1. トップページ
  2. その予感は

光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

性別 女性
将来の夢 可愛いおばあちゃん
座右の銘

投稿済みの作品

9

その予感は

14/05/03 コンテスト(テーマ):第五十五回 時空モノガタリ文学賞【 予感 】 コメント:10件 光石七 閲覧数:1931

時空モノガタリからの選評

父親の危機や祖父の死を予感したエピソードや、「夫婦円満」という言葉に誘導され、一風変わっているけれど、仲のいい家庭像を思い浮かべていたら‥…まさかのオチにやられました。伏線が自然かつ巧妙で、心地よく騙された感じです。これだけ予感が的中する彼女なら、夫の死だけ感じ取れなかっとは考えにくいでしょうしね。やはり「わざと」なのでしょうか‥‥。保険事務の内容も具体的でリアルでよかったですね。

時空モノガタリK

この作品を評価する

 仕事帰り、なんとなく一杯やりたくなって少し手前の駅で降りた。目についた居酒屋にぶらりと入る。連れで来ている客が多いが、俺のように一人の客もいる。カウンターの隅で飲んでいる男も一人のようだ。……ん? あいつ、どこかで見たような……。
「もしかして、尾渕?」
思い切って近寄り、声を掛けた。相手は一瞬きょとんとしたが、すぐに思い出したように目を見開いた。
「……日下?」
やはり高校の同級生だった。
「卒業以来だな。16年ぶりか? こんなところで会うとはな。せっかくだ、一緒に飲もうぜ」
尾渕は顔をほころばせながら俺を隣の席に誘った。俺も思いがけない再会に心が弾む。
「日下、今何やってんだ?」
とりあえずの注文を済ますと、尾渕が聞いてきた。
「保険会社の事務方。お前は?」
「某商社の営業」
「営業は大変だろ? 成績が全ての物差しだからな。契約取れるか取れないか、プレッシャーが滅茶苦茶すごそうだ。俺には向いてないし、絶対できないね」
俺がため息を吐いていると、店員がビールと枝豆を持ってきた。
「どんな仕事でも何かしらの苦労は付き物さ。確かに営業はきついし相手の反応に一喜一憂するけど、自分のやった結果がはっきり形に残る。そこが面白いんだな。俺は客には恵まれてると思う。嫁さんの助言もあるし」
尾渕がさらりと口にした最後の言葉が引っかかった。
「おいおい、惚気かよ? それとも、奥さんが仕事でもパートナーなのか?」
「違うって、うちの嫁さんは専業主婦。だけど、妙に勘が働くというか……。『今回は無理に押さないほうがいい』とか、『今日、絶対決まる』とか、出掛けにぽっと言ってくるんだ。それが結構当たる」
「へえ。占いでもやってるのか?」
「そういうのじゃない。本人曰く、ふっと予感がするらしいんだ。虫の知らせみたいなもんだな、いい予感もあるけど。俺と初めて出会った時も『この人と結婚する』って思ったらしい。全然タイプじゃなかったのに、なんて今でも愚痴られる」
尾渕がくくっと笑った。
「ビビビ婚ってやつか。芸能人だけかと思ってた。でも、お前の仕事のこともビビッと来るんだな」
俺が言うと、尾渕は頷いた。
「仕事以外もいろいろとな。来客とかも前もってピンとくるから、いきなり来られてあたふたすることは無い。嫁さんが勧める懸賞は出せば当たるし」
「そりゃいいな」
「昔からそうだったみたいだ。小学生の時、父親に『今朝は違う電車に乗って』って言い張って、父親が渋々1本早い電車で出勤したら脱線事故に巻き込まれずに済んだとか。じいさんが急な心臓発作で死んだ時もわかってたって話だ」
「すげえ」
俺は感心した。
「意識して感じ取るわけじゃないらしい。俺はそろそろ子供が欲しいんだが、そういう予感は一向に来ないってさ」
「こっちの都合に合わせて予感するってわけにはいかないのか。でも、仕事とかにはプラスなんだろ? いいじゃないか」
「まあな。けど、困ることもあるんだ。あいつの勘の良さを思うと、かわいい女の子が寄ってきてもうかつに手を出せない」
尾渕は苦笑した。
「ははっ、それはあるか。ま、夫婦円満で何よりだ」
 その後、飲みながら卒業後のお互いの歩みや近況、高校時代の思い出などを語り合った。そして連絡先を交換して別れた。

