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ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが最近になって、やっぱり小説家の夢を追い求めたい自分がいることに気づきました。久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説を書いてます。http://www.potetoykk.com

性別 男性
将来の夢 太宰治賞もしくは北日本文学賞で最終選考に残ることです。
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絶品とんかつ

12/06/10 コンテスト(テーマ):第六回 時空モノガタリ文学賞【 週末に。とんかつ伊勢 新宿NSビル店のモノガタリ 】 コメント:0件 ポテトチップス 閲覧数:1843

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 携帯電話の呼び出し音が鳴り出したらしく、隣で寝ていた真知枝が私の体を激しく揺すった。
 「あなた電話よ!」
 寝室の暗闇の中、目覚まし時計で時間を確認すると午前2時を少しばかり過ぎていた。
 「あなた、小次郎社長からじゃないの?」
 ここ最近、深夜に小次郎社長から急な電話が掛かって来る事が多かった。
 雑誌の刊行日が近づいていたからであったが、深夜に電話が掛かってきて起されるのは、昼間別の仕事をしている私には、肉体的に堪えた。
 「はい、黒田です」
 「あ、黒田さん。小次郎ですが……」
 半年前に私は副業の仕事を探した。妻と結婚して18年目が経ち、高校生の長男と中学生の次男の養育費は家計を逼迫していたからで、本業の清掃会社が終わった後に2・3時間程度働ける仕事を探していた。
 しかし、50歳に近い年齢ではなかなか仕事は見つからなかった。
 ある時、清掃会社の仕事で錦糸町にある雑居ビルの一室を1人で清掃していた。室内の清掃も終わり、玄関外に出て玄関ドアを水に濡らした雑巾で拭いていると、隣の玄関ドアに、短時間アルバイト募集中の張り紙が貼っていた。こんな所に張っていても住人しか見ないだろうと思いながらも、なんとなく私はそのドアの横にあるチャイムを鳴らしていた。
 少しして玄関ドアが開き、中からよく肥えた60歳半ばくらいの男が出てきた。
 「はい?」
 「あ、あのう、短時間アルバイト募集の張り紙を見たんですが……」
 男は、私の足元から頭までゆっくりと顔を動かし見た後、私を室内に招き入れた。
 ソファーに座り待っていると、男は盆にお茶を載せ向かいのソファーに腰を下ろした。
 「お茶、どうぞ」
 出されたお茶を一口いただいた後、事情を話し履歴書を用意していない事を伝えた。
 「履歴書はいらないですよ。私は望月小次郎と言いまして、有限会社小次郎オフィスの社長をやってます。今は、従業員が8人程います。ちょうど人が足りなくて困ってたんですよ」
 「あのう、私は副業の仕事を探していまして、一日2・3時間くらいの仕事を探していたんですが……」
 「構いませんよ。うちとしましても、夕方から3時間程度働ける人を探していましたから」
 「よかった。仕事内容はどういった事なんでしょうか?」
 「仕事内容はとんかつ料理店に行って、とんかつを食べて評価をつける仕事です。黒田さんはとんかつは好きですか?」
 「はい、とんかつは大好物です」
 「なら良かったです。毎年、食のテーマは変わるのですが、今年のテーマは『とんかつ』で、東京中のとんかつ料理店に従業員が行って実際に食べ、ベスト1を決めるんです。そして年の瀬にそれぞれの従業員が出したベスト1の店に全員で行き、その中で一番美味しかったとんかつ料理店の特集雑誌を刊行するんですよ。去年のテーマは『コロッケ』で、出した特集雑誌はテレビでも取り上げられる程、売れましたよ」
 一通り話を聞き終わった後、雇用契約書にサインをした。
 翌日からさっそく仕事があった。日中は清掃会社でいつものように働き、仕事が終わった後、小次郎社長から携帯電話に行ってもらうとんかつ料理店のメールが送られてきていた。電車に乗ってそのお店に行き、とんかつを食べながらこっそりと、昨日、小次郎社長から渡された評価表に詳しく美味さや、店の雰囲気などを記入していった。
 あっという間に季節は移り変わって行き、年の瀬が近づいた先週の土曜日、私達従業員は、小次郎社長に会社に来るように呼ばれた。
 約束の時間の午後3時に、錦糸町にある雑居ビルの中に入っている小次郎オフィスの玄関ドアを開けると、初めて顔を会わす8人の従業員がソファーに座っていた。
 軽く挨拶を交わした後、小次郎社長を交ぜての会議が始まった。
 小次郎社長は、私を含めた9人の従業員に、それぞれが選ぶベスト1のとんかつ料理店名を、1人1人聞いて言った。
 「黒田さん、あなたはどこのお店がベスト1ですか?」
 「私は新宿にある、とんかつ伊勢 新宿NSビル店をベスト1に選びます」
 「簡単に選んだ理由を聞かせて?」
 「私は、特ロースかつ定食を食べたんですが、もう絶品の一言です。それ以外に理由はありません」
 会議が終わったその日と、翌日の日曜日をつかって、小次郎社長も含め皆でそれぞれの従業員が選んだベスト1のとんかつ料理店に向かった。
 9軒のとんかつ料理店のとんかつを皆で食べ、その中でベスト1を選んだ。
 
 「寝ていた所、起して申し訳ない。あのー明日の夕方、私と一緒に、とんかつ伊勢 新宿NSビル店に行ってもらいたいんだ。出版社と話し合って、この店を選んだ推薦人という事で写真撮影をしたいそうなんだ」
 電話を切った後、寒さを感じ布団に潜った。今年の年の瀬は例年にも増して寒さが堪えた。






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