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クナリさん

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将来の夢 絵本作家
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47分後から今も続く誰そ彼

14/03/11 コンテスト(テーマ):第五十三回 時空モノガタリ文学賞【 太陽のせい 】 コメント:6件 クナリ 閲覧数:1868

時空モノガタリからの選評

年上の謎めいた女性への恋の物語であると同時に、思春期の少年の戸惑いと成長のストーリーのようにも思えました。出会いと別れの場面で、背中合わせになった筐体で、格闘ゲームで対戦をする2人の姿は、彼らの関係を象徴するようでした。2人は表裏一体、どこか重なる部分をもちながらも、互いの姿を見ることをしない、できない関係なのではないかと思いました。彼女は「強烈な太陽」であり、夫を「絶命」させてしまうような強烈な個性をもち、それだけに強力な光を放って彼の目をくらませますが、彼女を直視することは、彼女に呑み込まれてしまうことにつながり、それはきっと「僕」にはまだ荷が重いことなのかもしれません。最後、ゲームセンターでの姿の見えない再会のあと、彼女の『代わりにプレイを始め』る「僕」の姿は、強烈な光で見えなかった彼女に呑み込まれる代わりに、彼女の抱える影を、彼自身が引き受けて生きていく姿のように思えました。

時空モノガタリk

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ゲームセンタが、友達一人いない、高校一年生の僕の居場所だった。
僕が気に入っていた対戦格闘ゲームは、誰かが一人でCPU戦を遊んでいる時に、背中合わせに置かれた筐体の向こう側から、他人が乱入して対人戦を遊べる仕様になっていた。
中学の頃からこれまでに何百回も勝負を挑まれ、殆どを返り討ちにした。最後に負けたのがいつだかも忘れた。
これに飽きてしまったら、何をして寿命までの暇潰しをしようかと、よく悩んだ。

そんな僕がある日、油断も手加減も無く、こてんぱんに負けた。
少し呆然とした後、筐体の向こう側を覗いてみた。
そこでレバーを握っていたのは、淡い青のワンピースに、細かい刺繍の白いジレを羽織った、二十代半ばの女の人だった。
セミロングの髪に、落ち着いた表情が似合っている。格闘ゲームのボタンに不似合いな指は、細くて白かった。
「強いじゃない」
彼女がそう言った。
「完敗でしたが」
彼女が吹き出す。
「ごめんなさい。君のそれ、悔しい表情? それが凄く、好ましかったものだから」

そんな出会いから、やけに気が合うことが判明し、僕達は外で会うようになった。
自分の絶対的な得意分野において僕を圧倒する彼女は特別な存在だったが、その特別さを勘違いされたくなくて、僕は意図的にそっけない態度をとった。
それでも出会って一ヵ月後には、何階あるのか分からない程の高さの、彼女のマンションの部屋に入れてもらった。確か、彼女の荷物運びを手伝った時、お茶でもどうかと言ってくれたのだったと思う。
「もっと、オタク臭い部屋かと思ってました」
「家には、ゲーム機は置いてないの」
それでなぜあんなに強いんですか、と訊く代わりに、僕は彼女に唇を重ねていた。自分の感情を勘違いしていたのは、僕だった。
彼女は僕を責めなかったが、それ以上は許されないことも分かった。信頼と油断に付け込んだ自分は、屑だと思った。
なぜか、彼女が謝った。
慰めに僕の髪を撫でる彼女の、左手の薬指に光る指輪は、その高級そうな輝きが苛立たしかった。

それからは自分の制御を失わないよう、密室で二人にならないように注意して過ごした。
明るい喫茶店で今後のゲーム界について語り合い、その後ゲームセンタでよく勝負した。大抵、僕が負けた。
彼女の夫はいつも帰りが遅かったが、稀にそうでない時もあった。彼女から「今日は出られない」とメールが入ると、僕は自分の居場所が分からなくなった。
事情は知らないが、二人は憎み合いこそすれ、愛し合ってなどいないのに別れられないことは、彼女が隠そうとしても充分に伝わって、余計にいたたまれなかった。

