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gokuiさん

いい年して小説家を目指しているおっさんです。 様々なジャンルの小説を書いていますが、どのジャンルでも自分らしさが出せるように頑張っています。 皆様、よろしくお願いします。

性別 男性
将来の夢 もちろん、職業作家です。将来を語れる程若くはありませんけどね。
座右の銘 無理はしない! 石橋はたたいて渡るものです。たたきすぎて壊してしまっては元も子もありませんけどね。

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フォーミュラ

14/04/18 コンテスト(テーマ):第五十四回 時空モノガタリ文学賞【 激しい雨がふる 】 コメント:10件 gokui 閲覧数:888

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 とても走れるようなマシンの状態ではなかった。エンジンを回せばコックピットの温度は急上昇して、一周走りきるのが精一杯の状態だった。メカニックは必死の作業を余儀なくされた。それが一時間前だった。
 今、俺はコックピットに座っている。しかし、異常が修復されたわけではない。
「マシンに乗せてくれないか?」
「今の状態じゃ、とてもコースに出られないぞ」
「大丈夫、乗るだけだ。エンジンはかけない。どうせこの雨じゃ予選は中止になるよ。ライバルチームに対するカモフラージュにもなる」
 そう言って強引に修理の終わっていないマシンを組み立てさせた。予報通りの雨が降り始めた頃だった。
 今日はこのチームで初めてのレースだった。弱小チームで技術力も資金力も乏しいチームだ。去年まで中堅チームで、ある程度の実績を積んできた俺が来るようなチームではない。それが、スポンサー持ちの弱小ドライバーにシートを明け渡すことになり、俺を拾ってくれるチームはここしかなかった。
「俺みたいなスポンサーのつかないドライバーを雇うから資金力が上がらないんだよ」
 内心、自分への抗議のような台詞をつぶやく。チームオーナーが聞けば即、契約を解除されるだろう。
 予選開始時刻が迫っていた。雨脚は強まる一方だった。ヘルメットをかぶり目をつむった。イヤホンから予選開始時刻十分延長の情報が伝えられた。どうでもいい情報だった。たとえ今、急激に路面状態がドライになったとしても、俺はコースに出ることは出来ないのだ。
 十分後、再び予選開始時刻延長の情報がもたらされる。ガレージの外は依然、視界を遮る水のカーテンのようだ。俺はまだコックピットの中でヘルメットも取らずに目を閉じている。
「これはもう予選中止だろう。明日の決勝に向けてマシンの修理を続けさせてくれないか? 一刻でも無駄に出来ない状況なんだ」
 イヤホンからメカニックリーダーの声が聞こえた。俺は静かに目を開けて、右手を挙げて同意の意思を伝えた。
 コックピットを抜け出してヘルメットを取ると、じめっとした不快感に襲われた。メカニックの一人が俺の肩をたたいてマシンに走り寄った。すでにマシンはジャッキ上げが完了しており、数人のメカニックがマシンのねじを外しにかかっている。メカニックリーダーが一人一人に的確に指示を出す。その流れるような作業は美しかった。去年まで俺の居た中堅チームでは感じなかったものだ。
「このチーム、今は弱小チームだが来年もそうだとは言えないな」
 内心、俺はチームを褒め称えた。それと同時に、自分自身の気持ちに修正を加える。「マシンに乗れればいい」から「ポイントを取りに行く」と。そう思い直すと今まで感じたことのない感覚に襲われる。レーサーとしての自覚というものだろうか。
「俺もやっと大人になったってことかな」
 独り言は激しい雨音にかき消された。
 予選中止のアナウンスを聞きながら、今日走れなかったことに感謝した。メカニックたちが奏でるけたたましい金属音は、激しい雨音さえもかき消そうとしていた。


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このストーリーに関するコメント

14/04/20 光石七

拝読しました。
カーレースの世界はよく知らないのですが、情景が目に浮かぶようです。
素敵なメカニックチームと主人公の心の変化、次のレースはいい戦いができそうですね。

14/04/21 gokui

 コメントありがとうございます。
 カーレースの知識が少しでもある方むけに書いたので、それでも情景が目に浮かぶ様と評価いただいて非常に励みになりました。ありがとうございました。

14/04/21 草愛やし美

gokui様、拝読しました。

私の全く知らない世界で、楽しく読ませていただきました。F1好きな方が、fecebookの知り合いにいますが、写真でしか知りませんでした。お作読みまして、様々な立場や環境など少し触れさせていただき、鈴鹿に一度行ってみたいなと思いました。ドライバーの方は、こういう心境なのですね、情景、私も、浮かびましたよ。主人公さんとこの弱小チームを応援したくなりました。

14/04/21 gokui

 草藍 さん

 コメントありがとうございます。
 ドライバーの心境はわかりませんが、現在の唯一のF1日本人ドライバー、小林可夢偉さんと状況が似てますね。心境は全く違うと思いますが。
 F1知らない人でも情景が浮かぶっていうのはほんとに励みになります。もしかしたらよく知っている人の方にだめ出しされるかもですが。

14/04/25 そらの珊瑚

gokuiさん、拝読しました。

とかくドライバーが注目を集めるF1ですが、メカニックチームの努力なしには成り立たないものですね。
テクニックだけではなく、チームとしての自覚が心理的にもいいほうに働き彼はいいレーサーになるのでは? と思いました。

14/04/25 gokui

 そらの珊瑚 さん

 コメントありがとうございます。
 カーレースがチーム戦だということを、皆さんにわかってもらえればうれしいですね。レーサーは孤独な戦いをしているというのは間違った見識です。無線から聞こえてくるチームメイトの声にドライバーはきっと助けられているはずです。このチーム戦を楽しむスポーツなのです。
 この物語の主人公もそんなチーム戦のスタートラインに立てたようです。きっと、いいレーサーになりますよ。

14/04/26 黒糖ロール

拝読しました。

他の方も描かれていますが、カーレースというなじみのない世界を、きちんとイメージさせる描写が素晴らしいです。主人公の心情の変化も鮮やかでした。

あと、固定文字数で改行するより、今回の改行の仕方の方が私は好きです:-)

14/04/26 gokui

 黒糖ロール さん

 コメントありがとうございます。
 情景描写は、今回かなり成功しているようですね。知らない人にはイメージしにくいと思ったのですが我ながら驚きです。
 改行の方法については、小説作法に則ってやっているつもりなので、特に意識しているわけではないのですが、結構独自の方法をとってらっしゃる方がいるのですね。私はオーソドックスなのが一番読みやすいと思うのですけど……

14/05/17 murakami

こんにちは。
自動車レースのことはわかりませんが、レースの雰囲気がよくでていると思います。激しい雨が降るというテーマともよく合致していますね。

14/05/18 gokui

 村上 さん

 コメントありがとうございます。
 雰囲気がよく出ているということ、テーマとも合致しているということ、お褒めのコメントありがとうございます。今のところカーレースに詳しい方からはコメント頂いていないわけですが、これだけ皆さんに褒めて頂ければうまく書けているのでしょう。非常に励みになりました。ありがとうございます。

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