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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
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砂の中の魚

14/04/16 コンテスト(テーマ):第五十四回 時空モノガタリ文学賞【 激しい雨がふる 】 コメント:17件 そらの珊瑚 閲覧数:1211

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 ここは紛れもない砂漠。
 この砂の中で一年のほとんどを僕らは眠って過ごす。眠りたいからではなく、眠る以外に出来ることがないからだ。多くの仲間は『よろこびの季節』と呼ばれているものが来るまで、そのまぶたを開くことはないと聞く。
 
 眠りは仮死に似ている。いわば死に寄り添ったような生。

――僕はちゃんと目覚めることが出来るのだろうか。
 疑問は尽きることなく湧いてくる。
 なぜ僕らの毎日は変わり映えせず、おそろしく退屈なのだろう。
 なぜ僕はこの世に生まれてきたのだろう、なぜ、なぜ……。

 そう思うと眠るのが不安になり、こうやって思念をとばしてみるのだ。
 僕ら『砂の中の魚』はコトバを持たないが、ある種のテレパシーによって会話することが可能だ。
 思念はかすかな電気信号となり、砂粒の間に出来たほんのわずかな空間をとぶ。うまくいけば僕と同じように思念をとばす仲間に出会える。

「ハローハローこちらリフです。応答願います」
 すると意外にもクリアな思念が飛び込んできた。
「ハロー。リフ、はじめまして。こちらティーチャーです」
「えっもしかしてあの伝説のティーチャーですか?」
 僕は一瞬驚いたあと、胸びれを腹の下で合わせるようにして(それは短いので完全に合わすことは出来ないが)この幸運に感謝した。
 ティーチャーはいわば『砂の中の魚』の長老だ。その年齢は百歳とも二百歳とも言われている。きっと何でも知っているに違いない。

「まだ伝説にはなっちゃいないがね。わしはまだ生きている、現実じゃよ」
「あ、ああ。光栄です。ティーチャーとお話出来るなんて。さっそくですが質問してもいいでしょうか?」
「リフ、あわてるでない。わしはだいぶ耳が遠くなったで、そう早く思念を送ってこられちゃ雑音ばかりで聞き取りにくわい」
「ごめんなさい」
 落ち着こうと思い、うっかり砂を吸い込まないよう慎重に僕は深呼吸した。
「さっそくですが。『よろこびの季節』って何ですか?」
「リフ、察するに君は去年産まれたばかりの新米じゃな」
「はい、そうです。だから知らないことばかりで不安なんです」
「不安に思うことは決して悪いことではないぞ。わからないから不安になって、この世界のことを知りたいと思う。求めよ、されば与えられん。素晴らしいことじゃて」
 僕はすっかり嬉しくなった。
 今まで僕のことを変わり者だと揶揄する者はいたが、そんな風にほめてくれた者はいなかった。
「わしら種族は魚ではあるが、遥か遠い昔、生存競争が激化した海を捨ててここへやってきた。ここは一年に一度だけ激しい雨がふる。それはほぼ一週間続き、この砂の窪地は湖となる。それが『よろこびの季節』じゃ。そして唯一無二の相手、パートナーを探し、子を産み、育てる。命の季節ともいえるじゃろう」
 へえ、僕はそんな風にして産まれたんだ。
「最初に巡りあったパートナーは生涯変わることはない。翌年もそのまた翌年もパートナーであり続ける」
「でも探せないこともあるのでは?」
「生きている限り分かるものなんじゃ。出会えなかったということは……」
 唐突にティーチャーに思念がぷっつり切れた。
「もしもし、ティーチャー? どうされましたか?」
 思念が切れると無音の世界で迷子になりそうだ。
「イヤ、失敬。おいぼれじゃて思念を長くとばすと疲れるわい」
 再び返ってきた彼の思念は、思いすごしだろうか、ほんの少し哀しみのようなものを含んで重かった。
「ごめんなさい。そろそろ終わりにした方がいいですね。ありがとうございました」
「そうじゃな。ああ、そうだ、『よろこびの季節』は近いぞ。明日か、あさってか。水の匂いがしてくるでな、わしにはわかる」
「ホントですか?!」
 退屈なこの日常がやっと終わるんだと思ったらわくわくしてくる。
「嬉しそうじゃな、若者よ。生きていることを存分に楽しむがよい。ボン・ボヤージ!」
「ボン・ボヤージ!」
 僕はティーチャーのコトバをオウム返しに繰り返して思念を切った。
 ボン・ボヤージ。
 一体どういう意味なんだろう、まあ、いっか。また出会えたら聞いてみよう。
 ◇
 ――リフ、ボン・ボヤージとは、良い旅を、という意味じゃよ。いずれ自分でわかる日が来るだろう。わしのようにな。もう何十年もわしに『よろこびの季節』は訪れてはいない。愛するパートナーはもうこの世にはいないのだろう。それを認めたくなくてティーチャーなどと名乗って生きながらえてきたが、そろそろわしの旅は終着駅に着くようだ。
 ◇
 ティーチャーから発信された最後の思念はあまりに微弱だったため、誰にも受信されなかった。
 そのあとそれは揮発し、虹色に輝きながら空へ昇っていった。その先には黒い雨雲が育っていた。
 激しい雨がふる季節はすぐそこへ来ている。




