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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

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太陽が眩しかったから。

14/03/26 コンテスト(テーマ):第五十三回 時空モノガタリ文学賞【 太陽のせい 】 コメント:19件 そらの珊瑚 閲覧数:1535

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 こんな風にブランコに乗るなんて何年ぶりだろう。やる気なくこげばブランコだってやる気は出ない。子供の頃はもっと激しくこいで、えいっとはずみをつけて飛び降りるのがたまらなく好きだった。
 ふわり。空中で静止したような感覚。重力から解き放たれる一瞬。今でもその感覚が蘇ってくるようだ。昨晩の雨が小さな水たまりをブランコの下に作っている。私は水に足を取られないように慎重にブランコをこぎ続けた。
 太陽が眩しい。この光は水たまりさえいつか蒸発させ影も形もなくしてしまうのだろう。例えば愛だと思っていてもそんなもの幻だったというように。
 平日の夕暮れにこんな風にぼんやりとブランコに乗る大人ってどう思われるのかな。不似合には違いない。あそこで遊んでいる小学低学年とおぼしき子供達に話しかけたら不審者扱いされそうだ。
 あ、これ懐かしい。『かごめ、かごめ』だ。手をつないで円を作りその中に鬼になった子が入ってしゃがむ。自分の手で目隠しし歌が終わるのをじっと待つ遊び。
  かごめかごめ かごのなかのとりはいついつでやる
  よあけのばんにつるとかめがすべった うしろのしょうめん だーあれ
――円の動きが止まった。
「××ちゃん!」鬼は友達の名前を呼ぶ。ちょうど後ろにきた子が××ちゃんであれば鬼は交代される。しばらく子供達が繰り返すその風景を眺めていた。するとある事に気づく。全部で八人の子供の中で唯一人だけ名前を呼ばれない。その子が後ろにくることはなかった。なぜだろう。鬼になりたくなくて微妙にズルをしているのかもしれない。
 けれど永遠に名前を呼ばれないというのもそれはそれでつまらないものではないだろうか。ある種この遊びでは鬼が主役であるのだから。

 結局私は主役にはなれなかった。あの人は別の子を選んだ。朝帰りをしたあの人は唐突に別れてくれと私に言った。
 窓から降り注ぐ太陽の光が目に突き刺さって痛い。まるで毒針だ。ああ、太陽の毒がまわる。
 ――太陽が眩しかったから。
 あの人の好きな「異邦人」という小説の一節が浮かんできた。そんな理由で殺人を冒してしまう主人公の気持ちがなぜだかわかる気がした。アパート代、食費、スマホ料金に至るまでもう何年もあの人に乞われるままその手のひらにお札を置いてきた私。「悪いね。いつか作家になったら倍にして返すからさ」それが実行されることは一度としてなかったけれどあの人に求められることが愛だと思いこんでいた。
 いつかあの人が私のことを『なっちゃん!』と呼んで主役に選んでくれるのを待っていたのに。待っていたのに。待っていたのに。――もう待てなかった。あの人のせいじゃない、太陽のせいよ!

 公園のスピーカーから懐かしいメロディが流れ始め、それを合図に小学生たちが帰り始める。「バイバイ」三々五々入り口から出ていく。さあ私も帰ろうか? でもどこに帰ったらいいのだろう? 
 夕闇が一気に公園に流れ込む。
 隣のブランコが揺れる気配。お下げ髪の女の子がブランコに乗っていた。ああ、さっき「かごめ かごめ」で遊んでいた子だ。しかも一度も名前を呼ばれなかった子じゃないか。女の子は私の視線に気づき、にっと白い歯を見せて笑った。
「おねえちゃん、帰らないの? 迷子になっちゃったの?」
 どぎまぎした。そう、私は迷子になってしまったのかもしれない。もうあのアパートには帰れない。だって、だって……。
 私は手についた血の跡を見た。もうだいぶ乾いて黒く変色している。あはは、スカートに飛び散った血が水玉模様みたいだ。あの人の背中に私が刺した包丁の血も今頃こんな風に乾いているだろうか。

 女の子はそれから猛烈な勢いでブランコをこぎ始める。「ちょっ、ちょっと、あぶないよ……」あっという間にブランコから手を放すと、放物線を描いて水たまりに落ち、そのまま沈んでいく。
「あ、あ、あ……」私はなすすべもなくそれを見ていた。とうとう顔だけになった女の子は「なっちゃん!」と私の名前を呼び、最後は高く挙げた右手だけが残り小さくゆれた。手をふっているのか。それともおいでおいでと呼んでいるのだろうか。
 私はおそるおそるその水たまりを覗き込む。女の子を飲み込んだ水面は泡立っていた。血を洗おうと思い立ち私は水に手を浸す。
 すると突然小さな手が水の中から現れて蛇が鎌首を持ち上げるような恰好になった。ばしっ。手首を掴まれる。一分の隙もないほどの強い力に抗うこともできず私は水たまりの中に引きこまれていった。
「うしろのしょうめん、だーあれ」どこかで誰かの歌う声がする。そうか、ここは鬼の棲む場所なんだね。私も今日からここに棲もうっと。

 翌日早朝、公園の水たまりで女の溺死体が発見された。警察は女の内縁の男がアパートで殺されていた事件との関連性を調べているという。


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このストーリーに関するコメント

14/03/26 そらの珊瑚

画像は「ソザイニング」様よりお借りしました。

14/03/26 ナポレオン

拝読させていただきました。
夕暮れの公園で主人公が感じる空虚な感じがありありと想像できました。
異邦人からの引用が主人公の理不尽な悲しみを際立たせていますね。

14/03/26 そらの珊瑚

作中にわらべうた「かごめかごめ」の歌詞とカミュ作の「異邦人」の内容を引用しています。

ナポレオンさん、ありがとうございます。
「太陽のせい」というテーマで浮かんだ小説「異邦人」の内容と
無理矢理くっつけてしまいましたが、空虚さを感じていただけて良かったです。
太陽という装置は時に強力過ぎて何かを狂わせてしまうエネルギーがあるような気がします。