「日下主任、チェックをお願いします」
次の書類が回ってきた。俺の仕事は死亡保険金支払い時の審査だ。受取人が記入した請求書や保険証券、死亡診断書などを見て、本当に支払うべき案件か審査する。場合によっては事実確認も行う。
「……尾渕亘?」
死亡者名に目を疑った。あの再会からまだ2ヶ月しか経っていない。忙しくて連絡もしていなかったが、また会えるものと漠然と信じていた。
 死因は一酸化炭素中毒、場所はスパランド遊夢。
(あれか……)
先月、Q県の健康ランドで火災が起こり十数人が死亡というニュースがあった。まさか尾渕が犠牲者の一人だったとは……。
 受取人は奥さんになっている。支払う金額は8000万ほど。解約返戻金の無い定期保険だから高額すぎるというわけではない。書類に不自然な点や不備があるわけでもない。だが、一つ疑問が湧いた。
(奥さんは尾渕の死を感じ取れなかったのか?)
普段から様々なことを予感している奥さんだ。病死ならどうしようもないかもしれないが、今回は事故だ。奥さんがそこに行かないようアドバイスしたなら、尾渕はきっと従う。火災に巻き込まれることは無かったはずだ。
(予感しなかったのか、わざと言わなかったのか……)
考えてなんだか背筋が寒くなってきた。しかし、俺は奥さんに会ったことが無いし、どんな事情があったのかも知らない。この保険金請求は妥当なものだ。
 俺は深呼吸して書類を「支払許可」のボックスに入れた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

14/05/03 幸田 玲

光石七様、こんにちは。
作品を拝読致しました。
伏線が充分にはられていることで、オチが生きていますね。
面白い作品で、5枚程度の掌編が苦手な私には勉強になりました。

14/05/03 泡沫恋歌

光石七 様、拝読しました。

作中に張った伏線が利いてて、最後のオチが「何故?」という思いがしました。

彼の奥さんは夫の不慮の死を・・・それを予感しながら、教えない自分を予感出来なかったのでしょうか?
もしかして、予感で夫の浮気がバレていたとか?

そう思うと、怖ろしい話ですが、読んでいて楽しめました。

14/05/03 タック

光石七さん、拝読しました。

奥さんは予感しなかったのか、それとも……。

奥さんの実際に登場しないことが、想像をかきたてますね。面白かったです。

14/05/03 そらの珊瑚

光石七さん、拝読しました。

読み終わったあと
>「俺はそろそろ子供が欲しいんだが、そういう予感は一向に来ないってさ」
という一文がすごく大きな意味があったように思いました。
もしかしたら奥さんの愛はもう冷めていた?とか…
天秤にかけたら保険金のほうが勝ってしまったとしたら、コワイ! ですね。

14/05/04 光石七

>幸田玲さん
コメントありがとうございます。
計算して伏線を入れたというより、話の流れ上そうなったという部分が大きいです。
保険金から疑念を抱く話ということで、日下の仕事と尾渕夫妻の子供なしが自然と決まりました。
“面白い”“勉強になる”とのお言葉、恐縮です。

>泡沫恋歌さん
コメントありがとうございます。
いろいろ想像できるかと思いますが、尾渕は浮気していないはずです。
尾渕の妻がどこまで予感していたのか、そこは曖昧にしたいと思います。
ただ、当初は相手の遺産と保険金を見越して結婚する女の話にするつもりでした。
女の怖さに少し怯えつつ(苦笑)楽しんでいただければ幸いです。

>タックさん
コメントありがとうございます。
尾渕の妻は……どちらでしょうね?
楽しんでくださったようで、うれしいです。

>そらの珊瑚さん
コメントありがとうございます。
鋭いですね、その台詞に注目してくださるとは。
そう読み取っていただくことが一番の願いでした。
わかりにくいかも、と不安だったので、珊瑚さんのコメントはとても励みになりました。

>OHIMEさん
ありがとうございます。
いつもながら褒め上手ですね(笑)
「きっと偶然、偶然だよ」と日下も自分に言い聞かせたことでしょう。
ちなみに、尾渕は“オプチミズム(楽天主義)”から名前を付けました。
日下は“真坂”のつもりでしたが、あんまりかなと思い少し変えた次第です。

14/05/04 メラ

光石七さま、拝読しました。
面白かったです。支払許可。いいですね。このざっくりとした終わり方。居酒屋のシーンから始まるのも気に入りました。まあ、私が酒好きだからなのですが。

14/05/04 草愛やし美

光石七様、拝読しました。

えっ、そうなんだったのですか、ああ、そして、あまりにも怖い結末に驚きました。
恐いですねえ、奥様の予感……。結婚するべき予感イコール、保険金を得られる男だとすれば、なんて恐ろしいことまで、考えてしまう読後でした。

2千文字で、この恐怖に満ちた推理?ドラマを書かれる光石様の筆力に感服しております、大変、面白かったです。

14/05/04 光石七

>メラさん
コメントありがとうございます。
ラストの一文は少し悩みましたが、気に入ってくださりうれしいです。派遣で保険会社の事務(支払審査ではありませんが)をしていたことがあり、実際とは少し違うけれどこのほうがわかりやすいかなと。
居酒屋は自分ではあまり行きませんが、登場人物たちが再会したり本音を話したりするのにうってつけの場所ですね。

>草藍さん
コメントありがとうございます。
草藍さんのご想像、「こう受け取ってくださればいいな」と思ったそのままです。
面白いとのお言葉もいただき、大変うれしく励みになります。

14/06/02 光石七

>凪沙薫さん
ありがとうございます。
元々“旦那が早くに死んで遺産と保険金をガッポリ手にできる予感がしたので結婚”というコンセプト(?)からスタートしました。
拙い部分もありますが評価していただき、恐縮です。
妻の真意を推測して楽しんでいただければ幸いです。

ログイン