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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

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9

きつねのよめいり

14/03/22 コンテスト(テーマ):第三回OC 【 廃 】  コメント:17件 そらの珊瑚 閲覧数:1610

時空モノガタリからの選評

「詩的な導入から始まる本作。戦争、死別と重量感のある展開がなされるにも関わらず、読後に残ったのはポカポカとした日光のような温かみでした。思わず鳥肌が立つような言葉の数々が物語へと深く没入させ、淡い色彩の光景が震えるほど豊かに鮮やかに浮かび上がりました。一つの人生、世界が濃く、それでいて押し売り的でなく凝縮されていたと思います。
老境の域に達した主人公が見る、廃墟と化した故郷と亡くなった遠い幼馴染。人間にとって故郷とはなにか? さまざまに考えさせられる一作だと感じました。」

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 川伝いに伸びる、でこぼこ道の向こうから
「菜の花がきれいね」
 と言い懐かしい人が光をまとってやってきた。
 クリスタル製の呼び鈴に似た、高く澄んだ鳥の声が真っ青な空いっぱいに響いている。

「あなた、ずいぶんともう大人になったのね、見違えたわ」
 と彼女は私を少しまぶしそうに見て笑った。
「大人も大人。まさかこんなおばあちゃんになるなんて、あの頃は想像もしなかったわ」
 目の前にいる涼しい目元をした少女のことを見ていたら、ようやく名前を思い出した。

 ――さくらちゃん。私の幼馴染であった。

 これはきっと夢なのね。だって死んだ人は雛人形のように永遠に年をとらないっていうじゃない?


 二国峠にさしかかる頃にふいの天気雨。空の青さは変わらないというのに。
 小さな社があったので、軒先を借りて雨宿りをする。
 人づたいに聞いた鳳神社の大銀杏に昨年雷が落ちたらしいって話をすると
「ええ、覚えてるわ! 学校帰りによく遊んだわね。じゃあ、あの樹のうろに一緒に隠した宝物も燃えてしまったのかしら」
 と小首をかしげて少し残念そうに言った。
「運が悪いということはそういうことなのよ。狙い定めて天から落ちてくるの。罰当たりって言われそうで今まで誰にも話したことはないけど……実は神様なんか大嫌いだったの」
 と言う。のぞきこんだ彼女の瞳の奥は押し寄せてきた水で今にも決壊しそうだった。
 ◇
 彼女はあの日の大空襲で命を落とした。私は運良く、といおうか、鳳神社の境内にたどりつき生き延びたが、途中はぐれた母と妹とはそれきり会うことは叶わなかった。
 少し高台にあった鳳神社から見下ろせば、あたり一面黒焦げの焼け野原が広がっていた。
 火は家という家を喰い尽くし、あちこちでくすぶりながら瓦礫の間から煙となって立ち上っている。
 生まれ育った自分の家がどこにあったのかもわからない。しばらくはそこで途方にくれて泣き暮らした。
 まさに廃墟と化した街で、私は戦争孤児となった。
 しばらくして戦争が終わった。。
 それからの日々は空腹との戦いだった。ヤミ屋の屋台から食べ物を盗んだこともある。同じような身の上の子供たちと一緒に駅の通路で靴磨きをして金をかせぐことも覚えた。
そのうち大人がやってきて『ヨウシエングミ』しないかと言う。それをすれば幸せになれるんだと。新しい家族、家を手に入れ、空腹とおさらばだよと言う。
 私はうなずいた。アメリカ人と養子縁組をした私は新しい国籍も手に入れ、アメリカへ渡った。
 
 幸せになれたのかって? アイドンノウ。正直よくわからないわ。学校ではジャップと虐められ何度泣いたかわからないけど、成長して結婚して子供にも恵まれ……振り返れば悪いことと同じくらいのいいこともあったように思うね。
 人生の黄昏に思い出すのは、不思議よ、あの廃墟になった故郷なのよ。
 廃墟のむこうで母が、妹が、戦死した父が笑っている。

 あれ以来日本には帰っていないわ。
 ◇
 雨が小降りになると
「それではお先に、また会いましょう」
 と言って彼女は出ていく。
「どこへゆくの?」
 と問いかければ
「ぼんぼり町まで。そこできつねと祝言をあげるの」
 と明るい調子で手をふったあと彼女は消えた。
 あとに残されたのは白い煙。
「そうね、命はあとかたもなく燃えてしまうものだったわね」
 
 さて私はどこへゆけばいいのだろう。
 宝物の中身は何だったのだろう。
 尋ねる人はもはや旅立ってしまったし、胸に手を当ててみても思い出せない。
 もやが晴れるまで私はましろな足袋をはいたまま旧暦の春のすきまで、のびた自分の影をみつめ、小さな迷子にでもなった気分でいた。
 ◇
 目が覚めるとベッド脇の窓のむこうに咲き始めたばかりの桜が見える。
 ここカリフォルニアの地に戦後日本から移植されたソメイヨシノだときく。真っ青なあの空は日本へ、もしかしたらあの廃墟へもつながっているのだろうか?
 介護施設の午後はああ、とても静か。


