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クナリさん

小説が出版されることになりました。 『黒手毬珈琲館に灯はともる 〜優しい雨と、オレンジ・カプチーノ〜』 マイナビ出版ファン文庫より、平成28年5月20日発売です(表紙:六七質 様)。 http://www.amazon.co.jp/dp/4839958211

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将来の夢 絵本作家
座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

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ぼくら、ブレェイブ・ソルジャアーズ

14/03/13 コンテスト(テーマ): 第二十六回 【 自由投稿スペース 】  コメント:6件 クナリ 閲覧数:1304

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9回裏、6-5。1点リードのマウンドで、俺は額の汗を拭った。
あとワンナウト取れば甲子園だ。
俺以外の選手は、先輩も含め、並みかそれ以下。それでも、皆で甲子園を目指して、必死で練習した。
そうしたら、万年一回戦負けだったらしい我が校は、一年生エースの俺の踏ん張りの下、ついにここまでこぎつけた。
だが、ツーアウトツーナッシングながらランナー一・二塁という大ピンチ。バッターボックスには、二年生にして早くもドラフト候補の、我が県が誇るスラッガー柿小路。
今日の奴との対決は、カーブを中心に組み立て、一安打一四球、三振一つ。
これが最後の勝負だ。
まだ一度も見せていない、外角のスライダーで仕留めてやる。
俺は今年、ひたすらにスライダーを磨いて来た。躍起になって、練習した。
なぜか。それは中学の時マネージャーだった彼女に覚えたてのスライダーを見せたところ、

「すごーい、今の、『遅い直球』ってやつ!? ストレートと全く同じ軌道だったよ、完全に! ……え? スライダー? だ、だって、直球と確かに全く同じ軌道で……。そうなんだ、今のでスライダー。へー……あそう……」

あの時の、アンニュイな彼女の表情は忘れられない。
それ以来俺達は気まずくなり、とうとう別れてしまった。
その涙を糧に特訓を積み、俺はついに人並みに曲がるスライダーを身に付けたのだ。
誇張も謙遜もなく、とにかく、人並みに曲がる。チームメイトからも「おお、本当に人並みに曲がるなあ!」と太鼓判を押された。
それを今こそ、使う時。
スタンドからは、「真っ向、真っ向!」と直球勝負を求める声が響いている。
確かに俺の持ち球で、一番いいのはストレートだ。145km以上は出る。
だが言わせてもらえば、「ストライクゾーンに直球を投げ込むのが真っ向勝負で、それ以外は投手の逃げだ」、という論調には納得がいかない。
ストライクもボールも直球も変化球も含め、全てを組み立ててこそのピッチングのはずだ。それでこそ互角の真っ向勝負だ。
「まっすぐの球を、打てる所へ投げろ」などとはバッターの甘えじゃねえか。
変化球投手が“一番曲がる変化球を投げる”のは、真っ向勝負じゃねえのか?
……いや、まあ、俺は速球派なんだけども。
そりゃ、インハイの直球で勝負してえよ。
それが分かっているだけに、観客は完全に俺が直球を投げるものだと決めつけている。
しかし柿小路ならば、バットの届く所へ投げれば、どんな速球でもコツンと合わせて内野の頭を越えるのは難しくない。ここまで追い込んだのも、半ば奇跡なのだ。
そもそもランナーがいるんじゃ、セットポジションからでは直球をベストピッチは出来ない。
ここはロマンより、結果優先だぜ。
悪いが俺は、「敬遠も作戦のうち派」だからな。
しかもこの場合のスライダー勝負は逃げでも何でもない、れっきとした勝負だ。
俺は何と言われようと、チームを甲子園に連れていく。
後輩の俺にガミガミと叱咤されながら、なお意気揚々とノックを受け続けた先輩達に、俺が出来ることなど他にないんだからな。