14/03/27 笹峰霧子

公園の中で見た光景から始まって、次々と展開される出来事がうまくまとまっていて、しかも最後に読者を唖然とさせる締め、巧いなぁ。

14/03/27 朔良

そらの珊瑚さん、こんにちは。
拝読いたしたしました。

太陽のせいというお題で、私が最初に思い浮かべたのは、やはりカミュの異邦人でした。
見事に題材に取り込まれていて、さすが珊瑚さんと唸らされます。
女の子に引き込まれてしまうあたりではぞっとしました。
面白かったです!

14/03/27 泡沫恋歌

そらの珊瑚さん、拝読しました。

ブランコをこいでる大人が、まさか、こんなオチになろうとは!?

カミュの異邦人は学生時代にカフカの変身と共に読んだ気がしますが、
何故か、全然内容を覚えていない。
シュールな作品というのは脈絡がないので、案外記憶に残りませんね。

水たまりで溺死体というのは不気味で印象的でした。

14/03/28 草愛やし美

そらの珊瑚様、拝読しました。

彼女は幸せだったのか、それとも……。後悔なんかしていないはず、ですよね。だって、強行は太陽のせいなんですから。
読み終わって、怖いというより、切なく悲しい生き方をしてしまった彼女の想いに囚われてしまいました。同じ女ですから、痛みも少しわかる気がしています。きっと、この選択でよかったのではないかと思います。名前を呼ばれなかった女の子とは、ある意味、主人公になれなかった私自身でもあるのかなと思います。同一ではないが?同じような者が、その者を呼び、この結果だったとすれば、彼女の選択かと思いました。

悲しい彼女の気持ちが痛々しいですね、きっと太陽はその日、眩しかったのでしょうね。

14/03/31 鮎風 遊

いいミステリーですね。
被害者側の心理描写がよかったです。

水たまりで溺死、その意外性が面白かったです。
Thnks.

14/04/07 光石七

拝読しました。
タイトルから「カミュの『異邦人』?」と察しましたが、かごめかごめと相まってじわじわと怖さと悲しさが湧いてきました。
ラストにもやられました。
とにかくお見事!
面白いお話をありがとうございます。

14/04/10 ドーナツ

珊瑚さんの作品で、印象に残った場面 たくさんありますが、本作のラストもその一つです。

かごめかごめの歌も、不可思議な歌ですが、今回のお話とかごめのうた、よくあってると思います。

女の子がブランコこぐとこからラストまで、きゃぁーーー!の怖さじゃなくて、舌のほうからズーンと来る不気味さ感じます。

14/04/11 そらの珊瑚

笹峰霧子さん、ありがとうございます。

最後に唖然としていただいたとしたら、作者冥利に尽きます。

14/04/11 そらの珊瑚

朔良さん、ありがとうございます。

朔良さんもそうでしたか!
もうおぼろげながらしかというか、ほとんど細かいストーリーを忘れていますが、
読解力の乏しかった私にはなんだかわけがわからない小説だったなあと記憶しています。(今読んだらまた違った感想も持てるのかもしれませんが。)
同じようにシュールなかんじを自分なりに出せればいいなあと書いてみました。

14/04/11 そらの珊瑚

恋歌さん、ありがとうございます。

そうそう、シュールでしたよね。異邦人にどこか憧れながらも、
人は本当の意味で異邦人になれないのではないか、なったところでそれが幸せなのか、みたいな。
人は洗面器に張った水でも溺死するそうで…うっかりそうならないよう気をつけます。

14/04/11 そらの珊瑚

草藍さん、ありがとうございます。

女の子は主人公が作り出してしまったもうひとりの自分か、
幻影のようなものかもと思わないでもありません。
罪の意識から悲劇的な結末を選んだのかもしれませんね。
少しづつ壊れていった先は、鬼。
わらべうたの歌詞は想像するとちょっと怖いものが多いように感じます。
(子供のころは意味もなく無邪気に唄ってましたけど)

14/04/11 そらの珊瑚

鮎風さん、ありがとうございます。

大人が酔っ払って水たまりで水死、というのは実際でもありそうな気がして怖いです。
発見されたときは既に水は乾いていて、なぜここで水死なのか、警察が頭をひねるとか、ミステリーに使えませんか?(笑い)

14/04/11 そらの珊瑚

OHIMEさん、ありがとうございます。

そうですか、いい意味で印象を裏切ることが出来たと喜んでます。
愛とは一歩間違うと怖しいものです。
彼女は愛によって心が壊れてしまったか、人生に疲れてしまったのか、
すすんで鬼になってしまった悲哀を感じていただけたら何よりです。
濁った水たまりというものは底が見えなくて妙に怖かったりします。

14/04/11 そらの珊瑚

光石七さん、ありがとうございます。

かごめかごめの「うしろの正面だあれ」
夜中に聞くと怖くてトイレにいけなくなりそうじゃないですか?
面白さを感じていただけて嬉しかったです。

14/04/11 そらの珊瑚

ドーナツさん、ありがとうございます。

「舌にずーんとくる不気味さ」ですか?
いやいやそれは口がめっちゃ乾きそうではないですか(笑い)

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