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光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

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雨に打たれたら

14/04/20 コンテスト(テーマ):第五十四回 時空モノガタリ文学賞【 激しい雨がふる 】 コメント:8件 光石七 閲覧数:1111

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 図書館でレポートを書いていたら、いつの間にか6時を過ぎていた。外に出ると、小雨が降っている。天気予報は日中の降水確率20パーセント、夜から雨って言ってたけど……。私はバッグから折りたたみ傘を出して広げた。
 歩きながら夕食の献立を考える。冷蔵庫の半端な野菜たち。冷凍のひき肉もそろそろ使い切りたい。昨日買った豆腐もあるし……。一人暮らしだと食材を余らせてかえって高くつくと言う人もいるけれど、やっぱり自炊が一番経済的だし、量も栄養バランスも調整が利く。余り物で適当に作ったものが意外に美味しかったりして、レパートリーが増えるのも楽しい。少し雨が強くなってきたので、足を速めた。
 S大まで徒歩10分という触れ込みだったけれど、実際は15分かかるマンション。階段下で傘を畳み、集合ポストを確認する。ピンクチラシが入ってるだけだった。ごみ箱に捨てて、鍵を出しながら2階に上がる。共用廊下に足を踏み出した途端、自分の部屋のドアに寄りかかっている人影に気付いた。
「……人ん家の前で何してんの?」
平静を装って声をかける。
「雨宿り。ついでに飯食わせてもらおうかなって」
屈託のない笑顔で答えるこの男。
「私にも都合というものがあるんだけど。大体、なんで私が奏輔のためにご飯用意しなくちゃいけないのよ?」
「未織の作る飯、うまいから」
さらっと返してくるのが憎たらしい。
「どうも。さっさとどいてよ。部屋に入れないんだけど」
「食わせてくれんの?」
「やだ。とっとと帰って」
奏輔をなんとか押し退け、鍵を差し込んだ。
「いいじゃん、飯くらい。彩香にも俺の事頼まれてんだろ?」
「この間はアンタが風邪で寝込んでるっていうから、彩香が心配して私に差し入れを頼んだだけ。浮気してないか、監視するようには言われてるけどね。……なんで彩香はアンタみたいな男を選んだんだか」
彩香は高校まで一緒だった一番の親友だ。彩香と奏輔は高2から付き合っている。彩香は地元の短大、奏輔は私と同じくS大に進学して今は遠距離恋愛中。引っ越し前、彩香は冗談交じりに「奏輔をよく見張っててね」と私に言った。
「俺がイイ男だからだろ? お、一緒に食えば監視もバッチリじゃん」
一人満足げに頷く奏輔。この自己中男。
「だからって、私が手料理振る舞う必要ないでしょ」
ドアをさっと開け、素早く中に入ろうとした。奏輔がドアの縁に手を掛けて自分も滑り込んでくる。
「バイト代入ったら『レ・フォイユ』の苺タルトおごるから」
するっと部屋に上り込まれてしまった。
「不法侵入!」
「固いこと言わない。腹減った、何でもいいから作って」
奏輔はカーペットの上に座ってテレビをつけた。私は諦めて荷物を置き、手を洗って台所に立った。タコライスと中華スープ、豆腐サラダ。簡単に作れるメニューに決めて調理を始めた。

「うまそー」
テーブルに並べると、奏輔がうれしそうな声を出した。
「食べたら帰ってよ」
私は釘を刺し、自分も腰を下ろした。
「うん、味付け絶妙、野菜もたっぷり。未織、いい嫁さんになるわ」
食べながら奏輔が言う。
「……褒めても苺タルト帳消しにしないからね」
「あ、魂胆見え見え?」
へらっと奏輔が笑う。私は無視して食べることに専念する。
 雨音が激しくなってきた。
「……雨、すごくね? あー、帰るの面倒くさ」
先に食べ終わった奏輔がごろんと横になった。
「何くつろいでんの? さっさと帰れば?」
「えー、この雨の中? 未織、今晩泊めて」
不服そうな奏輔。
「……ふざけないでよ!」
思わず大声を出してしまった。顔が熱い。
「……アンタのそういうとこ、大っ嫌い! 彩香がかわいそう」
溢れそうな思いを、懸命に親友の心配にすり替える。奏輔は呆気にとられたような顔だ。もっと言わなきゃと思うのに、言葉が出てこない。
「……悪い、調子に乗り過ぎた」
おもむろに奏輔が口を開き、立ち上がった。
「俺、だらしなく見えるかもしれないけど、彩香を大事に思ってるのは本当だから。……帰るわ」
奏輔は出て行き、ドアがバタンと閉まった。……悟られてないだろうか? 残りのご飯を口に押し込む。涙が出てきた。
 奏輔の彩香への思いはわかってる。おちゃらけてるようで、根は真面目だということも。だから彩香も奏輔を信じている。私は彩香の親友として、二人の幸せを願っている。それは嘘じゃない。なのに、奏輔のちょっとした仕草にドキドキして、異性として見られてないことが悲しくて。そんな心を隠すために刺々しい態度を取ってきたのに。
 また雨が激しさを増したようだ。……奏輔、傘持ってたっけ? 慌てて外に出たけれど、今更遅かった。ずぶ濡れで帰ったかもしれない。
 私も雨に打たれようか? この横恋慕の火が消えるなら……。斜めに落ちる雨の銀糸を見ながら、そんなことを思った。