少し間を取りたくて、俺は二塁へ牽制球を投げた。
すると、塁へ戻るランナーの向こうに、妙な物が見えた。
外野の三人がいっせいにコクリと頷くと、フェンスの方へバックし始めたのだ。
……。
あ。
ああ。
イヤイヤイヤイヤ。
違う違う。あんた方は勘違いしている。
今の牽制は単に一呼吸置きたかっただけで、決して二塁ランナーに対して「これから俺は、ランナーがいるにも関わらず目一杯振りかぶって全力投球するけど、その隙を突いて盗塁とかすんじゃねーぞ。バッターと俺との真剣勝負、茶々入れたら許さねえ」的な意図は無いから。そういうんじゃないから。
まあいいや、柿小路のバットを空振りさせればいいだけだ、外野がどこ守ろうと関係ねえ。
バッターボックスの方へ振り向くと、ベースから離れて立ったキャッチャー緑村先輩が、もっと下がれと守備陣にジェスチャーしていた。
ああコラ。
アンタか元凶は。
ショートの奥林先輩がバンバンとグラブを叩いている。いや、だから「打たせていいぞ」じゃないんすよ。俺は、これからスライダーで空振りを取るんですよ。
あんた方三年じゃん。俺はいいよ、精一杯やってだめだった悔しいです、言って来年頑張れば。
でも、あんた方の人生においては、ここで甲子園に行くかどうかって、だいぶウェイト大きいじゃん。
俺が来るまでエースだった沖谷先輩、ベンチで「直球勝負ゥ!」ゆってるけど、あんた今リリーフでここまで一度も投げてないんだから、俺打たれたら一球も投げずに高校野球最後の夏終わりっすよ?

どいつもこいつも、何のためにゲロ吐くほど練習して来たんだよ。
甲子園行く為だろ。
そうだよ、俺は直球で勝負してえよ。バレバレだろうよ。
でも、チームの栄光より、俺の勝負優先とかありえねんだよ。
俺だけは流されねえからな。一番勝つ確率の高い球で、確実に仕留める。
バッターボックスの柿小路と目が合った。
うおお、やべえ。あの野郎、「マジか。直球で勝負なのか! おお、男の中の男よ!」みたいな目えしてやがる。
それでも俺はほだされたりしねえぞ。
プレートをセットし、グラブの中でボールをちょっと転がす。
柿小路もバットを構えた。
オイ待てお前、めちゃくちゃ長くバット握ってんじゃねえか。小指なんかグリップからはみ出そうじゃねえか。完全に「三振かホームランか」じゃねえか。
いいぜ、お望みどおり、外角へ逃げる球で無様な三振をプレゼントだ。
絶対にやっちゃいけないのは、暴投だ。それは最悪だ。それだけは避けなきゃならない。
俺は、もっとも暴投しにくい、もっとも得意な形で、ボールに指をかけた。
それは、俺が投げようとしていた球種とは微妙に異なる握りだった。アレ? これ、スライダーと違うよ、俺。
まあいいか。暴投のリスクは避けなきゃな。
それから一応ランナーを、目だけ動かして確認した。
いや待てオイオイオイ、こいつらベースにベッタ付けじゃねえか。
ウチは内野手も下がってるからランナーはリードガンガン取れるくせに、あいつらもう片足ベースに乗せてんじゃねえか。

お前ら勝ちたくねえのかよ。
敵も見方も全員、勝ちたくねえのかよ。
何のために今まで練習して来たんだよ。
勝つためじゃねえのかよ。
負けたら全部終わりなんだぜ。分かってんのかよ。
俺は投げるぜ、一番、“勝てる球”をだ。
勝つのが大事なんだ。勝たなきゃ意味がねえんだよ。

ただ、ちょっと考え方を変えた。
柿小路はバットを長く握っている。あれじゃ、外角球を引っ掛けてポテンヒットを打たれるかもしれない。
なら、体に近い所を狙ってやるよ。速い球を、俺のノッビノビの剛速球を、バットの根元では打ちづれえぞ。
しかも、一番スピードが乗って、一番球が伸びる高さにぶち込んでやる。
それは、俺が一番得意な球なんだ。
内角高め。
その高さと、何よりも球威のために、キャッチャーが腰を浮かせなければ取れない、ベストピッチ。フォロースルーが大きすぎて、バント処理もできやしない、“三振用”の取っておき。
キャッチャー緑村先輩が、中腰になって深くうなずいた。「分かってるぞ。インハイ直球だって、最初から分かってた」みたいな顔で。……うん、まあ、いいやそれで。

腹を据えろ俺。
覚悟決めろよ俺。

ワインドアップした俺の両手が、天を衝いた。
足が上がり、体重移動が始まる。
ここ一番での気合から来る力みは、逆効果だ。
大事なのは、勢いではなくてコントロール。暴投は論外だし、真中へ入れば間違いなく捉えられる。正しいフォームで投げれば、球威は必ず着いてくる。
練習通りに、なお且つこれまでに無い人生最高の球を投げる。その無理難題を実現できる程度には練習して来たつもりだ。
上半身の全関節のうねりが捻れに変わり、全身のバネが螺旋状に、限界まで巻き上げられる。
そして、逆方向へ一気に解放。
踏み込んだ足がマウンドに着いた次の瞬間、砲弾のような白球が俺の指先から放たれた。
紛うこと無き、俺のMAX。
いってるね、150km。
バッターの胸元をつく、 ギリッギリのストライク。
だが、柿小路はのけぞらなかった。
むしろ、強く踏み込んできた。
上半身は肘をたたみ、窮屈なコースに対応している。
下半身は、踏み込んだ足から生じる、弾けるような運動エネルギーが、軸足の回転とともに指向性を得て、ひざへ、腰へ、肩へ、腕へ、そして――バットへ。

