七緒紘子さん

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14/05/03 コンテスト(テーマ):第五十五回 時空モノガタリ文学賞【 予感 】 コメント:0件 七緒紘子 閲覧数:600

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あの日を境に世界は変わってしまった。そうあの日、私の大切な人が煉獄の炎で焼かれたあの日から…。


私には生まれつき強い霊感が備わっていて、ものごころついた頃にはいろんな霊に囲まれて暮らしていた。霊たちはいつも私と一緒に遊んだり、いろんな話を聞かせたりしてくれた。中には悪い霊もいたけど、私のまわりにいる霊たちはそういう悪い霊から私を守ってくれていた。

私には遼ちゃんという幼なじみがいた。遼ちゃんは赤ん坊の頃、美空山の麓で泣いていたのを母が連れ帰ってきたそうだ。母は私と遼ちゃんを女手一つで育ててくれた。母もやはり霊感が強かった。代々母系に受け継がれる血筋らしい。

遼ちゃんは特別な能力を持っていた。それは人の心に共感して、その人と同じ景色を見ることができるというものだ。母はこれを「共鳴」と呼んでいた。遼ちゃんには霊感はなかったけど、この共鳴を通して私と同じものを見ることができた。でも共鳴できないときは遼ちゃんには霊が見えなかった。

母は遼ちゃんのものごころがついた頃に、出生の秘密を正直に話した。でも遼ちゃんが何者なのかについては話さなかった。もちろんその頃の私にも知る由はなかったのだけど…。

成長した私たちは高校生になった。相変わらず霊たちは私のまわりを取り囲んでいたけど、他の人たちには見えなかったし、わりと普通の高校生活を送っていた。ある日の放課後、親友の玲奈がホームルームの終わった隣の教室から駆け込んできた。

「ねぇねぇ、遥香。今日映画観て帰ろうよ!ちょうど今『ロマと風の女王』やってるよ!」
「ごめん!今日は用事があるんだ」
「何て日だ!ちょっと、また遼太郎君とデート?どうせ家に帰れば会えるじゃない!」
「あのね、玲奈。何度も言ってるでしょ。遼ちゃんはそんなんじゃないって!ただの幼なじみなんだから!」
「そーやってムキになるとこが怪しいっつーの!ま、今日のところは許してやろう。明日は付き合ってよね!」

玲奈と校門のところで別れて、私は遼ちゃんが通っている高校に向かった。私の通う女子高から歩いて30分くらいの距離だ。校門を出たところで、にぃとねねが話かけてきた。

(遥香、今日は嫌な予感がする。あの空がどうも気にくわない)
「うん。私も何だか胸騒ぎがする」
(遥香、遼太郎のところに急いだ方がいいわ!あの子の身に何か起こりそうな気がするの)

見ると東の空が怪しく光る雲で覆われていた。遼ちゃんの高校がある方角だ。私は駆け出した。やがて憑依霊たちが集まってきた。私が学校にいる間は、にぃとねね以外の憑依霊は私の元を離れている。そこにまりぃが慌てた様子でやってきて、遼ちゃんが美空山の方へ向かったことを告げた。まりぃは小さな女の子の霊で、私が遼ちゃんにつけている守り番だ。

「遼ちゃんどうして美空山なんかに。あそこには…」
(遼太郎は誘い出されたんだ。おそらく共鳴の力を利用して…)
(遥香急いで!遼太郎が危ない!)

私は全速力で駆けた。足がもつれてもどかしかった。まるで後ろから足首をつかまれて引っぱられてるような感じがした。美空山に近づくにつれて、辺りはどんどん暗くなってきた。灰色の雲が今にも手に届きそうなくらいに低くたれ込めて、とうとう美空山の山頂を犯しはじめた。雲は霧になって山全体を包んでいった。

美空山の麓まで辿り着いたとき、私は思わず足を止めて身構えた。山はもうすっかり霧に覆われて、ぼうっと怪しい光を放っていた。

「遼ちゃんいったいどこにいるんだろう?」
(あそこ!山の中腹あたりが青白く光ってるわ!)
(山頂の方へ向かってる。まずいぞ!このまま連れ去る気だ!)
「連れ去るってどこへ?いったい何が起こってるの?」

突然、私の魂は体を抜け出して美空山の山頂に飛んでいた。そこには遼ちゃんと見たことのない霊たちが立っていた。霊たちが遼ちゃんを取り囲むと、青白く光る霊たちの体が炎に包まれた。炎は輪になって勢いを増し、遼ちゃんを飲み込むように襲いかかった。

『遼ちゃん!』叫んだけど声にならなかった。そのとき、遼ちゃんの声がした。『遥香!』次の瞬間、遼ちゃんの体は炎に包まれていた。私は目の前にいながらどうすることもできなかった。まるで空間に貼りつけられたまま固められたみたいだった。『遼ちゃん!遼ちゃん!』私はいつまでも声にならない声を叫び続けた。


気がついたとき、私は麓の祠の側に倒れていた。そこはちょうど母が赤ん坊の遼ちゃんを拾った場所だった。灰色の雲はもう消えていた。茜色の空が目に眩しかった。遼ちゃんの正体については、後になって母から聞かされた。私は泣いた。遼ちゃんはこの世界を繋ぎとめる要だったんだ…。

こうして世界はバラバラになった。私は遼ちゃんを取り戻すために旅立った。


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