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このストーリーに関するコメント

14/04/21 gokui

 読ませていただきました。
 女心全快ですね。もしかして実話? と思わせるリアリティがありました。この火は……雨じゃ消えないんだな、残念なことに。

14/04/21 草愛やし美

光石七様、拝読しました。

微妙な関係を保つために必死になっている未織さん、その複雑な気持ちを激しい雨が表していて、ビンビンと感じ「わかるなあ」と自然に相槌を打っていました。
異性にあまり間近にいられると、やはり気持ちは昂りますから、信じられているだけに辛いでしょうね。こういう場合、中には友情より恋を取って奪う人もいるでしょうが、未織さんいい人だけにねえ。人を恋する気持ちってどうしようもできないものです、その切なさよくわかります。
面白かったです、ありがとうございました。

14/04/21 朔良

光石七さん、拝読いたしました。
ああ、辛いですね、未織さん…。
奏輔さんが、少しだらしないけど女心をくすぐる感じなのがまた、この関係の危うさに拍車をかけてて、物語に引き込まれます。
横恋慕であっても、恋の炎は雨じゃ消せませんよね…。
面白かったです。

14/04/21 そらの珊瑚

光石七さん、拝読しました。

前半のマンションまでのくだりで(降水確率20%で折りたたみ傘を持っていくなど)
未織さんの、実にきっちりとした性格が見事に描かれてますね。
たぶん正確的には正反対のような奏輔くんに惹かれてしまうのがわかるような気がしました。
もしかしたら奏輔くんも…? そのあたりも匂わせながら描かないことが
かえって読者に想像させる余地があって良かったです。
この恋のゆくえ、どう転んでも切ないですね。

14/04/21 泡沫恋歌

光石七 様、拝読しました。

こういう恋愛はツライですね。

奏輔さんもこういう罪なことをしてはいけない。
本気じゃないなら女の子の部屋に一人で上がり込んではダメだよ。
こういうチャラい男に、案外女は弱いんだよね。

何だか、未織さんが可哀想で泣けてくる話だった。

14/04/22 光石七

>gokuiさん
コメントありがとうございます。
全くのフィクション、妄想(笑)ですが、リアリティがあったとのお言葉、うれしく思います。
未織のマンションの描写は、私が学生時代に一人暮らしをしていたマンションに近いですけど。
雨で消えるような火だったらそんなに苦しまずに済むのでしょうが……
恋の難しさですね。

>草藍さん
コメントありがとうございます。
恋愛を主軸にした話を書くのは苦手でして、これで伝わるかなあと不安がありましたが、未織の立場と気持ちをしっかりくみ取ってくださり、うれしいです。
激しい雨はラストに絡めるだけのつもりで書いたのですが、途中途中の未織の心情ともリンクさせてくださるとは……
このような読み方をしてくださる草藍さんの感性に敬服です。

>朔良さん
コメントありがとうございます。
また主人公に辛い思いをさせるサディストの作者です(苦笑)
雨で胸の恋情を消してほしい、ここに向かってなんとか話をひねり出しました。
面白かったとのお言葉、うれしいです。

>そらの珊瑚さん
コメントありがとうございます。
前半の描写は主人公が一人暮らしの女子大生であることを表現するために入れたのですが、ここから未織の性格を読み取られるとは思いませんでした(苦笑)
奏輔の気持ちもあえて書かなかったのではなく、字数制限で自然と省略されました(苦笑)
いつも読んでくださる方に助けられています。

>泡沫恋歌さん
コメントありがとうございます。
本当に奏輔は罪作りですね、彼女じゃない女の子の部屋に上り込むなよ(苦笑)
未織が一人辛い思いをしていますが、彼女をいじめている作者もいつか乗り越えて幸せを掴んでほしいと思います。

>OHIMEさん
コメントありがとうございます。
学生時代と重ね合わせて読んでくださったとのこと、現実味を感じてくださったのだとうれしく思います。
親友の彼氏を好きになる、自分では経験がありませんが、相当しんどいだろうなあ……
OHIMEさんこそ素敵な作品ばかり、凄過ぎですよ。
 P.S. ちーちゃんの肉球、“ぷりてぃ”ですか(笑)

>メイ王星さん
コメントありがとうございます。
メイ王星さんも作者より深く読み取ってくださいますね(苦笑)
コメントの中の“揺れ動く心を必死で止める主人公”という言葉に、「そうだ! 未織は必死で思いを止めようとしてるんだ!」と、自分が何を書きたかったのかストンときました。
読んでくださる皆様の感性が、足りない部分を補ってくださっています。

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