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ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが最近になって、やっぱり小説家の夢を追い求めたい自分がいることに気づきました。久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説を書いてます。http://www.potetoykk.com

性別 男性
将来の夢 太宰治賞もしくは北日本文学賞で最終選考に残ることです。
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それでも会いたい君に…

14/05/05 コンテスト(テーマ):第五十七回 【 私を愛したスパイ 】  PRIVATE:I’S賞 コメント:0件 ポテトチップス 閲覧数:1137

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5月に入り仙台駐屯地内の正面道路の両脇で満開に咲きほこっていた桜は、樹の下のアスファルトの地面をピンクに染める日が続いた。
夕方5時にラッパの音で国旗が降りるのを敬礼で締めくくり、今日1日の任務も平時に終わった。
「小野寺、国分町で一杯飲まないか?」上松勝也が口角を上げて言ってきた。
上松は小野寺よりも1歳年上だが、幹部候補生として幹部になるための教育を受けた同期で気心の知れた同じ3等陸尉だった。
「今日は遠慮するよ。飲み過ぎて明日の朝、西塚駐屯地司令のお迎えに遅れたら大問題だから」
小野寺は過去に一度、寝坊で西塚駐屯地司令のご自宅にお迎えに行くのを遅れてしまったことがあったのだ。
「いい女のいる店を紹介してやるよ」
小野寺は唾を飲みこんだ。ここ最近は幹部になったことから、部下の模範になろうと変に意気込んでいたため、女遊びをせずにいた。
上松は慣れた足どりで、国分町の雑居ビルに入っている中国人パブに連れって行った。
薄暗い店内には、チャイナドレスを着たスラッとした美女が、太ももを大体に覗かせ客の接待をしていた。
上松と小野寺が席に座ると、すぐに2人の美女が隣についた。上松は隣に座った美女をコイツは俺の彼女の宇春(ユーチェン)だと小野寺に紹介した。
「おい、いつの間にこんな綺麗な美女を自分の女にしたんだよ?」
「つい最近さ。ユーチェンの話では、日本に住む中国人女性は自衛官が好きなんだとさ。オマエも……」と言って、上松は小野寺の隣に座る美女に黒目だけを動かし小野寺に目くばせした。
その日の深夜、上松と別れた小野寺は、隣に座った春燕(チェンイェン)という色白で長身の美女とホテルにいた。
ホテルから出て駅前で別れ際に「チェンイェン、俺と交際してくれないか?」と聞いた。
「いいよ」
あっさりと受け入れてくれたことが、何よりも嬉しかった。それから交際は順調に続き、とあるデートの日に小野寺は駐屯地司令の話をチェンイェンに話した。
「俺は朝と夕方、仙台駐屯地の西塚駐屯地司令を車で送り迎えしてるんだ」
「へーそうなんだ。どんな偉い方なの?」
「防大の23期生で陸将なんだ。同期に陸上自衛隊のトップである亀岡陸上幕僚長がいて、防大時代からの親友らしんだ」
一瞬、チェンイェンの眼光が鋭く光ったように感じたが、彼女のにこやかな笑顔にいつものごとく引きこまれた。
「機動戦闘車は何台、南西諸島に配備する計画なの?」
「機動戦闘車? 何それ?」
「もうー、自衛隊なのに知らないんだから。2017年までに離島侵略に備えて配備する新型の機動戦闘車のこと」
「俺は初級幹部だから知らないよ。そんなこと幕僚長以上でなければ、きっと分からないよ」
「聞いてみてよ」
「俺ごときが幕僚長にお会いすることなんか絶対に無理だよ」
「アナタが送り迎えしている西塚駐屯地司令なら知ってるかもしれない。聞いてみて」
小野寺は自分の彼女を変わった女性だとデートをする度に思うことがあった。自分も知らないような自衛隊内部の話を聞きたがることがあったからだ。その都度、日本の軍事に興味のある女性なのかなと思うようにしていた。怪しむ気持ちも少しはあったが、まさか自分のような、なりたての初級幹部に……と、思ってその疑う心をいつも打ち消していた。
翌週の土曜日の夜中、デートの別れ際に小野寺はチェンイェンに言った。
「こないだの話だけど……」
昨晩、西塚駐屯地司令は駐屯地内にある酒が飲める隊員クラブで、上級幹部数名と酒を飲む宴を開いていた。
隊員クラブの閉店時間である午後10時に店の外に出た時には、随分と酔われていた。
ご自宅まで車でお送りしながら、何気なくチェンイェンが知りたがっていた情報を尋ねてみたのだった。小野寺の質問に答えてくれた後、すぐに鼾をかいて寝てしまわれた。
「尖閣諸島が侵略された場合に迅速に対応するため、1台180億円もする機動戦闘車を20台量産して南西諸島の駐屯地に配備するらしい」
また彼女の目が一瞬鋭く光った時、今まで少し怪しんできた気持ちがものすごく大きくなって小野寺の心を満たした。でも、彼女を手放したくはなかった。
この日を境に、チェンイェンとは音信不通となった。上松も同じくユーチェンと音信不通になり、あの国分町に店のあった中国人パブも突然廃業した。
上松は怒り狂っていたが、小野寺はチェンイェンがまた自分の下に帰って来てくれる日を待ち望んでいた。
チェンイェンが突然いなくなってから3ヶ月が過ぎた。突然、差出人の連絡先が書かれていない手紙が届いた。

『貴方は、私が出会った男性の中で一番素敵な男性でした。
もし私が日本人ならどんなに良かったかと哀しくなる日があります。
裏切ってごめんなさい。私を一生恨んでください。 春燕(チェンイェン)』


小野寺は、自衛隊を辞めようと決めた。


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