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幸田 玲さん

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未来からの贈り物U

14/05/15 コンテスト(テーマ):第五十六回 時空モノガタリ文学賞【 結婚 】 コメント:3件 幸田 玲 閲覧数:832

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 ゴールデンウィークの最中、恋人の直樹とカフェで会っていたとき、母親が乳がんを患い手術することを知った。
 私はその話を聞いて、母を思い出した。母は、私が十歳のときに亡くなっている。
 三十歳のときに乳がんの手術をして片方の乳房を失い、三十三歳の若さでこの世を去った。
 白い肌は、放射線治療で一年中日焼けしたような肌になり、死を迎える十日ほど前には腸閉塞を起こし、病院のベッドで腹痛に顔をゆがめ、うめき声をあげて苦しんだ。
 私はおろおろするばかりで、母を助けることはできなかった。からだをふるわせながら、母の苦しむ姿を、ただ、みるだけだった。あれから十八年が過ぎて私は二十八歳になった。直樹には、母が十歳のとき亡くなっていることは告げている。けれど、どの病気で亡くなったかは話してはいない。話すつもりもない。
 カフェのテーブル席に座っている直樹は、しょげた表情を私に向けている。
「入院はいつなの?」
「十日あとかなぁ……」
 直樹は、遠くをみるようなまなざしを向けて言った。
「お会いしたこともないのに、お見舞いに行ってもいいの?」
「うん、そうだな。考えておくよ」
 直樹の声は沈んでいた。
「元気だしてよ」
「うん、わかってる」
 軽い溜息を付くと、直樹は椅子から立ち上がった。母親が乳がんを罹ったことに、よほど応えている様子だった。
 金曜日の夜、直樹から携帯に電話が入り、日曜日の夕方、直樹の母親と病院で会うことになった。いずれ、病院に行くことを予定していた私は、お見舞い品を用意している。
 精神的なサポートしかできないと思い、お見舞い品として、ワインカラーのウォークマンを選んだ。直樹の母親が好きなユーミンの曲と、七十年代から八十年代の初めごろまでのヒットした曲を録音している。
 入院中、身近にいる患者さんとの交流や治療などで、不安に思うことが多いだろう。だから、好きな曲をいつでも聴くことができれば、病気に対する不安を少しでも和らげることができるのではないかと思った。
 日曜日の夕方、直樹の母親にお見舞いの品を渡すことができた。思っていた以上によろこぶ姿をみせられて、私は会えて良かったと思っている。
 面会から十日後、直樹の母親は退院することになった。それから二週間後には、直樹からホテルでのディナーに誘われた。改まった口調で言われたので、気恥ずかしい気分になった。

 当日の夜、私はホテルのレストラン・バーに合う服装で向かった。
 海のほとりにあるホテルのレストラン・バーのテーブルに導かれていくと、普段行き慣れていない場所だったので、足がふらつきそうになるほど緊張した。
 テーブルのそばの壁一面のガラスには、夜の闇に浮かぶ海と建物ににじむイルミネーションの景色が映っていて、ロマンチックな彩りを演出している。
 中でも、観覧車のイルミネーションの光の輝きは、優美な色彩を放ち、際立っていた。私は夢みるような思いで、視線が夜景に吸い寄せられていく。
 地中海料理のコースを味わった私は、感激で胸が一杯になった。ガラスに映る夜景をみつめ、何も語ることもなく、いつまでもロマンチックな気分に浸りたかった。
「母親が、とても喜んでいたよ。美樹さんによろしくって」
「そう、良かった……。体調はどうなの」
「うん、そうだな。放射線治療が少しつらそうかな」
「気分も落ち込むかもしれないしね……」
「なぁ、美樹」
「なに?」
 直樹は咳払いをして、口許を引き締めた。緊張していることが伝わってくる。
 わざとらしい咳払いする仕草がおかしかったけれど、私は笑いを噛み殺した。直樹は照れ笑いを返してきたが、すぐに真顔になった。そして真剣なまなざしで私をみつめる。今までこんなに愛おしいと思える眼まなこを向けられたことがあっただろうか。
 直樹の喉仏が動いた。
「美樹、俺の家族になってくれないか」
 低い声だが、力強い声音が聴こえた。
 私はおどろいて、直樹の顔をまじまじとみつめた。その言葉をかみしめると、胸の内が跳ね上がりそうになるほどうれしくなった。からだがふるえる、そんな感覚をおぼえ、冷静ではいられなくなった。
 母を失ってからしばらくして、祖母が私に言い含めた言葉が脳裏をよぎった。
「美樹ちゃんは、お母さんの子供のころに似ているねぇ。大人になって素敵な人と結ばれて子供ができたら、赤ちゃんにお母さんの命を分けてあげることができるねぇ」
「私のからだには、お母さんがいるの?」
 私は不思議に思って、祖母に訊ねた。
「もちろん、お母さんはいるのよ。だって美樹ちゃんは、お母さんの命を分けてもらって、生まれてきたんだからね……」
 仕合わせを実感した私は、祖母に報告することを考えた。すると、忘れていた母の笑顔が瞼に浮かんで、目頭が熱くなった。


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このストーリーに関するコメント

14/05/15 幸田 玲

「未来からの贈り物」は、直樹の一人称視点。
「未来からの贈り物U」は、美樹の一人称視点。
連作形式の作品です。
また、風景写真は「ハーバーランド・モザイクの風景壁紙写真集(無料写真素材)」様から、借用しています。

14/06/05 かめかめ

お見舞いにウォークマンって、すごくいいチョイスですね〜
私も真似しよう。

14/06/06 幸田 玲

かめかめさん
コメント、ありがとうございます。あっ!!そうですか。

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