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墓に入れるな

14/04/23 コンテスト(テーマ):第五十六回 時空モノガタリ文学賞【 結婚 】 コメント:1件 五助 閲覧数:972

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「姉さん、孝史君をお墓に入れてやりなよ。そりゃ、あんな事件を起こして、いろいろあるだろうし、親戚筋にもごちゃごちゃ言ってくる人間もいるかも知れないけど、お義兄さんから見れば大切な一人息子なんだから、一緒にお墓に入れてあげるべきだよ。きっとお義兄さんもそれを望んでいるはずだよ。孝史君は、もう亡くなったんだから、済んだ話し、なんて言っちゃいけないのかも知れないけど、相手のご両親だってさ、何も墓にまで入れるなって言ってる訳じゃないんでしょ。そりゃ姉さんの気持ちはわかるよ。申し訳ないって気持ちがあるんだろ。それともあれかな、孝史君を罰したいのかな、許せないって気持ちがあるんだろうけど、とにかく、墓ぐらい入れてあげなきゃ、なんだかんだ言ったってそれぐらい良いじゃないか。世間の人だって、それぐらい許してくれるよ」
 弟の話を私はうなずきながら聞いた。夫は五年前に亡くなり、一人息子の孝史はつい先日亡くなった。自殺である。
 三ヶ月ほど前のことだ。好きな人ができた母さんに会わせたいと、恥ずかしそうに孝史は言っていた。ところが、孝史はその好きだった女性を殺し、自ら命を絶った。なぜこんなことになったのか、いまだに理解はできない。ただ周りの人たちは、孝史のことをストーカー呼ばわりして、交際を断られた腹いせに無理心中を図ったと言っている。一人残されたものにとっては、耳も目もふさぎたいような、受け入れがたいことばかりだった。
 
 六月の、孝史の月命日の前夜、孝史が殺した女性のお墓に私は行くことにした。昼間に行くことなどとても許されない。暗闇の上、梅雨の雨が降っていて、傘を差していても着ていた礼服は足下からずぶずぶと濡れた。お墓の場所は親戚を装いあらかじめ聞いておいた。懐中電灯を持ってきていたが、見つかるといけないので、つけずに、一つ一つ墓石に顔を近づけ確認しながら歩いた。雨に当たった墓石がぱちぱちと奇妙な音を立てていた。
 聞いておいた番号の墓石があったので、指でこするように名前を確認した。石の角が取れ、少し古いものの、雑草一つ無く、雨に打たれた花が負けじと前を向いている。お骨が入っている石蓋を開けるため膝をついた。指を隙間に差し込み、石蓋を持ち上げようと、あまりの重さに、悲鳴を上げながらもちょっとずつ、しがみつくように石蓋をずらした。
 懐中電灯を照らし中の様子を見ると、骨壺がいくつかあった。体を折り曲げ腕を入れ、一番新しいであろう骨壺を取り出す。少し赤みのある女性らしいかわいらしいデザインの骨壺だった。ふたを取ると若い骨が見えた。
 死後婚というものがあるらしい。未婚の男女を死後結婚させるという風習が古くから、いろいろな国であるそうだ。私のしていることはそれとは少し違うかも知れない。なんせ誰の許しも得ずに添わすのだ。
 私は鞄の中から、息子の薬指の、付け根の方の骨と、喉仏の骨を選び取り出した。
「もっと、たくさん入れたかったんだけど」
 相手のお墓から骨を取ってきて孝史の骨壺に入れ、自分たちのお墓に入れることも考えたが、相手の女性の一部分を盗み取ってくるみたいで気が引けた。それよりも、孝史の体を切り取って一緒にしてあげた方がいい。これ以上相手の女性を傷つけるわけにはいけない、傷つけるとしたら孝史の方であるべきだ。
 私は鞄から指輪を取り出した。自分の分と彼女の分、孝史は結婚指輪まで用意していた。
 軽い骨に指輪をはめると、くるくる回った。「あなたの指はどれかわからないから、そっちでつけてくださいな」私はもう一個の指輪を骨壺に入れた。
 赤みがかかった骨壺の中、白い頭蓋骨の欠片の上で、指輪が雨粒をまとっていた。私は彼女の骨壺を撫で、どんな人だったのかしらと少し考えた。
「身勝手な、お願いかも知れないけど、許してね」
 手を合わせ、指輪をはめた孝史の薬指と喉仏を彼女の骨壺に入れ、少しかき混ぜた。


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このストーリーに関するコメント

14/06/05 かめかめ

……死んでも逃げられない……

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