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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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息づまる予感

14/04/13 コンテスト(テーマ):第五十五回 時空モノガタリ文学賞【 予感 】 コメント:12件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1662

時空モノガタリからの選評

「予感」というテーマにふさわしい作品ですね。不条理な予感にひきよせられるように交番に集まった四人の、奇妙で緊張感あふれる関係性がユニークでとてもよくできているなと思いました。それに交番という場所が効果的に使われていますね。こうまでこの話にぴったりした舞台は他にないのではないでしょうか。2人の男女の関係に田中巡査らが加わっていく展開には、笑ってしまいました。彼らは一体どうなってしまうのでしょうか?一斉に攻撃するのか、順番にやるのか‥…? 想像力をかき立てられる印象的な終わり方がとても良いですね。

時空モノガタリK

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 交番のガラス扉をなんども叩く音に、田中巡査は机から顔をあげた。
 外には、青ざめた顔の若い女性が立っている。首に巻いたベージュのマフラーがふつりあいなまでに幅広くみえた。
 田中巡査は、いぶかしげに椅子からたちあがると、女性が入ってくるのをまった。
 が、なぜか彼女は、まるで入り口の開け方を忘れでもしたかのようにいつまでも、ガラス扉に手をかけたまま、動きだしそうにない。
 二人の巡査は警邏に出ている。田中巡査は扉にちかよるとそれを、そっと開けてやった。
「どうかしましたか?」
 女性は、その目を可能なかぎり見開いて、じっと巡査を見つめた。
「あのう、私………」
「どうぞ、おっしゃってください」
 ちらと田中巡査は壁の時計に目をやった。もうじき警邏をおえて巡査がもどってきたら、こんどはじぶんが警邏にでる番だった。
「あの、私、いつかある男におそわれるような気がしてならないのです」
「その男というのは、あなたをつけねらう、ストーカーかなにかですか?」
「さあ、それは………」
「はあ?」
「まだいちども顔をあわせたことはないのですが、あわせるようなことになれば、必ずおそわれて殺されるような予感に胸が騒いでならないのです」
「するとまだなにも、あなたは被害にあっていないのですね」
 その田中巡査の言葉はすでに予期していたものとみえて彼女は、マフラーに顔をうずめるように力なくうなだれてしまった。
 そのとき、ふたたびガラス扉がひらいた。
 はいってきた男の顔を、ひとめ見るなり女性は、ちいさな悲鳴をあげると同時に、彼にむかって指をつきさしたものの、唇ははげしくふるえて声にならなかった。
 そういう彼女を、男もまた突き刺すかとおもえるまでのするどいまなざしで見つめている。
「なにか、用ですか?」
 田中巡査が水をむけると、男は興奮気味のじぶんをしずめようとでもするかのように、肩でひとつ大きく息をした。
「ぼくは、もうどうしょうもなくなって、やってきました。はい、その理由を説明します。あの、ですね、ぼくはいつかこの手で、ある女性を殺してしまう予感が、つねづねおこるのです。ふりはらっても、ふりはらっても、それを心の中から消しさることはできません。もうとてもたえられなくなって、ここにやってきました。お願いです、犯罪をおかすまえにどうか、ぼくを逮捕してください」
「―――あなたのそれも、予感ですか。で、そのあなたが殺すといっている相手は、もしかして、まだわからないのではないですか?」
「よくわかりましたね、おまわりさん。たしかに、ここにくるまではわからなかったのですが、たったいま、このひとを見て、わかりました」
「といいますと―――」
「そうです、ぼくが殺そうとしている相手は、このひとです」
 田中巡査が、もしやといった顔で男からマフラーの女性に視線を転じると、彼女はそれをまっていたかのように、うなずいた。
「お察しのとおりですわ。私も、この方をみてわかりました。私をおそう相手というのは、この男の方です。いま、たしかにそんな予感がしました」
 殺される予感を抱いた女性と、その女性を殺す予感を抱いた男性は、たがいに複雑な表情をみかわした。
「やっぱり、予感だけじゃ、どうにもならないのでしょうか」
 そういったのは、男のほうだった。
「じっさいに殺人がおこらないかぎり、警察は動いてくれないのですか」
 男よりもつよい調子で女性がいった。
 二人は、いつまでも口をとざしている巡査のほうに視線をむけた。
 田中巡査は、額から脂汗がながれるのを意識した。
 彼の手は、拳銃のはいったホルスターの上にかかっていて、さっきからその指が黒皮の上を神経質そうにひっかいている。
 田中巡査は、つねづね予感していた。
 いつかじぶんが、このまちにすむ市民を射殺するのではないかという予感を。そして交番で鉢合わせした男女をみたとき、その予感の市民というのがこの二人だと彼は直感したのだった。
 そのとき交番のおもてでブレーキの音がひびいた。巡査がひとり、警邏からもどってきたらしかった。
「たただいまもどりました」
 外からはいってきた巡査は、交番内にはりつめた、異常に緊張した空気にふれて、ぎょっと目をみはった。
 むかいあって立つ若い二人の男女、机のむこうで、顔をこわばらせながら立ちつくす田中巡査―――。
 警邏からもどってきた巡査はつねづね、いつかじぶんが、交番内で銃を乱射するのではないかという予感におびえていた。交番内にいあわせた同僚の警官と、たまたまいあわせた市民たちにむかって銃を撃ちまくる不吉な予感が、じつはここにもどってくるときにもしていたのだ。
 せまい交番の中で四人は、これからなにかがおこるという息づまるような予感に、無言のままたちつくした。


