶を注ぎ入れカップを差し出す、彼の名は、トイ。現世では、大罪人として皆から怖れられている。だけど、彼の目はこんなにも優しく澄み切っている。彼の差し出す紅茶は彼の手と同じようにとても暖かだ。そのことを、自分だけしか知らない秘密のように感じてしまった私。トイを愛してしまったの? いえ、そんなはずはないと当初は考えていた。彼は大罪人、現世の罪から逃れこの川にあるポーへ逃走した悪人と教わってきた。だけど、現世から流れてくる酷く澱んだ水が、トイの水車を通り過ぎると、美しい青い水へと変わるのは確かなこと。初めは、わが目を疑った。トイが魔法使いのように思えた。だけど、違っていた、トイの水車は、未来へ繋がる子供達のためにと、架けられた最後の砦だったのだ。誰が、それを作ったのかはわからない。大昔から、それは回っていたという。トイから、そのことを聴いた時、神の存在を少しだけ信じてみたいと思えた私がいた。秘密など、どこにあるのか誰にもわからない。きっと水車は回り続けなければ、この世界の未来はなくなってしまう。それは、この世界そのものの終焉を意味する。だからこそ、ここでこの水車は回っているのではと思うようになっていた。
 現世の提督ドガは、トイを殺した後、この水車を奪い、どうするのだろう? 未来の子供達のために使われることはないことだけはわかる。現世に十八年住んだ経験がそう思わせる。現世では孤児達を諜報員にするために、孤児院を設置している。飢えた子らは、どんな厳しい訓練にも耐え、どのような理不尽な命にも服従することを、提督は知っているのだ。


 新月の夜は怖い。何かが起こるとすれば、今夜か。案の定、スパイ仲間だったボドを川向うに見る。訓練所で特殊能力を磨くが、天性の能力を持っていた私は、最も優秀なスパイになった。もともと持っていた感覚がより研ぎ澄まされたのだ。ポーの島へ来ることができる者は僅か数名しかいない。特殊な方向感覚を備えた者、しかも、体力的にも過酷な道を進まねば行けない島。だからこそ、任務を言い渡された私なのだ。ボドもその僅かな能力の持ち主だ。だが、私の方が諜報部では優っていた。
 トイが危ない、私はボドと戦う。ボドより私の腕が優っているのは諜報養成所でわかっている。だが、最後の手段にボドは自らの体につけた爆薬に点火してトイへと向かったが、力及ばず、水車へと身を投げた。
 ギギギイイ、大きな音を立て、水車が倒れる、だが、水車は倒壊せず立っていた。

 トイだ! トイがその土台の一部となり支えている。水車は回り続けている、軋みながらも。トイに、土台になりそうな強固な机を運び出すと、トイを背負い机を水車に土台に噛ませた。ギギギー軋みながらも、水車はかろうじて回っている。トイがきっと修理するであろうと確信している。
 私は、どうすれば良いのだろう? もう迷わない。そのまま、私はポーの島を発った。三夜駆け現世に戻ると、提督に報告に向かった。ボドが死んだことはまだ伝わっていないはず。今しかない。提督に嘘の報告をするのだ。トイは死んだと……。私は提督の部屋へと導かれた。提督の顔を確認し、恭しく一礼する。礼をしながら、密かに私は、吾身に内臓された爆弾の起爆装置を押すと同時に提督の前に走り出て行った。

 トイは今もポーの島で、私を待ってくれている。{私を愛したスパイさん、待っているよ}そんなトイの声が聞こえたような気がした。

「さようなら、そして、ありがとうトイ。愛を未来へ捧げます」


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このストーリーに関するコメント

14/06/03 そらの珊瑚

草藍さん、拝読しました。

現世と常世、ふたつの世界にまたがり活動するスパイたち。
不思議で、それでいて切なくなるようなお話でした。

ポーの島の水がいつまでも清らかで、水車を回し続けますように!

14/06/03 泡沫恋歌

草藍さん、拝読しました。

素敵な世界観の物語ですね。

水車が汚れた現世の水を青い水に変えて未来へ流していく・・・
まるでジブリのファンタージーみたいで、いろいろ想像力を
掻き立ててくれました。

水が汚れたら、その国はお終いですよね。

14/06/06 ドーナツ

拝読しました。

スパイとぽいと、アクションのドンパチを連想してしまいますが、このお話は、青のグランデーションを感じて、とても、柔らかな気持ちになりました。

水がきれいだと人の心も綺麗にな理ますね。世界中がそういう国になりますように。

14/06/06 鮎風 遊

川の中にある島、神秘ですね。
行ってみたいです。

そういえば宇治川にも中州がありますが、
これほど神秘ではありません。

水車は京都植物園の中にありますが、
あまり大したことがない。

ポーの島で紅茶が飲みたいです。

14/06/06 草愛やし美

>朱音様、お読みいただき嬉しいです。

いつも、コメントありがとうございます。創作の大変な励みになります。
自分なりに考えた世界ですが、上手く構築できたか不安でしたので、世界観好きになっていただけたとのお言葉、凄く嬉しいです、ありがとうございます。
一応、ファンタジーのカテゴリーにできればと願っています。架空の世界は想像の翼を広げて渡る楽しいものです、朱音さんも、ぜひ、トライしてみてくださいね。きっと、素敵な世界が描けることと思いますよ。笑顔

>そらの珊瑚様、いつもお読みいただき感謝しております。

現世と常世の世界を行き来えできる技を持つスパイなんていれば凄いと思います。スパイは、特殊能力を磨いた者がつく職業ですが、もって生まれた才能は必須だと思います。研ぎ澄まされた感覚が常世への道を見分けられる……そんな離れ業できるスパイが存在すれば何でもできそうかもですね。苦笑
震災後の原発の現状などを考えますと、とても不安になります。未来はこうであって欲しいなあという願望を込めて書きました。コメントありがとうございました。

>泡沫恋歌様、お読みいただき、いつもコメント感謝しています。創作の意欲いただいております。

先日、滋賀県の能登川という地へ参りました。その折に、その地は水車で有名だと知りました。あいにくの雨にあい、水車を見に行くことは叶いませんでしたが、その想いを描いてみました。コメントをありがとうございました。

>ドーナツ様、温かいコメント嬉しいです、ありがとうございます。

水が美しいとほんとほっとしますよね。小川のせせらぎが綺麗に流れる地。大昔、というか私の幼い頃はこの国はどこも水は綺麗でした。一時、かなり汚れた河川が増えましたが、近年は改善されていっているようで嬉しく思いますね。魚釣りができるような川でないといけないと思っています。

>鮎風遊様、お立ち寄りくださって感謝です。

宇治川にも確か、中州ありましたよね、大昔の記憶しかないのですが。苦笑
淀川には鳥が止まれる程度のものはありますが、きっと陸地じゃなく葦の葉のかたまりじゃないかと見ています。
中州にもし大きな水車があれば楽しいかと思います。水車そのものは、粉挽きのための動力でしかないのですが、水を浄化できればなあという願望で描きました。 コメントありがとうございました。

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