1. トップページ
  2. 泣かない子ども/泣きたい俺

浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。

性別 男性
将来の夢  
座右の銘  

投稿済みの作品

0

泣かない子ども/泣きたい俺

14/04/08 コンテスト(テーマ):第五十四回 時空モノガタリ文学賞【 激しい雨がふる 】 コメント:2件 浅月庵 閲覧数:941

この作品を評価する


 子どもは泣くのが仕事だっていうのに、うちの子どもは産まれる時もしゅぽんっ!からの、けろっとした表情で泣かなかったし、五歳の誕生日を迎える今日まで一度も涙を流していない。常に笑っているのだ。
 まぁ、笑顔でいる分には、夜泣きもしなかったし駄々こねて騒がないので有り難いのだけど、先のことを考えるとやはり不安だ。旦那とも、どうしようか、今は困ってないけど困ってるんだよなーって感じで苦笑い。

**
 気持ち良いほどの晴天は俺に尋常じゃないほどの勇気を与えてくれる。髪型もワックスで整えたし、鼻毛も切った。服装もチェックのシャツにジーパンで、俺の持っている服の堂々一軍メンバーだ。靴下だって穴も開いてないし、見えないところまで気を遣っている。完璧だ。

***
 十八丁目のカミさんところのガキんちょ、今まで一回も泣いたことないらしいぞ、なんて噂はあっという間に広がる。
「やっぱりさ、五年間一回も泣いたことないっていうのは心配だよな」と四丁目の旦那が言う。「ほっときゃその内泣くって。考え過ぎだっつーの」険しい顔の独身四十五丁目。
 どうしたらこの子は泣くのだろう、大勢に囲まれても物怖じすることなく笑って走り回る我が子は大物というかなんというか......。

****
 「俺にとって君は、ずっと高嶺の花でした! 告白してもどうせ無理だろうと、そう思ってました」俺は息を深く吸い込む。「......でも、どうしても気持ちを抑え込むことができません。好きです。付き合ってください!!」俺は右手を前方に差し出す。「私もずっと好きでした。お願いします」そう言って俺たち二人は抱き合う、甘い口づけ、ハッピーエンド。
 完璧だ、完璧すぎる。何度シュミレーションしても行き着く先は同じだ。これはマジでいけるぞ、亜美谷さんと付き合えるぞ、なんて自分の部屋の中央でくるくる回る。天気まで俺に味方してくれているんだ、絶対いける。待ち合わせの時刻まであと三十分だ。

*****
「いないいない......ばあ〜!」なんてやっても勿論うちの子は泣かないし、むしろ笑っている。
「二丁目。それじゃあ泣くはずないだろ」「なんだよ、じゃあお前がやってみろよ」「よーし、わかった」そう言って十二丁目が二丁目と同じように顔を掌で隠し、徐々に我が子に近づいていく。
「それじゃあ、俺と同じじゃんかよ」と二丁目。
「いなーいいなーい」「......」「パルメザンチーズ!!」そう言って十二丁目がパスタにチーズをかけるジェスチャーをするので、周りのブーイングがより一層強化されるし、肝心の我が子は笑いも泣きもせず無表情。意味分かんないって感じで。てか、それってどっちかというとギャグだろう。
 そんな騒ぎを聞きつけてか、次から次へと他の人たちが押し寄せて来て、俺が、私が泣かせるなんて挑戦したがるもんだから、沸々と私の中で怒りが込み上げて来る。
 あーでもないこーでもないとみんな好き勝手にやり出して、その雑さで怒りがボルテージマックスになった瞬間に、私は我を忘れて叫んでいた。
「お前らいい加減にしろ!!」完全にぶち切れた。「私の子どもをなぁ、おもちゃにしてんじゃねぇよ、そんなつまんないことばっかやってなぁ、うちの子が泣くわけねぇだろ!!」
 周りが静寂に包まれる。寄って集って我が子を囲んでいた人々が、徐々に離れて行く。完全にドン引き。
 興奮の収まらない私と、我が子の目が合う。我が子は私の顔を見ると、どんどんと顔色が変わっていく。
「お母さん、鬼みたい! びぇぇーーーーーーーん!!」
「え? ミイちゃん、なんて言った? お、鬼?」私は我が子のその言葉に拍子抜けしてしまう。
「君があまりにも怖い顔してみんなに怒鳴るから泣いちゃったよ」旦那が私の肩に手を置く。私のせいで、泣いた?
 我が子の目からは尋常じゃないくらいの涙が滝のように流れ、地上へ降り注ぐ。これでこの子も我ら天気の神様の仲間入りだ、なんてみんな大喜びだけど、私はなんとも複雑な気持ち。私が、鬼みたい?

******
 ちょっと待ってよ! なんでさっきまでめっちゃ晴れてたのに、急にどしゃ降りになるんだよ!! 俺は赤ん坊の大泣きみたいな激しい雨を窓から眺めている。携帯を開くと『雨あまりにもすごいから、また今度にしない?』と亜美谷さんからのメール。
 ふざけんなよ、今日だったら、今日だったら上手くいきそうな気がしてたのに、なんで、なんでだよ。
 ことわざで男心と秋の空って言葉もあるし、俺の心は移り気で、明日になったらきっと告白する度胸も萎んで駄目駄目になってるんだろうな。今日だったら空も飛べそうなほど無敵で絶対的な自信があったというのに。
 ん? なになに? あ、男心じゃなくて女心か、失敬。じゃあ俺、関係ないや。
 あー、マジ泣きそう。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

14/04/14 gokui

 読ませていただきました。
 二つの全く違った物語が、最後には関連性を持つというアイデアはいいですね。天気の神様、ちょっとは下界のことも考えて雨降らせてくださいね。

ログイン
アドセンス