俺の世界から音が消えた。
ただ、スローモーションのように動くスラッガーの美しすぎる挙動が、コマ送りで俺の網膜に焼きついた。
バットとボールが正面衝突して、破滅的な炸裂音が俺の耳を叩き、音が戻った。

沸きあがる相手校の歓声。我が校の悲鳴、悲鳴、悲鳴。
一瞬の静寂。
続いて、相手校の悲鳴。我が校の歓声、歓声、歓声。

ボールは、センターの机山先輩のグラブに納まっていた。
当たりはライナーだったはずだ。やや低めのフェンスを超えて、スタンドへ突き刺さる軌道だった。
(捕ってくれた! あれを!)
時間にすれば、俺が振りかぶってからわずか数秒。
でも、俺の人生の中でもっとも濃密で激しい感情が、この一瞬で弾けて、そして通り過ぎた。

内野手全員が歓喜の表情で、俺に向かって飛び込んできた。
「勝った! 勝ったあ!」
「甲子園だよ、、甲子園!」
「お前のおかげだよ、甲子園だよ! ありがとな、マジでありがとな!」
バチバチとグラブで俺の体中が叩かれる。
キャッチャー緑村先輩のレガースが、飛び膝蹴り状に俺のみぞおちに突き刺さったが、まあいいだろう。
「別に俺のおかげじゃないっすよ。皆で練習したから、勝ったんすよ。俺一人じゃないっす、あんたたちと練習したから、俺ら、甲子園行くんですよ」
そうだよ、勝つために練習してきたんだよ。
でも、勝てばいいってもんじゃないんだよ。
けど、そう言っていいのはきっと、そんだけ練習してきたやつだけなんだ。
俺たちみたいに、さ。

さて、これからが大変なんだぜ。
まだ、もう少し、あんたたちと野球やるんだからよ。


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このストーリーに関するコメント

14/03/14 クナリ

流しのコメンターさん>
いえ、今回限りでこやつらの出番は終了です(^^;)。
高校とかの部活の感じって、すごく貴重だったなーと思います。
野球部には親しい友人はいませんでしたので、実際の空気感はわかりませんが、そういっていただけて何よりです。

14/03/14 草愛やし美

クナリ様、拝読しました。

野球やっておられたんですよね、この緊迫感、素晴らしいです。野球をあまり知らない私(球質といのか、どういうのがスライダーかがわかっていない 苦笑)ですが、甲子園の切符のかかった試合の模様に手に汗握りながら観戦した感があります。

面白かったです、ありがとうございました。

14/03/14 クナリ

草藍さん>
いえ、ぜんーーーーーーーーーぜんやっておりません(^^;)。
野球のボール握ったこともないですたぶん。
すべては、インターネットの検索機能による、にわか知識仕入れやすきことこの上もない世の中のおかげであります。
まあ、父はプロ野球好きでよくテレビで見てるのを横で見てましたんで、そのおかげで多少の知識はあるかもしれないんですけども。
緊迫感が出ておりましたか。よっしゃいな(?)。
長い割にいまいち内容もない(…ッ)話だったと思いますが、読んでくださってありがとうございます!

14/03/20 クナリ

OHIMEさん>
野球って、何かがかかっているからこそ熱くなるってものだと思うんですよね(いえまあ、勝負事全般そうですがッ)。
逆に言えば、何かがかかっているところで勝負に出るからこそ見ているほうは面白いわけで。
リアルの球児たちの葛藤は、いかほどのものなのか…。
高校のときに野球部が何かの大会で敬遠するかどうかっていう場面になったらしいのですが、自分と同級生だったピッチャーは「敬遠の練習はしてない。練習してないことはできない。ていうか敬遠するぐらいなら死ぬ。産まれてから今までの練習で、敬遠のために投げた球は一球もねえっす」みたいな事を言い張って結局勝ちはしたらしいのですが、そういうのはかっこいいなあと今でも思ってます。

朱音さん>
移り気なのでいろいろ書いているように見えますが、あまり引き出しは多くないのでワンパターンによく落ち入ります(^^;)。
SFとか歴史も書けるといいんですけどね。今のとこ無理ですね。
コメント、ありがとうございました!

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