gokuiさん

いい年して小説家を目指しているおっさんです。 様々なジャンルの小説を書いていますが、どのジャンルでも自分らしさが出せるように頑張っています。 皆様、よろしくお願いします。

性別 男性
将来の夢 もちろん、職業作家です。将来を語れる程若くはありませんけどね。
座右の銘 無理はしない! 石橋はたたいて渡るものです。たたきすぎて壊してしまっては元も子もありませんけどね。

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14/03/21 コンテスト(テーマ):第五十二回 時空モノガタリ文学賞【 勇気 】  コメント:8件 gokui 閲覧数:955

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 目を閉じて何も見えず、そんな詩をどこかで聞いた覚えがあった。しかし、
それは俺には当てはまらないらしい。今、俺の眼前にはまぶしいほどの光があ
ふれている。
 公園を横断する桜並木。俺は母に手を引かれ、桜のトンネルをく
ぐり抜けていた。その先には小学校の門が待ち受けている。木漏れ日は暖か
く、母の手も温かかった。高鳴る鼓動が笑顔の源だった。俺が初めて光の中を
歩いていると感じた瞬間だった。

 受験番号の並んだ掲示板を無心で見つめていた。喜怒哀楽の入り交じった膨
大な声がどこか遠くで聞こえているようだった。規則正しく動く視線、それが
一瞬乱れた。視線は動きを止めて一点に釘付けになる。遠くで聞こえていた声
も聞こえなくなった。だが、一瞬の後に「やったー!」と大音響が俺の耳に帰
ってきた。それが自分の声だと気づく間もなく俺は跳び上がった。俺はまだ光
の中を歩いている。光はさらに輝きを増しているようだった。

 俺の所属している創作サークルに、美人で優しい文句の付け所のない女性が
入会してきた。その女性は、噂では俺の気を引くために創作サークルに入会し
たらしい。俺はその日からサークル仲間に「いつ告白するんだ?」と背中を押
される毎日を過ごすことになった。その女性から目が離せなくなった。気がつ
けば俺は自然と彼女を見ているのだ。
 告白の日は光り輝く日だった。「つきあってください」オーソドックスに告
白したつもりだった。しかし、実際に俺の口から出てきた言葉は「結婚してく
ださい」だった。一瞬の沈黙、そして「はい」という彼女の言葉、二人して声
を上げて笑った。

 彼女と入籍して程なく彼女は妊娠した。順風満帆の大学生活を送
っていた俺は、責任感という、うれしい重圧を楽しんでいた。出産日が待ち遠
しくて勉学にも身が入っていないほどだった。
 いよいよ出産の日、待つことしか出来ない男の心理というものを経験するこ
とになった。よくテレビドラマで見るような病院内をうろうろ落ちつきなく歩
き回るシーンを実践して見せた。赤ん坊の泣き声に敏感に反応する姿も実践し
て見せた。「元気な男の子です」という看護師の言葉に飛び跳ねる姿も実践し
た。俺は、家族三人分の光り輝く道を見つめていた。光は、どこまでも満ちて
いるのだった。

 目を閉じていれば光り輝く光景を見ることが出来る。それは身近であり、リ
アルだ。目を閉じて何も見えないというのは、なんて見識の狭い発想だろう
か。決してまがい物ではなく、現実の光景を見ることが出来るというのに。
 しかし、俺にはわかっているのだ。目を開けなければならない。目を閉じな
ければ見えないものもあれば、目を開かないと見えないものもある。目を閉じ
て見える光り輝く光景は、確かに現実のものであるが、それは俺の過去でしか
ないのだ。だからいつだって光り輝いている。では、目を開けるとどんな光景
が見えるのだろう。
 目を開けるのが怖かった。このまま目を閉じていればいつだって光にあふれ
た光景を見ることが出来るのに。それなのに俺の深層心理は目を開けろとどや
す。過去は帰ってこない、現在を見ろと。
 少しくらい目を開けてもいいじゃないか。そこに光がなければまた目を閉じ
ればいいのだ。うっすらと目を開けてみた。ぼんやりと白い天井が見えた。そ
して、死のにおいを感じ取った。ダメだ、ここには光なんてない。どうする?
 また目を閉じるか?
 俺が決断を下すより先に俺の深層心理が決断を下した。うめきながら大きく
目を開けたのだ。しかし、うめき声は聞こえなかった。かわりに目は眼球が飛
び出んばかりに見開かれた。
 光の中を歩くのになれてしまった俺は、甘えて、人生というものを軽視する
ようになっていた。まず、単位を落とし大学を中退した。光が一つ消えた。次
に、働こうともせず、日々だらだらと過ごす俺に愛想を尽かして妻が去った。
光がまた一つ消えた。そんな状態で一人、息子を育てていくことは不可能だっ
た。息子は施設に引き取ってもらうこととなった。光が、消えた。俺はすっか
り世捨て人となった。銀行口座は見る間に残高を減らし、日々の食料さえも調
達出来なくなった。このまま餓死してしまおう。そんな最後の選択さえも俺は
覆し、退化して体を支えるのがやっとの足を震わせながら、食料を求めて家を
出た。だが、幸い、と言って良いのだろうか、食料までたどり着くことなく力
尽きた。