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このストーリーに関するコメント

14/04/16 そらの珊瑚

画像は「無料写真素材 花ざかりの森」さまよりお借りしました。

14/04/16 泡沫恋歌

珊瑚さん、拝読しました。

この砂の中の魚の話を読んで、何故か、レイ・ブラットベリの「火星年代記 」が
頭に浮かんできました。

珊瑚さんの作風が私の敬愛するSFファンタジーの巨匠と通じる、何かを感じたからです。

このお話は感想としては表現し難いのですが、間違いなく好きなお話です。
素晴らしいイマジネーションだと思いました。

14/04/16 鮎風 遊

なにか自分のような気がしました。
どっちって?
もちろんリフの方ですが、ちょっと厚かましいかな。
無理矢理、そういうことにしておきましょう。

旅、そうですね、旅ですね。
ボン・ボヤージが沁みました。

14/04/17 草愛やし美

そらの珊瑚様、拝読しました。

不思議なお話ですね、激しい雨が、『よろこびの季節』、とても素敵です。パートナーと出会い年に一度の逢瀬を謳歌する。そんな砂の魚達、高等生物なのかも……、あるいは、宇宙から飛来したものとか……、まだまだ、深海などには謎が一杯隠れていいるようですから。
リフがよいパートナーと出会えること、楽しみですね。命の誕生の不思議さを感じさせるお話でした、ありがとうございました。

14/04/17 朔良

そらの珊瑚さん、拝読いたしました。

雨季に湖ができた時だけ姿を現す魚の話、どこかで聞いたことがあった気がして、思わず検索してしまいました。レンソイス公園の魚…でしょうか? とても不思議で素敵な現象ですよね!

砂の中で眠ってる魚たち、本当にこうやってお話してそうです。一生に一度たった一人のパートナーに出会える季節はもうすぐ、リフが良いパートナーに出会えますように。
ロマンチックなお話、とても楽しかったです!

14/04/19 そらの珊瑚

恋歌さん、ありがとうございます。

おもいがけず巨匠に名前が挙げられ、通じる何か、などというもったいないお言葉をいただき、ただただ恐縮しております。
高校生の時、SFを読みあさっていたころその名前を知ったように記憶してます。
好きなお話といっていただき嬉しいです。

14/04/19 そらの珊瑚

鮎風さん、ありがとうございます。

ええ、もちろんリフですとも!
良き旅であるようお祈りしています。

14/04/19 そらの珊瑚

OHIMEさん、ありがとうございます。

人の思考はあまりにも複雑になり過ぎてしまったのかもしれません。
生きている、ただそれだけでそれ以上でもなく、普遍の幸せというものが
あるのかなあと思ったりします。

遅くなりましたが、再就職おめでとうございます!
環境が変われば新しい出会いもきっとあるかと思います。
ボン・ボヤージ!

14/04/19 そらの珊瑚

草藍さん、ありがとうございます。

実際泳ぐよりも海底の砂の中で生きる魚もいるようですし
新種の魚なんていうのも発見されないままたくさん生きていそうですよね。
宇宙からやってきた有機体が今地球上の生物の素となっているという説もあったりして。
そう考えると私たち人間ももとは宇宙人ということになっちゃいますね。

14/04/19 そらの珊瑚

朔良さん、ありがとうございます。

レンソイス公園の魚というのは全く存じ上げなくて、検索してみたら…とても不思議で美しいですね。教えていただきありがとうございました。

ロプノールの「さまよえる湖」というものに昔かた惹かれており、あまり意識してはいなかったものの、少なからず影響を受けていたかもしれません。
イルカなどは超音波で会話するというし、言葉を持たない生物は
人間にはわからない方法で心を通じ合わせているのではないかと思ったりします。

14/04/21 光石七

拝読しました。
タイトルにまず惹かれ、読み進めながら「この世界、いい!」と更に引き込まれ……
魚のお話だけど、とても大切なことを教えていただいたような……
散漫なコメントですみません。素敵なお話をありがとうございます。

14/04/21 そらの珊瑚

光石七さん、ありがとうございます。

散漫なコメントだなんてとんでもありません。
いつも読んでいただき大変励みとなっております。

14/05/06 ドーナツ

拝読しました。

わたしも、レイ・ブラッドベリの作風を感じました。
SFというと メタリックの金属臭を感じる作品が、最近は多いようですが、珊瑚さんの描くものは、ブラッドベリのやわらかさと人の心の優しさがあります。

洒落たカフェで コーヒー飲んでる昼下がりって感じです。

そういう雰囲気に浸らせてもらえます。
また、わけわかんないコメントになっちゃってますが、
一言でいうと、「ああ、いいなぁ」 です。

14/05/09 黒糖ロール

そらの珊瑚さん

拝読しました。
こういう雰囲気の作品、いいですね。
独特の世界観が素敵です。

14/05/19 そらの珊瑚

ドーナツさん、ありがとうございます。

私もSFの世界は好きですが、どんなに未来の設定だとしても
人間がちゃんと描かれているのがいいですね。
ああ、いいなあは最上級のお褒めのお言葉でした!

14/05/19 そらの珊瑚

黒糖ロールさん、ありがとうございます。

自分の頭のなかにだけ生息する世界とでも申しましょうか。
それを言葉で具現化していく作業はとても楽しいものでした♪

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