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デーオさん

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動き出した歯車

12/06/11 コンテスト(テーマ):第七回【 結婚 】 コメント:2件 デーオ 閲覧数:1900

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時間が無い。オレは佳奈の手を引いて駅の階段を急いで降りていた。中ほどまで降りた時、佳奈がアッと小さく言って足を止めた。つないだ手を引っ張る形でオレは足を止めた。通勤時間ではなかったので人混みに押されることはなかったのは幸いだった。

佳奈が降りてきた階段の上の方を見ている。オレもその視線をたどった。脱げてしまった佳奈の靴が横になっている。一瞬シンデレラのシーンが頭に浮かんだが、オレはすぐにその靴を拾って片足で立っている佳奈の傍に戻った。その靴の踵が取れていた。踵を探している時間は無かった。抜け出してきた会社の始業時間までに帰らなくてはいけない。

佳奈が、とりあえずの身の回りの物を入れてきた大きな紙袋から別の靴を取り出して、それを履いた。オレたちはまた手をつなぎ改札を出て、会社への道を急ぎ足で戻った。大きなバッグと大きな紙袋、佳奈はさらにハンドバッグを持っている。

     *        *         *

状況が大きく動きだしたのは、今朝だ。オレがアパートの部屋でまだ寝ている時間に、チャイムがなり起こされた。訪問者は結婚しようかという仲になっている佳奈だった。
「出てきちゃった」
「ん?」
「父がね、私たちの結婚は反対だって言うの」
「どうして」
「正社員でないからだって」
オレはすぐには言葉が出なかった。結婚が二人の同意だけで簡単に済んでしまう訳ではないということは知っていた。でも二人だけで決めて二人で一緒に住むようになってもいいのではないかという話は佳奈としていたのだ。

親がかりで、大金を使って教会で結婚式を挙げる。本物と偽物の混ざった祝福に包まれて、形どおりの儀式などしたくは無かった。おそらくそんな気持ちを父親に話したのだろう。当然のように反対にあったという訳だ。

佳奈は父親の女関係で両親が離婚し、なぜかまたよりを戻した二人を尊敬していなかった。
だから親を捨ててオレのアパートにやって来たのだった。そして、もう少し自分のものを持ち出したいという佳奈の希望で、二人が勤める会社の昼休みに佳奈の家に行って荷物をまとめ、会社に戻ることにしたのだった。

     *        *         *

なんとか始業時間内に会社に到着した二人を見て、女社長が「どうしたの?」と訊いてきた。小さい会社だし、二人の仲は皆知っている。二人でいきさつを話すと、社長は呆れたような顔と、少し羨ましそうな顔をした。そして、改まった顔で「それで、このままって訳にはいかないね」と、少し考えてから断定して言った。
「二人とも、仕事が終わったら、ここで待ってなさい。そして佳奈ちゃんは家に電話して、私が挨拶に伺いますと伝えてね。今でもいいけどご両親とも働いてらっしゃるんでしたね。お母さんは早いの、じゃあ、お母さんが戻られた頃に電話してちょうだい。あとは私にまかせてさ、仕事仕事」

オレは、結婚というものを簡単に考えていたようだ。やはり筋は通さなくてはいけないのだろう。二十歳をちょっと過ぎたばかりの佳奈とオレ。特にオレはもっとしっかりしなくてはいけないと、心に誓った。結婚という運命の歯車は動き出している。


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このストーリーに関するコメント

12/06/13 智宇純子

これくらいの若気な勢いがないと結婚ってできないのでは?とあらためて思わせてくれました。そして、それをうまくまとめてくれる大人の存在。理想です!

12/06/13 デーオ

ポリさん コメントありがとうございます。
就職難、派遣の多い今、結婚をあきらめているひとも多いでしょう。
勢いは必要ですね。

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