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このストーリーに関するコメント

14/03/22 そらの珊瑚

画像は「ソザイニング」様よりお借りしました。

14/03/22 リードマン

拝読しました!
人生の終わりに、果たして自らは幸せだったのかと振り返った時、胸を張れるというのなら、それはなんて満ち足りた人生なんでしょうね。
なんて事を、ふと考えさせられました。

14/03/23 泡沫恋歌

そらの珊瑚 様、拝読しました。

主人公の波乱にみちた人生ですが、
「振り返れば悪いことと同じくらいのいいこともあったように思うね」

この一文が深いですね。

よく言われますが、長く生きれば幸せと不幸は半分づつになるそうです。
静かな、主人公の老後、故郷や亡くなった人たちへの思いが募るのでしょうか?
とても文学的で「きつねのよめいり」不思議な物語でした。

14/03/23 かめかめ

「そうね、命はあとかたもなく燃えてしまうものだったわね」
廃墟の中で知ったことなんでしょうね。美しいけれど哀しい言葉ですね。

14/03/24 草愛やし美

そらの珊瑚様、拝読しました。

年を取ると思い出すのは、昔のことだと思います。嫌なことも良いことも、懐かしいばかりになります。なぜか、新しいことは少しも馴染めなくて、教えて貰ってもすぐに忘れてしまう、そういうものなのかもしれませんね。
彼女が昔の友達に出会えたことは、良かったのだと思います。神様なんて大嫌いだったの……とても切なく悲しいですが、彼女にとっては、そう思うしかない生き様だったのでしょう。
今朝、ちょうど、NHKの朝の連続ドラマで、アメリカ人に養子縁組される子供さんの映像がありました。いいことがあると信じて、言葉のわからない未知の世界へ行った戦争孤児も多くいたと思います。飢餓で死んでしまったかもしれないし、もしかしたら、とんでもない犯罪者になっていたかもしれないし、……そう考えれば、この主人公の人生は善? 捨てざるしかなかった──きっとそんなことしたくなかったけれど、廃墟の故郷で生き続けるよりはましだったと思いたいですね。

14/03/24 タック

そらの珊瑚さん、ご投稿ありがとうございます。拝読いたしました。

人生の終焉を迎えたとき、思い出すのが廃墟になった故郷、というのが物悲しく、淋しさのなかにどこか言い知れぬ温かみのようなものがありました。
老成した主人公にとって、荒廃した故郷、破壊された日本というのはいかなる感情を覚えるものなのでしょうか? 祖国を離れても、人間は祖国のことを思うものなのでしょうか? まだ遠いと考えていた老後が、少しだけ近く感じました。

14/03/25 鮎風 遊

確かに、悪いことと同じくらいのいいこと。
アメリカへと渡っても、そういうものかなと思いました。

老えば、戻る所は幼い日々。
今は静かで良かったかな。

14/03/25 朔良

そらの珊瑚さん、こんにちは^−
拝読しました。

人生の終盤に思い出す記憶。
小さいころの記憶というものは、いつまでも鮮やかに思い出せるような気がします。
廃墟と桜のイメージがとても美しく、廃がテーマであっても光を感じる作品でした。

14/03/26 そらの珊瑚

リードマンさん、ありがとうございます。

終わりよければすべてよし、ともいいますから
最後に胸を晴れる人生はきっと幸せなのでしょう。

14/03/26 そらの珊瑚

恋歌さん、ありがとうございます。

年ととると昔のことばかり思い出されるっていいますしね。
私なんかも新しいことは次々と忘れていくのに、
昔のしょうもないことなどを覚えていたりします。

14/03/26 そらの珊瑚

かめかめさん、ありがとうございます。

その言葉に着目していただき、嬉しかったです。

14/03/26 そらの珊瑚

草藍さん、ありがとうございます。

そうですね、今日の自分の選択が一番いい明日を作ると思いたいですね。
あのときもしああしなければ、と振り返ってみても
時間というものは取り戻せないですし。

14/03/26 そらの珊瑚

タックさん、ありがとうございます。

オーナーコンテストお疲れ様です。
微力ながら「廃」のコンテストを少しでも盛り上げていければと思い
参加させていただきました。
ふるさとは遠きにありて思うもの、といいますから、
遠ければ遠いほど望郷の念は強くなるものなのかもしれません。

14/03/26 そらの珊瑚

鮎風さん、ありがとうございます。

自分をふりかえると、いつのまにか悪いことは忘れてますね。
いいことのほうを覚えていたいと思います。

14/03/26 そらの珊瑚

朔良さん、ありがとうございます。

ちょうどこれから咲く桜の花を思いながら書きました。
光を感じていただけて嬉しかったです。

14/04/11 そらの珊瑚

OHIMEさん、ありがとうございます。

OHIMEさんにそういっていただけて、とっても嬉しいです。
たとえ苦しい思い出があったとしても、長い人生の果てに思い出すのは
ふるさとで、そうやって子供に還っていくのかもしれませんね。
帰省するたびに変わってしまったふるさとを歩いたりしても、
昔の街並はしっかり覚えていたりします。

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