冬のある日曜日、彼女からメールで、珍しくマンションへ呼ばれた。
インタフォンを鳴らすと、外出着の彼女がドアを開けた。傍らに大きなトランクがある。
「しばらく出掛けるの。……当分、会えないと思う」
見たことの無い彼女の表情が、僕の直感を叩いた。
「トランクの中身は、旦那さんですか」
一拍後、彼女はいつも通りの顔になり、
「君はやっぱり変わってるね」
と答えた。
「ゲーム好きの高校生なんて、予断で生きてるようなものなんですから。いつ、絶命したんです」
「ちょうど、47分前。知ってたら止めた?」
「ええ。僕は47分も、他でもないあなたに、間に合わなかったんですね」
「通報する?」
「あなたといると、僕は目が眩むので、何も見ていません。目が慣れる前に、さようなら」
「うん」
ドアが閉まる瞬間まで、彼女の笑顔は続いていた。
それが、僕が彼女を見た最後だった。

一組の夫婦の失踪は少しの間ニュースとなったが、その後彼女(達)が見付かったという報道は無いまま、夏が来た。
日曜の昼、長く訪れていなかったあのゲームセンタに入ったのは、気紛れだった。
かつてやりこんだ格闘ゲームが隅の方でうら寂しく、それでも稼動していた。
懐かしさに、背中合わせになった筐体の一方へ座り、コインを入れる。
すぐに勘を取り戻した後、画面に挑戦者乱入の表示が踊った。
悪いが、このゲームでは負けない。
だが、僕の密かな意気込みと裏腹に、僕のキャラクタは瞬く間に屠られた。ブランクなど関係ない、油断も手加減も無い完敗。
ゆっくりと立ち、僕は呆然と筐体の向こう側を見た。
そこは、既に無人だった。
出口の方で、自動ドアが開閉する気配がする。
僕は駆け出した。
薄暗い店内から快晴の外へ。強烈な太陽のせいで、視界が白く染まる。
瞳孔が明順応した時、路上を行き交う雑踏に、見知った顔は無かった。
胸を押さえ、息を鎮めて、筐体の前へ戻る。
ついさっき僕を倒して勝ち抜けした相手のキャラクタが、CPUに一方的に嬲られていた。
僕はそこへ座り、誰かの代わりにプレイを始めた。

椅子とレバーにはまだ温もりが残っていて、黄昏の陽だまりのように温かかった。


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このストーリーに関するコメント

14/03/11 朔良

クナリさん、こんばんは。
拝読いたしました。

47分後からずっと、主人公の僕の目は眩み続けていたのでしょうか。
顔を合わせない再会で瞳孔が明順応するまで…した後も? そう思うとなんだか切ないです。

14/03/12 かめかめ

目が慣れる前に帰っちゃう主人公がチョットこわい

14/03/13 クナリ

朔良さん>
今もずっと、眩暈の最中と思われます。
何らかの決着がつくまでは、まぶたの裏から彼女が消えることはないのでしょう。

朱音さん>
出会いの妙は、いいことも悪いこともその時点で決めてしまう、無情なものですね。
互いにのために気を使いあう二人には、きっとわかりやすく暖かい幸せは縁のないものなのかも…。

流しのコメンターさん>
ゲームは好きですがど下手な自分。格闘ゲームとはそんなに面白いものなのかと、何度かチャレンジしましたが、乱入者様たちに瞬殺されまくって心がへし折れました。
必殺技とかまるで出せませぬ。
エンディングはどこで切り取るか悩みましたが、よい終わり方だったでしょうかッ。

かめかめさん>
この主人公は確実に変態なので、一般人はこのようなヤツバラを許容してはいけませんね。
学校ではいい子だったりするんですけどね。友達はいないけど…。

14/03/20 クナリ

OHIMEさん>
対人関係で、目がくらんで(あばたもえくぼみたいな)しまうことを自覚している主人公の状態と、物理的に強い光による瞳孔の順応のタイムラグとを盛り込んで、『太陽のせい』でありました。
まあ、この二人は会いたくて会いたくてしょうがないんでしょうが、会ったら駄目なこともよく分かっているので、きっと会えないまんまですね。
ゲームセンターでの出会いというのは、リアルでありえるんですかねー…というのは書いておきながら気になるところ(^^;)。

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