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浅月庵さん

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勇気を食べる犬

14/03/11 コンテスト(テーマ):第五十二回 時空モノガタリ文学賞【 勇気 】  コメント:1件 浅月庵 閲覧数:1322

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 実家で飼っている犬のゴンが、老衰で死んだ。
 気弱でイジメられっ子で友だちのいない僕の元にやってきたゴン。僕たちが初めて出会ったのは、僕が小学三年生の時だったかな。僕はゴンと友だちになれるのかドキドキで、同時にワクワクもしていた。
 だけどお父さんが「ゴンのご飯はね、勇気なんだよ」と言った瞬間、体が固まってしまう。 僕の名前は優喜だから......ゆうきがご飯って、僕のこと?と思わず聞いてしまう。
 するとお父さんは「あはは、ごめんごめん。こっちの勇気だ」と言い、拳を作ってファイティングポーズをとる。
「こっちの勇気?」僕もポーズを真似してみる。
「そうだよ。強い者に立ち向かう勇気。弱い者を守ってあげるための勇気。それがゴンのご飯なんだ」
「へー! 変わった犬だね」僕はその時、お父さんの言っていることの真意を、当然ながら分かっていなかった。
 家族になったゴンをお父さんもお母さんも目一杯可愛がっているし、僕もゴンのことがすぐ好きになる。ゴンといると自然と笑顔が溢れ出てきた。

 ある晴れた日曜日。僕は朝ご飯を食べてジャンパーを羽織る。
「一人で行くなんて危ないんじゃない?」お母さんが心配そうにする。
「一人じゃないよ。ゴンもいる」
 僕は今日、ゴンと散歩という名の冒険へ出かけることにしたんだ。いつもだったらお母さんかお父さんが付いて来るのが当たり前だったんだけど、今日はゴンと二人きりだ。
「優喜、気をつけるんだぞ」お父さんが言う。
「わかったよ、行ってきます!」お父さんもお母さんもいないなんてちょっぴり不安だけど、僕は勇気を振り絞って玄関を飛び出す。すると、ゴンが嬉しそうに吠える。
 そのゴンはまるで、なにかをパクパク食べているように見えて、ふとお父さんの言葉を思い出す。
「ゴンは、朝ご飯食べたのに“勇気”も食べちゃうんだね」僕が笑顔でそう言うと、ゴンはワンと返事をする。
 さぁ、今日はゴンと僕の冒険だ! いつもの散歩コースよりも、もっと遠くの......そうだ。ニコニコ公園まで行ってみよう。お母さんと一度行ったことがあるから道は分かるけど、結構遠かった気がするな。
 僕とゴンは歩き出す。ゴンは元気いっぱいにスタスタ歩いて行くし、負けじと僕もそれに付いて行くけど、すぐに疲れてしまう。
 ゴン、ちょっと速いよ。ごめんごめん、ちょっとペース落とすからさ。うん、頼んだよ。
 最近なんとなくゴンの言っていることがわかるようになった気がする。
 斉藤さんの家の前に辿り着く。いつもの散歩コース通りならここは左に曲がるけど、今日はニコニコ公園に行くって決めたんだ。だけど、疲れちゃったな。
 ゴンが僕の顔を見上げる。僕もゴンの顔を見つめる。
 引き返すなら今の内だけど......よし! 僕がニコニコ公園行きの道へ歩き出すと、またゴンはワンワン喜んでパクパク勇気を食べる。

 そうやって疲れながらも順調に前へ前へ進んでいた僕は、よりにもよって一番会いたくないやつに遭遇してしまう。
「おい、優喜! なんだよ、その犬」同じクラスの貴司だ。「な、なんでもないよ」僕はさっさと歩き出そうとするけど、貴司はそれを阻止する。
「お前の飼い犬なんだな。俺によこせよ!」貴司は無理矢理僕の手からリードを取ろうとする。乱暴者の貴司は、いつも僕のことをイジメる。だから嫌いだ。
 いつもなら僕は貴司の言うことに従うし、持ってる物が玩具とかならすんなり渡す。だけど、今日は違う。
「やめろよ!」僕は初めて貴司に歯向かう。「ゴンは僕の友だちなんだ! 乱暴するな!!」自分でも驚いた。気づいたときに僕の口からは怒りの言葉が溢れ出ていた。
「なんだとー!」怒った貴司と取っ組み合いの喧嘩になる。喧嘩なんて初めてだけど、僕は貴司にゴンを譲る気なんてさらさらない。
 僕と長い間取っ組み合いをして疲れ果てた貴司は、ようやく諦めて帰って行くし、僕は服も顔もグチャグチャで大変な格好をしているけど、胸の中には大事な親友を守れたという充実感で満たされていた。

 今なら思い返すと分かることだけど、ゴンは勇気を“食べる”犬じゃない。それは、父親が気弱な僕を変えさせようとする為についた嘘だったんだ。ゴンのやつ、普通にドッグフード食べてたし。
 でも、道に迷いそうになる時、悪いことを悪いと言えそうにない時、僕は貴司からゴンを守り切れた時のことを思い出す。すると、自然と内から力がみなぎってくる。
 きっと、ゴンは勇気は食べないけど、僕に勇気を“与えてくれた”犬ではあったんだと思う。

 ーー今度、僕は結婚する。もし子どもが出来たら、その子に一生の友だちを連れて来てあげてもいいかもしれない。
 その友だちもきっと、ゴンみたく僕の子どもに勇気を与えてくれるような気がする。そんな気がしてならないんだ。


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このストーリーに関するコメント

14/03/24 gokui

 読ませていただきました。
 子供が出来たら犬を飼え、って言葉がありますが、まさにそれですね。生き物とふれあうことで身につく力っていうのを感じ取ることが出来ました。

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