 体は動かない。声も出ない。見開かれた目が捉えたのは白い天井の遙か向こ
うに見えるただ一点の光。目を閉じるな! 過去には何も意味などない。今こ
こにある現実を見ろ! そして、光を見ろ! とてもたどり着けそうもない遙
か彼方の光を見ろ! そこに俺の生き様がある。最後まで、俺の生き様を見
ろ!


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このストーリーに関するコメント

14/03/22 光石七

拝読しました。
順風満帆な人生にどう勇気が関わってくるのか興味深く読み進めていたら……
現実を直視するのは勇気がいることですね。
だけど、そこに光を見出そうとあがくことが人間らしさの証なのかもしれません。
最後の段落が力強く胸に迫ってきました。

14/03/23 gokui

 光石七 さん

 コメントありがとうございます。
 勇気という言葉は入れておりませんが、読み取っていただけてよかったと思います。これのどこが勇気? などというコメントが届くのではないかとビクビクしておりました。
 すべては最後の段落のための伏線ですので、最後の段落を評価していただいたことで安心しました。
 とても励みになりました。またコメントお願いしますね。

14/03/25 草愛やし美

gokui様、拝読しました。

現実を見ないで生きてしまった主人公が、最後にまともに世を見ることは、とても切なく、勇気がいったことでしょう。
「なあに目を瞑っていさえすれば、わからないさと」こんな若者が今の世、増えていると実感しています。ニートは、もちろんですが、働きたいとバイトを申込みながら、いとも簡単に休み、そのまま来なくなり、やがてやめてしまうというようないい加減なことを者の話を聞きました。この世界はどうなっていくのでしょうか? 年寄りの戯言と言われそうですが、現実を見つめ足掻くくらいのことが大切だと思いました。いろいろ考えさせられる作品でした。

14/03/25 gokui

 草藍 さん

 コメントありがとうございます。
 どんな若者も心の奥底では「これではダメだ」と分かっているのだと思います。その気持ちを引き出してくる勇気が足りないのでしょう。たとえ見たくないものを見ることになるとしても、思い切って目を開いて欲しいものですね。

14/04/07 かめかめ

目を開けて、はたしてその先があったのか、気になりますね〜。生きる勇気があれば、けっこう生きれるものかもしれないですね。

14/04/07 gokui

 かめかめ さん

 コメントありがとうございます。
 生きる勇気、というか、今置かれている状況に目を背けない勇気を書いてみました。その先があったのかどうかはわかりませんが、今を見ないことにはその先はありませんからね。半分は自分自身に問いかけた物語です。楽しんでいただけましたか?

14/04/16 そらの珊瑚

gokui様、拝読しました。
 
思うようにならなかった半生に目をそむけず、ちゃんと目を開いて見ることは
なかば生きることを絶望してしまった男にとって勇気のいることだったのではと思いました。

14/04/16 gokui

 そらの珊瑚 さん

 コメントありがとうございます。
 目を開かなければ、それはもうあきらめたことになってしまいますからね。たとえ1パーセントでも可能性があるのならば、勇気を振り絞って目を開けるべきですよね。

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