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- ぼくたちの結婚(そこには神父はおろか証明すらなかった)
タックさん

すべての人に、少しでも近づけるように。
性別 | 男性 |
---|---|
将来の夢 | |
座右の銘 | 明日の自分に期待は持たない。 |
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このストーリーに関するコメント
14/05/20 クナリ
展開していく子供たちの思い、そんなものを一顧だにせず翻弄して破壊する運命、
文字数以上の存在感のある文章でした。
エンディングも印象的です。
欲を言えば、主人公がそれからどうしたか…どうなったか…も見てみたかったです。
運命との対峙、が。
14/05/23 タック
クナリさん、コメントありがとうございます。
そうですね。主人公のその後、運命の転換、その辺が書ければよかったな、と読み返して思います。
ただ、「結婚」というテーマが自分には本当に難しく、この何とも不格好な作品が限界でした。手放す形で投稿してしまったので、もっとなんとかできなかったか、と今になって感じます。幸福で笑顔に満ちたものを書こう、と考えていたのに、こんな話になってしまったことも反省ですね。もっと、頑張ります。
よろしければ、またご一読ください。ありがとうございました!
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神父役のマルケスのおぼつかない進行がみんなを笑わせた。
突き抜ける幼い笑い声たちは、臭く汚い路地裏の疲れを見えなくするようだった。
たがいの手を取る僕たち。指輪を真似した銅線をつけあう。
ソエルの浅黒い肌。
僕を見る瞳の白さ。
見とれてしまうほどの緩やかさでほほ笑みに形を変えた唇が、僕を引き寄せる。
みんながはやし立てる歓声は遠く、唇は熱い。
――その温もりが僕たちの、子供だけの結婚式に、意味を与えた気がした。離れたソエルの表情は、僕が望んだ、一つのことだった。
◇
家族から見放され、家もお金もない僕たちは夜に安心を抱くことができずに眠る。その時も僕はタオルケットのなかで眼をつむるだけだったから、隣からの押し殺そうとしているのが分かる泣き声に気づけたのは、その不安のおかげだった。
「どうしたの、ソエル。どこか、痛いの?」
体が跳ねて、泣き声は止まる。怖さを知らない小さな子たちのいびきが、間を埋めるように響いている。
「……ううん。ごめんね、ガルシア。ただ、怖い夢を見ただけなの」
「怖い、夢?」
「うん、パパがね、私をお酒のビンで、何度も殴る夢だった。逃げても逃げてもついてきて、頭にビンをぶつけて、……最後は体が、動かなくなったの」
僕はタオルケットから伝わる小刻みな震えに、お酒がなければ良いパパなんだよ、といつか聞いていたことを思い出す。ソエルは最近、パパから逃げ出したばかりだった。
「……さっき、眼が覚めたんだ。そうしたらパパはいなくなったけど、見たくないことが代わりにたくさん浮かんできた。路上で暮らしてること。食べ物を盗んでること。そこのネズミみたいに道端で死ぬのかな、結婚とか出来ないのかなって思うと、暗くなって、怖くなって、どうしようもなくて、私、私……」
顔を押さえた両手の隙間からすすり泣きがひろがって、僕の胸を悲しく痛ませる。ソエルの苦しみは、僕たちが生活を言い訳に眼をそむけていたものだった。なぐさめの言葉は、僕も同じ境遇にいるという怖さに溶けてなくなっていく。そんな時にでるのは意識もしなかった心の底なのだということを、僕は初めて知った。
「……そんなことない。子供でもやれる仕事を見つけて、食べ物をちゃんと買えるようにすれば、僕たちだってきっと大人になれる。……だからソエル。大きくなったら、僕と結婚しないか。僕、ソエルとずっと一緒にいたいんだ」
静かになった暗闇が顔を熱くした。耳の近くで、ソエルが呟いた。
「……そんなのむりだよ。結婚なんて、出来るわけないよ」
「いや、出来るよ。僕はソエルと結婚したいんだ。……ソエルがよければ、だけど」
「……そんな。でも、もし大人になれたとしても、……ガルシアの気持ちは、変わってるかもしれないじゃない」
おびえるような声。僕はソエルにそんな声を出してほしくなかった。それが、口を開かせた。
「――なら、みんなの前で誓えば信じてくれる?」
「――え?」
自動のように、思いがあふれた。
「ここで結婚式をしよう。僕はソエルと離れないことを誓う。そのために大人になることを、僕は神様とソエルに誓うよ」
◇
――そして僕たちは、結婚式をした。そのことでソエルには笑顔が戻り、僕はソエルを今までとは違った眼で見られるようになっていた。僕は賃金が安いながらも仕事を見つけ、ソエルも前に進むために準備を始めた。結婚式が、僕たちの未来を形作った。少なくても、僕はそう感じていた。
――でも、それは違ったんだ。大人なら誰にでも動かせる軽さ。それが変わらない、僕たちだった。
◇
仕事帰りの僕は体と心が疲れていた。マルケスの言葉が、その僕をばらばらに崩した。
――さっき、ソエルのパパがきて、ソエルを連れて行った。優しそうなパパで、ソエルも嬉しそうだったのに、しばらくしたら悲鳴が聞こえて、行ったら何人かの大人がどなってて、……むりやり、ソエルを車に押しこんだんだ。パパは、楽しそうに笑ってた。お金を、何枚も受け取ってた。
――ガルシア、ソエルは、売られちゃったんだ!。ソエルはもう、戻ってこられないんだよ……。
涙を流すマルケス。僕は笑いかけようとした。でも心は動かず、口はまるで役に立たなかった。だから僕は走り出し、取り戻そうとした。その腕を、マルケスがつかんだ。
――だめだ。「清掃部隊」がくる。僕は聞いた。僕たちのような子供を片づけるあいつらが、ここへくるんだ。逃げなくちゃいけない。僕たちなんて簡単に、殺されるんだ。
マルケスの力が、僕を路地裏のさらに暗い部分へ近づけていく。未来なんて僕たちにはなかったのか、ソエル。そう問いかける僕を、僕が笑った。
――そんなこと、初めから知っていたろう、ガルシア?