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このストーリーに関するコメント

14/04/13 さたけの

拝読させていただきました。

物騒な予感がそれぞれにあって、最後の巡査の予感に笑ってしまいました。
この交番でこれから起こることが、気になります!

14/04/13 W・アーム・スープレックス

さたけのさん、はじめまして。

殺伐とした内容にもかかわらず、笑っていただいて私もうれしいです。このようなショートショートの裏には、笑いがないと救いがありませんものね。

コメントありがとうございました。

14/04/17 朔良

W・アーム・スープレックスさん、拝読いたしました。
わわわ、結局誰の予感があたってしまうのでしょうか。
どの予感があたったとしても惨劇が^^; 息が詰まってしまいます。
予感の連鎖ってすごいですね、おもしろかったです。

14/04/17 W・アーム・スープレックス

朔良さん、コメントありがとうございます。

全員の予感がはずれて、これも縁だとばかり仲良くなって、みんな大の親友になったなんてことになったら、それはそれで面白いかなと勝手なことを考えています。
読んでいただいてありがとうございました。

14/04/18 クナリ

盛られて重なる予感たち、最後に何が起こって話が閉まるのだろう、と思っていたら、最後にさらに盛られて終わりとは!
あまりアクションは無いはずなのに、舞台上の演劇を見ているように登場人物が生き生きとしていて面白かったです。

14/04/18 W・アーム・スープレックス

私も含めて現代人にとって予感は、なにがおこるかわからないこの時代においては、スマホのように持っていなくては不安になるようなものかも知れませんね。
読んでいただいてありがとうございました。

14/04/19 W・アーム・スープレックス


そのOHIMEさんの予感は見事はずれるのではという予感に、おびえています。
まあしかし、あくまで独自路線をつっぱしる私ですので、あたりはずれは大きいでしょうがそのうち一発、どかんと花火がうちあがるそのときを、よかったら気長にお待ちください。
読んでいただいてありがとうございました。

14/04/22 草愛やし美

W・アーム・スープレックス様、拝読しました。

一触即発!! 文句なしに「予感」そのものですね。これから何が起こるのか、読者もハラハラする予感がしてきました。
面白かったです、さすが、スープレックスさん、視点が最後までずれないで、続いていき、わくわく感満載で楽しめました、ありがとうございました。

14/04/22 W・アーム・スープレックス

草藍さん、コメントありがとうございます。

予感ははたして当たるのかはずれるのか、本当のところはよくわかりませんが、八卦とおなじでいい予感は当たり、悪い予感ははずれてくれたら、ハッピーなのですが。
読んでいただいてありがとうございました。

14/05/03 光石七

拝読しました。
このヤバイ予感の連鎖、結末はいかに?
惨事になりかねない緊迫した状況なのに、何故かおかしくて笑ってしまいます。
面白かったです。

14/05/04 W・アーム・スープレックス

光石七さん、コメントありがとうございます。

光石七さんからコメントをいただくといつも、なにかいいことがおこるような予感がするのですが、今回ははたしてどうですか―――。

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