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浅月庵さん

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パーセンテージ

14/05/08 コンテスト(テーマ):第五十六回 時空モノガタリ文学賞【 結婚 】 コメント:2件 浅月庵 閲覧数:1057

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 結婚とは、互いが互いに一生を捧げる神聖な契りなのだ。

 情報化社会は男女の恋愛にまで浸食し、個人をデータ化することにより、離婚の割合は著しく下降線を辿った。
 簡単に言うと、男女が結婚をする際に二人の情報を掛け合わせ、シミュレーションし、その相性度を計る。二人の未来が良い方向に進む基準として、相性が80%を超えていなければ結婚を認められないという極端すぎる制度ができたのだ。

 そしてここに、結婚とは無縁の僕がいる。フリーター、低収入、その日暮らし。お先真っ暗な僕は橋の上に立っている。自分の今後を思い詰めるほど“死”はリアルに近づいていく。
 この世に必要とされていない僕と、消費期限を過ぎたパンはよく似ている。誰にも必要とされず消えるのが辿るべき末路なのだ。

 欄干に身を乗り出す。真下の川は誰が死のうと無関係なように流れを変えない。地面を蹴れば、僕はこのままこの世とおさらばだ。
 せーの、と勢いをつけたその瞬間に、女性の声が僕の鼓膜を震わせる。「死んじゃ駄目!!」
 僕は全神経を一緒くたに鷲掴みにされたような気分で硬直し、その場にへたり込む。
「一体誰ですか?」僕は声の主に視線を移す。
「私、詩織って言います。あなたは?」僕の目に可愛らしい女の子の姿が映るけど、感情はまるで高ぶらない。
「これから死ぬのに名乗るだけ無駄でしょう」
 詩織という女性は僕の目をまっすぐ見つめる。「あなたは死なないよ」
「ん?」
「あなたはこれから、私と結婚するの。早く行こ?」
「......なに言ってんの。しかもどこに?」
「市役所だよ」
「は?」
「二人の相性度が80%超えてれば大丈夫だよ。全部データで管理されてるんだから」そう言って詩織は僕の腕を引っ張って自分勝手に進んでいく。
「ていうか、お互い初めて会ったんだし、相性度80%なんて無理だよ」
「じゃあ、もしいったら?」
「え?」
「80%超えたら結婚してくれる?」そう言って詩織は笑みを浮かべる。
「......万が一超えたらな」そんなの無謀だし、これから死のうとしていた僕が結婚ごときで怖じ気づくのもおかしな話だ。
 やったーなんて万歳する詩織の後ろを、僕は川のように流されるまま黙って付いていく。

「おめでとうございます。相性度95%です」市役所職員にパソコンの画面を見せられて僕は絶句するし、詩織はほらねー、って感じで僕のお腹を突っつく。嘘だろう、今日初めて会った男女が相性95%だなんて、そんなことあり得るのかよ。

 それから僕と詩織の新婚生活は始まった。フリーターだった僕はバイトを3つ掛け持ちして、生活を安定させるよう励んだし、詩織も一緒に働いてくれて、僕たちはなんとか毎日を生きていた。決して裕福ではないけど、詩織は美味しいご飯も作ってくれるし、家事もきちんとこなし、ルックスも抜群。申し分ない嫁で、正直僕には勿体ない。

 ーー半年が過ぎる。僕は幸せを噛み締めていた。詩織は食後のデザートを用意している。
「詩織、本当にありがとう。僕はこれからの一生を君に捧げるよ。今度は君のために僕は死ぬ」台所にいる詩織へ向けて言う。あの日あの時、理由は知らないけど僕を選んでくれてありがとう。
「本当に? 本当に私に一生捧げてくれる?」
「あぁ、本当だとも。僕は君のために......」そう言いかけた途端、詩織の顔がいやらしく歪み、剥いていた林檎が地面を転がる。
「じゃあ、私のために死んで?」
「詩織? 一体どうしたんだよ」僕は詩織の豹変ぶりに鳥肌が立つ。
「私たちってさ、本当に相性が良いと思わない? 死にたいあなたと殺したい私」詩織はにやにやと気色の悪い笑みを浮かべてこちらに近づいてくる。
「なんの冗談だよ」全く状況が飲み込めない、詩織はなにを言ってるんだ? 僕らは相性が抜群、ベストパートナーで、死にたい僕と殺したい詩織?「もしかして、お前!」
 詩織はずっと誰かを殺したい欲望に塗れていたみたいだ。そして僕はあの日、死にたい気持ちで溢れていた。その二人の相性は当然のことながら合致して......。
「相性って結局のところ、需要と供給のパーセンテージだと思うの」
 詩織の握る包丁が僕目掛けて振り下ろされる。

 ......でも、自殺しようと思っていた僕に訪れた新婚生活はとても幸せなものだったし、ある意味ここで死ねるのが一番良い結果なのかもしれない。僕は詩織を心から愛していて、詩織は僕のことを......
......殺したいだけ?

 これから詩織は、僕を殺した後も別の自殺願望者を探し、殺すのか。そんなの嫌だ、耐えられない。
 僕は結局、腐ったパンと同じなのだ。ありふれていて、求められることなんて皆無に等しくて......。

 ーー次の瞬間、僕の視界は闇に沈み、特別な消費者のニーズを叶えた。


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このストーリーに関するコメント

14/05/13 gokui

 読ませていただきました。
 よくできたショートショートでした。なぜ詩織が欄干に立った主人公の背中を押して殺さなかったのかが不思議ですが、たぶん殺すにしても手順というものがあるのでしょう。
 面白かったですよ。

14/05/14 浅月庵

gokui様
感想ありがとうございます。
彼女なりの殺しのポリシーというものを含ませて
書けば良かったです。参考になりました。

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