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j d sh n g yさん

学生時代に中国へ行き、漫画創作から小説創作の面白さに本格的に気づく。 なぜか中国語の方がすらすらと小説が書け、日本語での小説はその後から徐々に挑戦。 日常をテーマに書いていきます。

性別 男性
将来の夢 中国語の翻訳家 漫画家昔の夢
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スパイにはめたエンゲージ・リング

14/05/29 コンテスト(テーマ):第五十七回 【 私を愛したスパイ 】  PRIVATE:I’S賞 コメント:2件 j d sh n g y 閲覧数:971

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この世界には愛が欠落したものたちがいる。
その存在はラブレスと呼ばれた。
彼らは一見普通の人間だ。
しかし愛を与えてもらえなかった、もしくは愛を奪われた怒りや哀しみが彼らを変貌させる。
その存在は人間たちに危害を加える。それを食い止め、ラブレスを回収、再生させる機関が、俺の勤める通称ラボ≠セ。

「ジーン、三分遅刻よ」
妻のリサはレストランの予約席で約束の時間に遅れた俺を不機嫌そうに見上げた。
「すまない、大事な日とはわかってるんだが…上司から残業≠頼まれてな」
リサは呆れた表情のまま話を続けるよう俺に促した。俺は表情を厳しくし、周りの様子を伺いながらリサに小声で告げた。

「お客様≠ヘちょうどこちらに来られてるらしい」
リサと俺はそれぞれ自分のエンゲージ・リングに指を乗せた。
「もう、来てるの?」
リサは表情をこわばらせ構えている。俺は煙草をくわえ、ライターで火をつけた。

「いらっしゃいませ」
突然ウエイターがテーブルに現れ、にこやかに挨拶を述べた。
俺はリサに目配せし、ミッション開始の合図を告げた。

ウエイターが水の入ったコップを両手に構えた瞬間、俺とリサは席から飛ぶように離れた。コップから水が飛び出すと同時に凝固し、鋭利な二本の氷刃となる。
俺は煙草の煙を操りウエイターの両眼めがけて飛ばし彼の視界を一時的に奪った。
その隙にリサがレストランの客を逃がし、俺はエンゲージ・リングを回収モードへと切りかえた。
リサの戻りとともに拘束の枷を共鳴発動、無事ラブレスを回収した。

「せっかくの結婚記念日が台無しだな」
ラボ≠ナ報告を済ませた帰り道にリサに呟く。
「しかたないわ…結婚して三年なんかでお祝いしちゃダメってことね」
俺はそんなことねえよと小声で呟きながら煙草の煙を吐いた。

リサと俺はうまくやれているという確信が揺らぎはじめたのは
それから一年後のことだった。
エンゲージ・リングが誤作動し、ラブレスの回収に失敗したのだ。エンゲージ・リングはお互いへの愛の誓いと戒めの象徴だ。
それが誤作動することは、二人の感情に変化が生じていることを示していた。
俺はリサを愛していないのか?いや、そんなことはないはずだ。ならばなぜ?原因はリサにあるというのだろうか?俺は灰皿に吸いかけの煙草を強く押しつけ火をもみ消した。

リサがラブレスの回復者だと知ったのは、それからしばらく不調が続き休暇を申請し自宅で休養していたときのことだった。

ラボ≠フ回収員上司のレゾから、レゾの友人の娘と紹介を受け、俺はリサと出会い、ほどなくして我々は結婚した。
ラブレスからの回復例は多くはなく、データ収集を目的として、回収員として能力の高い俺と結婚するように手配されていた。リサは簡素な報告書のような置き手紙を残し俺の前から姿を消した。

ー俺だけが蚊帳の外か。まるであいつはスパイのようだったな。
雨の降る窓外を見つめながら、俺は煙草の煙を肺に溜め込んでいった。そして雨が強まるなか、一本の電話が入った。緊急通報だった。回収員達は強大なラブレス集団の回収に向かっていて、こちらのラブレス出現現場に最も近い俺が選ばれた。緊迫な状況に、俺はリサの件を伝えられず、とにかく現場へ急行した。
一人でも、回収自体は可能だー
俺は自分を落ちつかせ、車を降りた。

ラブレスは雨を取りこみ肥大化していた。そのそばには無数の惨殺体が転がっていた。
剥き出しの牙と振り乱した髪、太く伸びた両腕。
信じがたい光景だったが、俺は直感した。

ーこれは、リサだ。

肥大化した指に埋れかけた、彼女のエンゲージ・リング。
俺は自分のエンゲージ・リングを発動させたが、臨戦態勢をとることができなかった。彼女の一撃が繰り出される。
リサの攻撃をかわしきれず、俺は彼女の肥大化した巨大な腕に掴まれた。ギリギリと身体が締めつけられる。
喰われる。それを俺は覚悟した。意識が遠のく。

エンゲージ・リングを渡した日、彼女は泣いた。これからよろしくお願いします、そう告げた瞬間だった。涙を拭くと、彼女は満面の笑みを浮かべた。

「すまなかった…いつでも、いつまでも愛している」

声にできたのか、声にならなかったのか、定かではない。
エンゲージ・リングが再び輝きはじめた。輝きの糸はしだいにリサの身体を包みこんでゆく。

彼女が回収されてから一ヶ月が過ぎた。今はシェルターの中で眠っている。俺は人間として彼女を再生させると彼女とリングに誓った。


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このストーリーに関するコメント

14/05/30 クナリ

濃厚な設定を、ただ解説するのではなくストーリーの中で読み手に知らせてくれるので、読みやすかったです。
少し描写が淡々とし過ぎている気もしましたが、緊迫感あふれる後半も、救いのあるエンディングもよかったのです。

14/06/03 j d sh n g y

クナリ 様
かなり頑張りましたが、かなり説明不足なまま終わってしまった作品になってしまいました。
盛り込みたい裏設定はもっとあったのですが、紙面の都合上切り捨てました。
たぶん自由投稿スペース向きな作品だったのでしょう。
結婚をテーマにした作品が書けなかったこともあり、スパイのお題に組込みました。
また日常系の話も書いていきますのでよろしくお願いします。

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