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つばきさん

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昼食戦争

12/06/08 コンテスト(テーマ):第六回 時空モノガタリ文学賞【 週末に。とんかつ伊勢 新宿NSビル店のモノガタリ 】 コメント:0件 つばき 閲覧数:1830

時空モノガタリからの選評

最終選考

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 「とんかつはキャベツがメインだ」と言い放つAを無視して、Bはとんかつにたっぷりをソースをかけた。Aはきれいに細く切ってあるキャベツを箸で持ち上げる。
「とんかつ伊勢のキャベツはほら、ニンジンも混じってる。お前には分からないだろう」
「何が?」
「気づかいだよ」

 Aはメインものを侮辱する癖がある。
 サブが本当のメインだ。サブが引きたてるからメインが生きるのだといつも言う。
「だいたいキャベツって土から植物として生えてきて、うまく包みこむように層をなして丸くなってさ・・・完璧な野菜なんだ。しかもそれを細く切っただけでこんなにも美味しい」
 BはAを無視してとんかつを口に入れた。
 ソースを含んだのに歯触りがいいままの衣が音を立てBの口に入ったとき、Aは負けじとキャベツを食べてみずみずしさを放つ。
 Bはそれでもとんかつを食べている自分の口の方が勝っていると余裕の表情。
 ふたりはいつも並んで座っているのに相入れようとしない。
「美術館の絵ってどうして素晴らしいと思えるのか分かるか?」
「歴史があるからじゃないの」
「でも急に1枚の絵を出されたとき、それに価値があるのかなんてお前に判別できるか?」
「だいたい分かるだろ」
 Aはキャベツをついに食べ切るとやっと味噌汁に手を伸ばし、猫舌なのか恐る恐るすすった。BはAの冷めていくとんかつを悲しく思いながら、同じく味噌汁をすすりはじめる。
 店にはたくさんの人がいるのに、ふたりは完食という同じゴールに向けて正反対の方向から走り出し、今、交わっている。

「いい絵っていうのはな、額がちがうんだよ。どんな額に入れられているかで絵の価値は決まる」
「いい絵だからいい額に入れられるんだよ。いいとんかつでないと、いいキャベツなんて付かないね」
「お前はそんなキャベツを残す人間だ」
「残さない。そりゃ腹がいっぱいになったときは残すさ。俺は基本全部食うよ。出されたものすべてをバランスよく食べて、やっと完璧な昼食だ」
 サラリーマンの昼休みは早い。ふたりはいつもそれにいらだっている。
 箸を動かしながら口を動かして時計を気にして・・・その毎日のこだわりが人に伝わらないなんて、人格を否定されたような気分にさえなる。でもふたりはいつも一緒に昼食をとらなければいけない。
「ありがとうございましたー」
 AとBはほぼ同時に席を立つと同じスピードで店を出た。
 この戦争に勝敗はない。


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