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小李ちさとさん

面白いと思ったことだけをやりたいのです。 space a:kumoというくくりで、ごそごそ活動しています。

性別 女性
将来の夢 砂漠で死ぬこと。
座右の銘 おれが おれがの がを すてて おかげ おかげの げで くらせ

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未来の約束

14/05/01 コンテスト(テーマ):第五十六回 時空モノガタリ文学賞【 結婚 】 コメント:2件 小李ちさと 閲覧数:884

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ケータイが着信を知らせる。ろくに確認しないまま電話に出たから、「もしもし」の声に慌てた。ガラケーだった時は着信ランプを緑色にしていたから、心の準備が出来ていたのに。
「……もしもし」
「なに、その声」
くすっと笑う表情が、見えないのに好きだと思う。
「……スマホで着信ランプの色変えるのって、どうやるの」
「え、知らね。俺のついてないし。お前のついてんの?」
「……ついてない」
「何だそれ」
げらげら笑うのを左耳で聞きながら、深呼吸をこっそり3回した。浅い深呼吸だった。
「ちげーよ。俺、言いたいことあってかけてきたんだって」
「そりゃそうだろう。で、何?」
「誕生日プレゼント届いた。ありがとうって、アイツが」
「あぁ……風邪、まだ治んないの?」
「うん。まだきつそう」
「お礼なんて後でいいのに……律儀な奴」
「すげー嬉しそうだったよ。俺が来てもむすっとしてんのに、お前のプレゼント開けてやったら、真っ赤なほっぺた尚更赤くして。あの喜びようは久しぶりだな」
「でしょ?選びに選んで選び抜いたプレゼントですから」
「ほんと、お前のそういうとこ敵わないよなぁ」
呟いた言葉に苦笑が漏れる。
「こら。君は彼氏だろ。もうちょっと私を打ち負かしてくれよ」
「無理だと思う」
「せめて躊躇ってから否定してよ。心配になるじゃん、そんな奴にあの子は預けられない」
「お前はあいつの何なんだ」
「赤の他人だ」
事実を答えてやったら、さっき以上にげらげら笑った。何と言うか、嬉しそう。
あぁ良かったな、と思う。この人が彼女のことを考えている時は、だいたい辛そうだ。それは好きすぎるゆえのことなんだけど、あまりに痛々しいので、見ているこっちが辛い。
初めて出会った時からそうだった。だから惹かれた。何とかしたかった。
叶うはずもない恋だって、分かっているのに好きになった。
「今日テンション高いね」
「まぁ、緊張から解放されたのもあり」
「また来る緊張だろ、それ」
軽く言ってやると、ケータイの向こうで彼は苦笑した。
「誕生日がダメになったからには、いつやるの?」
「んー……考えてねーけど、早いうちがいいよな。こういうのは」
「誕生日の仕切り直しは、いつ?」
「あいつの風邪が治ってから考える。……やっぱ、その時?」
「その時だろうねぇ。だってあんた、これが誕生日プレゼントって言うつもりで特に何も準備しなかったんでしょ?」
「まぁ、仰る通りですが」
「大事な時にしてあげなよ。大事なんだからさ、プロポーズなんて」
「……だな」
そのたった二文字の答えが、とてもやさしくて、やわらかくて、この人は本当に彼女のことを愛しているんだなと改めて知る。そんな人と結婚しようとしているんだな、と思う。
嬉しい。辛い。どっちが大きいのか分からない。
「……ねぇ」
「ん?」
「早く結婚してよ」
そしたら私、諦められるから。
誰より心を込めて、お祝いできるから。
「結婚式、来てくれる?」
「当たり前じゃん。呼ばれなくても行くよ」
「迷惑な奴」
「今更なこと言わないでください」
ふふっと彼が笑う。さっきの二文字の答えの時と、おんなじくらいにやわらかくやさしい。そう、この人は私のことも、ものすごくものすごく愛してくれている。
なのに私じゃ駄目なんだ。
「お前も早く結婚しろよ」
「相手がいないよ」
「さっさと作れ」
「嫌だ」
「……あのさぁ」
軽口の連続から、口調がいきなり真剣になった。
「幸せになって欲しいんだよ、お前には」
じゃあ、幸せに、してよ。
言いたい。言えない。私を幸せにするより、彼に幸せになって欲しい。それが私の、最初の願いだったから。
いちばん愛する人と、いちばん幸せになってくれたら。
そしたらきっと、私、すごく幸せになれると思う。
「……あ、そういうことか」
「どうした、いきなり」
「んーん。結婚って、結婚する人だけを幸せにするんじゃないんだなって思って」
「そうそう!そういうこと。俺のことも幸せにしてよ」
「……ん。がんばってみる」
答えたら彼は、またやさしく笑った。
頭を撫でられているみたいなそのやさしさが、私、とっても好きだった。
「君が幸せになったら、私、幸せだよ」
「そう。俺も、お前が幸せになったら、すごく幸せ。だから頑張りなさい。大丈夫、お前は素敵だから」
「幸せに、なれるかなぁ」
「なれるよ」
「なっていいかなぁ」
「それは、お前の旦那になる人が答えてくれるよ」
「……うん」
瞬きしたら、すっと涙がこぼれた。
あぁ本当に、この人は誰かと結婚してしまうんだ。こんなに私を愛してくれる人、他に見つけられるだろうか。
分からないけど。自信もないけど。
「いい人を見つけなさいね。幸せになりなさいね」
「うん」
この人に、言えるだろうか。今飲み込んだこの言葉。
私が結婚する時に。


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このストーリーに関するコメント

14/05/19 光石七

拝読しました。
友人の恋人を好きになってしまったんですね。
葛藤を抱えながらも相手の幸せを一番に願う主人公が切ないです。
主人公に幸せが訪れますように。

14/05/19 小李ちさと

光石七さま

コメントありがとうございます。
この人にとっての『最大の幸せ』は絶対これだな、っていうのが分かってる時って
それ以外の幸せは選んで欲しくないですよね。
自分の好きな人には みんな、『いちばん幸せ』でいて欲しいなって思います。その姿を見ていられれば自分も幸せだな、と。
ある意味ずるい発想だと私自身は思っているのですが、そうじゃない形の幸せも ちゃんと見つけられたらいいなと思います。

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